DebtNet通信 (vol.7 #17)  
南アフリカ黒人のアパルトヘイト賠償訴訟
2008年8月2日


 米国には、20年以上も前から、Alien Tort Claims Act(外国人不法行為賠償法)」という法律がある。これまで米国の法廷にこれを援用した訴訟が100件余り起こっている。
  まず、パラグアイで、拷問の被害者の訴訟からはじまった。そして、2003年、ついにビルマ(ミャンマー)の村民が米石油会社UNOCALを相手取り、ブッシュ政権に対する裁判に勝利して以来、この件の訴訟は頻繁になされてきた。
 さる7月8日、ニューヨーク南地区法廷のJohn Sprizzo判事の元に、南アフリカ黒人がアパルトヘイト時代に南アフリカに投資していた米多国籍企業に対して4億ドルの賠償を求める訴訟案件が回ってきた。
 それは、ロベン島(マンデラが入れられていた監獄島)の政治犯であり、現在はUKZNの名誉教授であるDennis Brutusが原告になっているが、ケープタウンの学者Lungisile Ntsebezaをはじめ Khuluman Support Group、南アフリカ・ジュビリーなど南アフリカの幾千の黒人の声を代表している。
 ブッシュ政権は、南アフリカ政府に対して、この訴訟に反対するよう圧力をかけた。そこで、2004年末、Sprizzo判事は、このケースを被告である多国籍企業に有利な採決をくだした。その理由として、判事は「外国人不法行為賠償法が米国の対外政策と南アフリカ国内の経済政策に違反する」ということを理由にした。
 しかし、昨年10月、原告側が「Sprizzoの論理は間違っている」と主張して上告に勝利した。今年5月、米最高裁は、多国籍企業側に立って、訴訟を却下するものと思われていたが、最高裁判事の中の4人の判事が南アフリカに投資いた企業の株を所有していたことが判った。これは「利害の対立」と見なされ、判決に参加できない。
 そこで、この訴訟は、ニューヨーク南区法廷のSprizzo判事に差し戻された。原告側の南アフリカ人弁護士Charles Abrahamsは、「全体として、これは国際人権運動の大勝利である」と語った。
 ヨハネスブルグの南部アフリカ訴訟センターのNicole Fritz代表によれば、「企業自身が人権侵害の当事者でなくても、抑圧政権との取引を通じて共犯者となり、当該法にもとづく告訴の対象となる」と述べた。

 今後、訴訟の対象となるのは、軍事独裁政権下のビルマ、あるいはムガベのジンバブエでの利益追求の商行為などである。
 たとえば、去る6月、ジンバブエのムガベ政権が、再選のためにZANU-PFの民兵を使って反対派を殺害、拷問しているとき、そして南アフリカのムベキ大統領がそれを黙認していたとき、AbgloPlatsがジンバブエの有利なプラチナ鉱山に4億ドルの投資を発表した件などである。

外国の企業がアパルトヘイト政権やその軍隊に対して、武器や弾薬、軍事技術、運送燃料などを供給してきた結果、南アフリカの多数派(黒人)に対して、最も恐ろしい罪を犯した場合。アパルトヘイト政権に対して武器や弾薬を納入してきたReinmetall Groupなど。
 軍隊に燃料を供給してきたBP、シェル、シェブロン・テキサコ、エクソン・モービル、Fluor Corporation、トタル、FINA−Elfなど。軍隊に運送を提供してきたフォード、ダイムラー・クライスラー、GMなど。
 南アフリカ政府に対して、最も必要とされた軍事技術を提供した富士通、IBMなど。
 アパルトヘイト政権が必要としていた資金を融資したBarclays、 Citibank、 Commerzbank、 Credit Suisse、Deutsche、Dresdner、JP Morgan Chase、UBSなど。

 ムベキ大統領は、1994年以前、国外に亡命していたANCのリーダーの1人であったときには、彼は「多国籍企業は南アフリカから投資の撤退」を要求していた。
 しかし、2001年、ダーバンで開かれて国連の反差別世界会議では、「米国は大西洋越しの奴隷貿易の責任と賠償を負うべき」とした文言にナイジェリアをはじめアフリカ諸国は賛成したにもかかわらず、ムベキ大統領は反対した。一方、2003年4月、ムベキは「わが国の未来にかかわる事項を外国の法廷に訴えることは容認できない」と語った。
 南アフリカのAlec Erwin公共事業相は、「南アフリカ政府は訴訟に反対するものであり、また不愉快である」、そして「アパルトヘイトに手を汚した企業に対する調査は認められない」と語った。
 2003年7月、当時の司法相Penuell Maduneは米国の法廷で、「この訴訟は南アフリカの不安定要因となる」と証言した。しかし、ダーバンの国連反差別会議の席で南アフリカ・ジュビリーのBerend Schuitema代表が「Maduneから驚くべき告白を聞いた」と語った。「彼がなぜ訴訟に反対したかというと、それは米国務長官であったパウエル長官から訴訟について質問されたので、文書にして返事をすると、パウエルがそのことを法廷で証言せよと言われたからだ」と言ったと報告した。
 しかし、原告側の証人として出廷したノーベル賞を受賞したツツ大司教、スティグリッツ教授ともに、南アフリカの不安定化につながるとした分析は「全く根拠がない」、そして「アパルトヘイト制度を支持し、人権侵害に協力したものは罪に問われるべきだ」と法廷で証言している。

 このような訴訟には、原告間の対立があると、世論の支持を得ることは難しい。外国人不法行為賠償法による
 最初の訴訟ケースは、ニューヨークの不評判な弁護士によって起こされた。彼は、ホロコースト関連の示談で80億ドルを勝ち取った。しかし、この弁護士はすぐにケープタウンの学者Ntsebezaとともに消えてしまった。
Khulumani Support Groupと南アフリカ・ジュビリーとの間にも訴訟の主導権と戦略をめぐって対立が起こっている。また、ジュビリーの元ヨハネスブルグのスタッフと理事や地域代表との間にも対立が起こり、一時的にだが、運動が停止している。
 Brutusは、依然として、原告側がムベキを動かすことが出来ると信じている。
アフリカ統一機構(OAU)は1993年、「奴隷、植民地主義、新植民地主義に反対するアブジャ宣言」の中で、賠償問題を明記している。アフリカが受けた打撃は、過去のものではない。それはハーレムからハラレに至る現代アフリカ人の中に、ギニアからガイアナまでの黒人経済の中に、そしてソマリアからスリナムに至る黒人社会のなかに見ることができる。アフリカ人に対する道徳的な債務は金銭的な支払いと債務帳消しのよって支払われるべきだ、と述べている。
南アフリカは自身の外国人不法行為賠償法を作るべきだ。それは、えこひいき資本主義、資金海外逃亡、法人税削減、腐敗した武器取引、鉱山業に対する安価な電気の供給などムベキ政権に巣くっている悪から解放されねばならない。それは、2009年大統領選挙に懸かっているだろう。