DebtNet通信 (vol.6 #9)  
「日本財務省だけがウォルフォビッツ総裁支持を表明」
2007年5月17日


 今年3月にワシントンのNGOがウォルフォビッツ総裁のスキャンダル文書を手に入れ、それを『ワシントン・ポスト』紙にリークした。以来、世銀総裁のスキャンダル事件は、世界のマスコミの取り上げる大事件に発展した。これは、すでに日本のマスコミも取り上げているので、良く知られている事実なので、私はあえてこの通信に取り上げてこなかった。
 要約すると、次のようになる。2005年、ブッシュ大統領がネオコンNo.2のウォルフォビッツ国防次官(No.1はチェイニー副大統領)を世銀の新しい総裁として任命したところからはじまる。彼には、世銀の中東担当のスタッフ、Shaha Ali Rizaというガールフレンドがいた。
 世銀の規定では、彼が総裁になるとRizaはその部下になるので、「利益の対立」になる。そこで彼女を国務省に出向させようとした。彼女はこれを承知せず、ウォルフォビッツを告訴すると脅かした。そこで総裁は、彼女を国務省内の高い地位につけ、さらに年収190,000ドルという破格の給料を含む「慰謝料パケージ」を約束した。Rizaの年収は、国務長官のライスの年収150,000ドルを上回るもので、これは世銀から支払われている。
 ウォルフォビッツ総裁は、これまで世銀が「ミレニアム開発ゴール(MDG)」の達成のため、貧困根絶のプロジェクトに融資する政策を転換して、ネオコンの持論である途上国の政府の「腐敗一掃」を優先させることを主張した。このウォルフォビッツの「腐敗との闘い」とは、いいかえれば、彼、すなわちブッシュ政権の気に入らない国には、融資をしないというもので、就任早々からMDGの達成を優先するヨーロッパや途上国の理事と対立してきた。これに、世銀のスタッフたちの総裁にたいする不満も重なって、総裁対理事/スタッフの連合軍との対立が続いていた。
 ウォルフォビッツのスキャンダルはこのような世銀の政策をめぐる対立が背景にあった。
 最近、世銀内に設けられた倫理委員会の報告書が出た。ここには、ウォルフォビッツが世銀の規約に違反して、えこひいき主義の罪を犯したという告発がなされた。
 4月半ばから世銀理事会は、ウォルフォビッツ弾劾の動議をめぐって揉めていた。24人の理事の中で、米、カナダ、日本の理事3人だけが総裁を支持し、残りのヨーロッパと途上国の理事という多数派は、「辞任勧告」を出すことを主張した。
 そもそも、理事会には総裁を罷免する権限はない。しかし、理事会が総裁は「不適格」であるため「辞任」を勧告することが出来る。これまでの2ヶ月間、理事会は何回もこの問題を議論するのを延ばし、ブッシュ大統領が辞めさせる決断を下すのを待ってきた。
 しかし、任命責任を取らされるのを恐れたブッシュは、ウォルフォビッツを擁護し、またウォルフォビッツのほうは、02年にエンロン社幹部の辣腕弁護士として名をはせたRobert Bennett を雇い、「辞任しない」と抵抗している。
 昨日、米財務長官のシニアな側近Henry Paulson Jr.が、日本、カナダ、ヨーロッパの財務大臣と緊急電話会議を開いた。
 その結果について、昨日、ホワイトハウスのスノー報道官が記者会見で、「日本を除くすべての財務大臣がウォルフォビッツの総裁辞任を主張した」と述べた。明らかに、今回はカナダもヨーロッパ勢に加担して、辞任派に傾いたようだ。
今や、ブッシュと日本だけがウォルフォビッツを支持していることになる。