DebtNet通信 (vol.7 #6)  
「IMFはアイデンティティの危機に直面」
2008年1月3日

 2007年9月29−30日付けの「」ヘラルドトリビューン』紙によると、「IMFは長い間、グローバルな金融制度の守護神を自称し、10年前までは、ラテンアメリカ、ロシア、そしてアジアを襲った金融市場の崩壊に際しては、最後の融資機関としてふるまってきたが、今日では、IMFは重大なアイデンティティ危機にみまわれている」という。
 1990年代、IMFが救済した国ぐにの多くは、すでに債務を返済し終わった。そのために、IMFの融資額が縮小するにつれて、これまで途上国政府の指南役を勤めてきたIMF自身が運用資金難に陥ったばかりでなく、赤字経営になってしまった。
 現在では、スタッフの解雇や賃下げ、保有金塊の売却せざるをえなくなった。
 フランスの元蔵相で現在IMF専務理事に就任したばかりのシュトラウス・カーンは「問題なのは、世界の金融の安定を保証する最大の機関、つまり「グローバル公共財」としてのIMFの存在が問われていることである」とIMF理事たちに述べた。彼は、ブッシュ大統領のバックアップを受けたのだが、同時に「IMFは優先順位とガバナンスを再考すべきだ」というブッシュを含めたグローバルな声の最中に、専務理事の職についたのであった。
 より本質的な問題は、為替レートが固定され、資本が規制されていた1040年代にIM設立されたIMFが、現在のように何兆ドルものカネが毎日、国境を超えて動いているような時に、IMFが果たすべき役割があるかという疑問である。IMFには、3000億ドルの準備金と信用金しかないので、大規模な危機が起こったときに対処できない。
 前専務理事のラト氏は、債務危機の国を救済するというIMFのこれまでの役割に加えて、これからは、途上国に危機回避の政策をとらせ、さらに、グローバルな経済をモニターし、技術的な援助をすることに優先順位をおくべきだ」と語った。
 シュトラウス・カーン氏が最初に手をつけなければならないことは、IMFの予算の建て直しである、と解雇と賃下げに脅かされているスタッフはいう。IMFは1億300万オンス、すなわち280万キロの金塊を保有しており、これは700億ドルにのぼる。これを予算の赤字を埋めるために売却する予定である。しかし、金の売却は問題である。IMFのドナーたちは、金塊を所有しているのはドナー国であり、IMFではない、という。
 IMFが抱える問題には、金の売却問題に加えて、専務理事の選任問題がある。アジア、ラテンアメリカ選出の理事たちは、かつてIMFに救済され、経済政策において指示されたのだが、現在では、有り余るドルの準備金を抱え込んでおり、もはやIMFの融資や指示を必要としていない。そこで、この空気を察したロシアは元チェコの首相であったJosef Tosovskyを専務理事候補として推薦した。ロシアのAleksei Mozhin理事は、「カネが欲しければ、言うことを聞け、といったこれまでのIMFのやり方はもはや通用しない」と語った。
 2006年、IMFは米国の支持を得て、中国、韓国、トルコ、メキシコの投票権を拡大した。そして、その他の新興国の投票権の拡大も検討中である。ブッシュ大統領は、これらの国の投票権を増やさなければ、IMFから脱退するのではないかと恐れている。
 ブッシュ大統領の不満は、IMFが中国の為替管理を矯正しない点である。Henry Paulson Jr.財務長官は中国が元の低レートを維持するためにドル買いを続けていることを非難している。元安が中国の米国への輸出を増やしている。
 米国とヨーロッパの圧力で、ラト専務理事時代、中国の通貨介入を辞めさせるためのパネルを設けた。一方、ヨーロッパに対しては経済の規制緩和を、米国に対しては財政赤字を辞めさせるようにという圧力をかけている。