DebtNet通信 (vol.6 #10)  
「G8サミットに向けて独英米ジュビリーの取り組み」
2007年5月19日


 来る6月7〜8日、ドイツのハイリンゲンダムでG8サミットが開催される。
開催国ドイツのメルケル首相は、「G8サミットの最大の議題は地球温暖化対策である」として、「債務問題は議題に上っていない。
 なぜなら、重債務貧困国(HIPCs)の2国間債務については、99年のケルン合意(ただし日本だけは2002年12月10日に発表した)によって100%帳消しになっており、のこりの多国間債務は、05年のG8サミット決議に基づいて、IMFが05年中に、世銀が06年に100%の帳消しを実施した」として、「債務問題は解決ずみ」だと解釈していることがわかった。
 一方、ジュビリー2000やジュビリー・サウスなどの債務帳消し運動側は、「不法な(Illegitimate)債務の帳消しキャンペーン」を開始している。これは、IMF・世銀が規定したHIPCsに入らなかった途上国(中所得国)の債務の中で、独裁者のポケットに入ったもの、計画がずさんで失敗したプロジェクトへの融資、あるいは円借款など円高になって膨れ上がった、モノカルチャーの輸出品が値下がりした、など外的なショックによって債務が増大した債務で、これを帳消しにせよという。
 ジュビリーが要求していることは、債務国で債務の監査を行って、不法な債務を確定し、その部分を帳消しにせよ、というのである。すでに、ブラジルでは、9月に「不法な債務の監査」についての民衆による国民投票を行う準備をしている。またエクアドル政府は、不法な債務を調査し、解決政を提言する「国際的専門家パネル」を設置し、最近その答申が出された。
(DebtNet通信Vol.6 No.7を参照)
 またジュビリー・サウスは、もし債権者が不法な債務の帳消しを認めないならば、債務国は「不払い」宣言を行うべきだと主張している。

英国ジュビリーのブラウン蔵相に対するロビイ活動 

 最近、ザンビアの債務を「はげたかファンド」が襲うという事件が起きた。(DebtNet通信Vol.6 No.2を参照)
 2ヶ月前、これはロンドンに本拠を置くDonegal Internationalが、ルーマニア政府がもっていたザンビアの債務を買い叩いて380万ドルで購入し、ただちにロンドンの王立裁判所に、「ザンビア政府は、この債務の名目価格1,500万ドルを支払え」と提訴した。その判決は、4月24日にAndrew Smith 判事は原告のはげたかファンドの勝利に終わり、ザンビア政府は1,550万ドルをDonegalに支払わねばならないことになった。
 ザンビアにとって、この1,500万ドルは、先にIMF・世銀の債務帳消しから受けた額の3分の1に上る。つまり、HIPCsの債務帳消しによって最も儲けるのは、はげたかファンドということになる。本来ザンビア政府は、この資金を教師の新規募集に充てることになっていた。
 ザンビアにようにはげたかファンドに告訴されている途上国政府の数は44カ国にのぼる。
 ザンビアのジュビリーは、「はげたかファンド危機」声明に国際署名を呼びかけている。
http://www.jctr.org.zm/vulturefund.html

 この問題をめぐって、英のジュビリーが、政府に対して抗議運動を起こした。ブラウン蔵相は、ハイリンゲンダムのG8サミットで、はげたかファンドについて、「行動規範」を提起することを約束している。これは、ニューヨークやロンドンの民間金融機関に対して、途上国政府の債務を買う場合、債権者の多数が所属するグループ(パリ・クラブやHIPCイニシアティブなど)との「共同行動」とHIPCイニシアティブの条件に整合性を持つことを義務づける文書に署名させるようにするという、しかし「非強制的な」行動規範である。しかも、これは、すでに購入している債務には当てはまらない。
 またブラウン蔵相は、アフリカ開発銀行がHIPCsの債務国政府に対して財政的支援をすることを提案している。ブラウン蔵相は、5月18〜19日、ポツダムで開かれるG7蔵相会議に「はげたかファンドの規制案」を提起するという。またブラウン蔵相は、民間の金融機関に向けた「責任ある融資の憲章」(これはすでに途上国のG20が提案しており、来る11月に南アフリカで開かれるG20サミットで議論されることになっている)を提案しようとしていると、5月10日の下院で発言した。
 しかし、これらが、ポツダムの蔵相会議のコミュニケに文章として入れられるのかははっきりしない。しかし、憲章草案はハイリンゲンダムのG8サミットまでに起草されるとしている。
 ジュビリー側は、ブラウン蔵相が問題の所在を認識していることを評価しながらも、行動規範や憲章は強制力を持ってものにするべきだと要求している。
 ブラウン蔵相は、リベリアのようにHIPCイニシアティブによる決定点に達していない国に対して、「債務削減基金(Facility)(DRF)」を使って、債務帳消しを行うと提言している。しかしDRFはODAの枠から出されるので、債務帳消しにODAを充当しないという99年のケルン合意に抵触する。

ドイツのジュビリーのロビイ活動

  5月14日、ドイツの各種のNGOが、ハイリンゲンダムG8サミットに向けて、メルケル首相に90分間面会した。そのときの議題は、気候変動から始まってアフリカ、世界経済に及んだ。この中で、ドイツ・ジュビリー(Erlassjahr.de)を代表してJurgen Kaiserは、「はげたかファンド」問題を提起し、将来Sheehan & Cie を模倣する「はげたかファンド」が出てこないように、即刻対策を打ち出すべきだとし、さらに、何らかの国際的な「債務の秩序」を創設する必要性を訴えた。
  これに対しては、メルケル首相は、はげたかファンド問題の重大性を認識しており、Wieczorek-Zeul開発相と相談すると約束した。これに備えて、ジュビリー側は事前に用意してあった2パラグラフの草案を提出した。のち開発相との話し合いの中で、開発相自身がそれに近い草案を策定していることが判明した。
ドイツのジュビリーは、はげたかファンドの件は、IMF・世銀の「HIPCsイニシアティブ」そのものが持っている欠陥の結果である、と分析している。それゆえ、対応策に奔走するよりは、欠陥そのものを修正すべきであるという。

米ジュビリーの活動

 どうやら米ジュビリーは、G8サミットのシェルパとさえ面会するのは難しい様子だ。
 しかし、議会に対しては、効果的なロビイ活動を続けている。外交委員会のアフリカ問題小委員会が5月22日に開催されることになっており、そこで、「はげたかファンド」問題が取り上げられる。また、「ジュビリー法案」が議会に提案されており、その中に「はげたかファンド規制」問題も書き込まれている。

フランス議会が制定した「はげたかファンド規制法」

 昨年6月、フランス国民議会は、はげたかファンド規制法を決議した。これは、旧フランス領植民地のコンゴ・ブラザビルがはげたかファンドに襲われたことがあり、このようなことを予防するためであった。しかし、フランス・ジュビリーによると、これはコンゴの石油の利権が絡まっており、シラク大統領とフランス最大の石油会社TOTAL、そしてコンゴの独裁者Sassou-Nguessouとの腐敗関係が背後にある、という。同法案は、その後金融委員会に再送され、法律としてはまだ発効していない。サルコジが大統領に選出されたため、この法案の行方は混沌としている。