DebtNet通信 (vol.5 #9)  
「IMFは財政難?」
2006年2月8日

 さる1月7日付けのDebtNet通信で、昨年末、ブラジルとアルゼンチンが、それぞれ155億ドル、95億ドルにのぼるIMF債務を2年も前倒しして、全額返済したことを、報告した。
 この2国はIMFの大口借り手、つまり最大の顧客であった。ブラジルは1位、アルゼンチンは第3位であった。
 なぜこの2国はIMFに債務を返したがったのだろうか?それは、長い不況から脱出し、外国投資家たちがこれら2国の国債を買う意欲を持ち始めたため、大量の外貨を保有しはじめたからであった。
 このような傾向は、他のIMFの大口借り手についても言える。たとえば、パキスタン(第3位の借り手、15億1,000万ドルのIMF債務)、セルビア(8億7,400万ドル)、ウクライナ(第4位)なども、IMFと手を切りたいと思いはじめている。とくにセルビアは今年1月、IMFの融資をことわった。
 1年前、ロシアはIMFに33億ドルを前倒しして返済した。これは過去7年間の好景気を経てのちのことであった。2003年、タイも2年前倒しをして返済した。
 Liliana Rojas−Suarez元IMFエコノミスト(現在ワシントンにあるCenter for Global Developmentに所属している)は「景気の良い時には、誰もIMFに借りにこない」といっている。
 IMFのエコノミストを24年間務め、現在、ワシントンのアメリカン・エンタープライズ研究所の上級研究員であるDesmond Lachmanは「これらの国は政治的にうまくやった。IMFに前倒しして返済することは、独立宣言に等しい」と語った。
 21世紀に入ると、1990年代末に世界を襲った金融・通貨危機はなくなったが、このとき、IMFが行った“救済融資”に付随した条件は過酷なものであり、誤りであった。IMFの大口顧客がIMFと手を切りたいと思うのは当然のことである。  その結果、IMFは財政難に陥った。まず融資先がなくなったので、利子が入ってこなくなった。たとえば今年4月に終わる会計年度では、当初予算の40%減を記録した。また2006年会計年度は、1億1,600万ドルの赤字の予想となっている。前年度は2,600万ドルの赤字であった。IMFの予算総額は23億ドルである。これはすべて融資からくる利子収入に依存している。
 IMFが融資額を減らし、より経済のガイダンスに集中するよう、国際的圧力が高まっている。そして、IMFが最も恐れていること、すなわち、「グローバル経済にIMFがはたす役割は何か?」という疑問が出てきたのであった。
 たとえば、2000年、米議会のIMF調査委員会の議長を務めたピッツバーグのカーネギー・メロン大学のアラン・メルツァー教授は、「いまやIMFは何をしているのか、また何をしていくのか、を自ら問うべきだ」「このままだと、IMFの存在価値はなくなるだろう」と言っている。
 ラトIMF専務理事のスポークスマンのトーマス・ダウソンは「IMFは巨額の準備金をもっているので、それを投資して、収入減を補填できるだろう」と言った。実際、IMFは、加盟国がコミットしている資金を1.390億ドル持っている。このほか、IMFは1億オンス以上の金(市場価格で560億ドル)を保有している。したがって、破産ということにはならない。