DebtNet通信 (vol.6 #3)  
「ネオコンの世銀総裁孤立か」
2007年3月23日

 2年前、ウォルフォンセンの後任として、ブッシュの推薦で、米国防次官だったポール・ウォルフォビッツが世銀総裁に就任した。1944年創立以来の不文律で、世銀総裁は米国人に決まっていた。60年代、同じくケネディ政権のマクナマラ国防長官が世銀総裁に就任したことがある。
 ウォルフォビッツはネオコン・グループのナンバー2であり、イラク開戦の主導者である。すべてを軍事力で解決しようとするネオコン(新保守主義)は、途上国への世界最大の開発融資機関の長としては最もふさわしくない人物である。
彼が就任して以来、24人で構成される世銀の理事会では、ヨーロッパ、中国などの途上国の理事との間で、確執が続いてきた。そして今年1月に開かれた世銀の理事会では、非公開であるはずの議事録が、米国の右翼のFoxテレビにリークされた。これは、世銀理事会の「塹壕戦」というタイトルがつけられ、熱い舌戦の模様が明らかになった。
 大まかに言って、ウォルフォビッツ総裁が、ネオコンの理念として、途上国の腐敗撲滅を最重要課題とするのに対して、ヨーロッパ、途上国の理事たちは、ミレニアム開発ゴールの貧困根絶を最重要課題としている。
 3月に入ると、世銀の「第2の窓」といわれる国際開発公社(IDA)への拠出金をめぐって、理事会の中の対立は顕在化した。IDAは、貧困国に対して無利子で、50年間という長期の融資をする。そのための資金を先進国政府から3年毎に無償で拠出してもらわねばならない。ある一定の期間、これを続ければ、やがてIDAは、貧困国から返済される資金でもって、自力で融資金を賄うことが出来るという仕組みであった。この仕組みは、90年代後半に完成し、IDAは自己資金から融資することが出来るはずであった。
 しかし、ジュビリー・キャンペーンが暴露したように、貧困国の返済不可能な重債務の大半は、IDA債務であった。つまり、IDAは返済不可能なプロジェクトに融資したのであった。これはIDAの責任であるということになって、昨年、世銀はこのIDA債務の帳消しを行なった。IDAはこの債務帳消しの資金をIDAから出した。
 その結果、IDAは、再び先進国からの拠出金に依存せざるをえなくなった。
しかし、ウォルフォビッツ総裁は、先進国、とくに英国に対して、納得のいくIDAのビジョンや戦略を提起できなかった。そればかりでなく、IDA融資の対象として医療保健、教育の向上に当てることを拒否さえした。
 今年3月5〜6日、パリで開かれたIDAのドナー国会議は、第15次IDA拠出金を協議した。ウォルフォビッツ総裁は、ドナーたちに第15次分として、向こう3年間に総額250億ドルの拠出金を要求した。ちなみに第14次分は180億ドルであった。したがって、今回はこれまで最高の拠出額となる。
 ヨーロッパのドナーたちは、今年はじめから、それぞれの国のNGOから、IDA拠出金を武器にしてウォルフォビッツ総裁に対して、(1)IDA融資に条件をつけないこと、(2)貧困根絶のための融資をすること、(3)化石燃料開発に融資しないことなどの要請を受けていた。
 『ファイナンシャル・タイムズ』紙によれば、世銀のスタッフたちは、「多分、拠出金は、250億ドルの水準に達しないだろう」と悲観的であり、もし、集まらねば、「IDAは危機に陥る」との観測がある、と報じている。
 IDA融資に関して、もう1つ争点がある。それは、(1)貧困国の「パーフォーマンス(開発の結果)」をもとに融資するのか、あるいは、(2)人間開発指数(HDI)による「ニーズ」をもとに融資するのか、というものである。これには、開発の結果は長期にわたって評価しなければならないが、HDIは現在の状態を表している、という時間差がある。
 これまで世銀は、「パーフォーマンス」評価を取ってきたのだが、これにはしばしば外的な要員が抜け落ちている。貧困国は、モノカルチャーの一次産品の急落といった国際市場の変動に大きく左右される。
 IDA融資の対象国に関しては、半分以上をサハラ以南のアフリカに向けることという合意があったが、これまで、1度も達成されなかった。
 IDAは、以上のような難問をすでに抱えているが、その上に、ウォルフォビッツ総裁対ヨーロッパ・途上国連合という対決を抱えている。ネオコンを総裁に任命したブッシュ大統領の任命責任が問われるところである。