DebtNet通信 (vol.5 #7)  
「米州開発銀行の債務を帳消しにせよ」
2006年2月7日

はじめに

 ブルッセルにあるEURODADは、LATINDAD、Fundacion Jubileo Bolivia、Instituto de Nicaraguenses、Observatorio dela Deuda en la Globalizacion、 CIDSE、 “ Sin Deuda, Sin Deuda、Fundacion SES Argentina などラテンアメリカのジュビリー運動の協力を得て、ラテンアメリカ4カ国の米州開発銀行への債務の調査を行ない、2006年4月3〜6日に開かれる米州開発銀行年次総会に向けて即時100%帳消しの国際キャンペーンを
展開するよう呼びかけた。

 2005年7月、スコットランドで開かれたG8サミットは、重債務貧困国18カ国の400億ドルの債務帳消しに合意した。14カ国はアフリカであったが、残りの4カ国はラテンアメリカのボリビア、ガイアナ、ニカラグア、ホンデュラスであった。国際社会ははじめて、多国間債務の100%帳消しが必要であることを認識したのであった。
 18カ国は2006年中にIMF、世銀、アフリカ開発銀行の債務の100%帳消しをうけることになっている。
しかし、実際には帳消しが100%とは言いがたいものがある。ブルキナファッソ、ウガンダは最高90%の帳消しであって、モザンビークなどは40%にとどまっている。ラテンアメリカの4カ国の帳消しにいたっては平均30%にとどまっている。
つまり、公式に言われていることと、実際のギャップは大きい。
 実際には、貧しいラテンアメリカ4カ国は依然として米州開発銀行、さらに、関連した中米経済統合銀行、カリブ開発銀行などに巨額の債務返済を行っているのである。
 
1. 米州開発銀行の債務は4カ国にどのような意味をもっているのか?

 アフリカ14カ国の債務帳消しの額はラテンアメリカ4カ国に比べて非常に大きいのは、アフリカ開発銀行の帳消しが入っているのに比べて、ラテンアメリカ4カ国の場合は米州開発銀行が帳消しをしないからである。
 ラテンアメリカ4カ国の対外債務総額は150億ドルだが、この中で、45億ドルしか帳消しされない。したがって、米州開発銀行の債務が持つ比重は大きい。

ボリビア

 ボリビアは米州開発銀行に16億ドルの債務がある。これはこの国の債務の32%に上る。最近5年間の米州開発銀行への債務返済額は年間9,700万ドルに上る。これは全債務返済額の32%を占める。2004年、ボリビアは世銀のIDAとIMFに4,400万ドルの債務返済を行ったが、米州開発銀行に対しては、1億800万ドルを支払った。つまり、米州開発銀行の債務帳消しはボリビアの債務負担を3分の1減らすことになる。そして、これはG8が合意した債務帳消しの70%を達成したことになる。債務返済額で言えば、60%の軽減となる。
 ボリビアは南米の中で最も貧しい国である。人口の63%が貧困以下の生活をしている。2004年、ボリビアは8億ドルの債務返済を行ったが、一方では保健医療、教育など貧困根絶予算には、7億5,000万ドルしか充当できなかった。債務返済は予算の中の35%にのぼる。

ガイアナ 

 2005年末の段階で、ガイアナは米州開発銀行に5億2,1300万ドルの債務を持っていた。2003年末、対外債務総額は12億2,000万ドルである。つまり、米州開発銀行はガイアナにとって最大の債権者である。債務返済率で言えば、米州開発銀行への債務返済率は64.6%にのぼる。 
 2005年、ガイアナは米州開発銀行に2,5100万ドルの債務返済をしたが、これから10年間は同じような額を返済しなければならない。
 世銀の調査によると、ガイアナは全土的には35%、主として先住民の農村部では92%の人口が貧困層である。美醜開発銀行への債務返済の2,500万ドルは有効に使われるべきである。

ホンデュラス

 多国間債務帳消しイニシアティブによって、2006年末までに、ホンデュラスはIDAの13億4,000万ドル、IMFの1億9,000万ドルの債務帳消しを受ける。
 しかし、ホンデュラスは対外債務の27%を米州開発銀行に負っている。2004年末の段階でこれは14億1,000万ドルに上った。2006年、米州開発銀行への債務返済は8,000万ドルにのぼる。一方ホンデュラスの2003年の債務返済額は3億6,300万ドルにのぼった。
 ホンデュラスでは人口の70%が貧困層であり、81%が安全な水を飲むことができない。
 4カ国は、来る10年間で、米州開発銀行に対して、総額27億5,000万ドルの債務返済を行わねばならない。これは貧しい4カ国にとって巨額である。

2. HIPCsとNon−HIPCsを分裂させる意味は?

 ラテンアメリカの多くの国のマクロ経済は、不安定な状況にある。1990〜2003年間、アルゼンチン、ボリビア、エクアドル、グアテマラ、ペルー、ベネズエラなどは、経済が激変しており、GDPはマイナスを記録し、貧困は増大している。しかし、HIPCsと規定されたのはたった4カ国であった。

ハイチ

 ハイチは1996年にHIPCsが導入された時から入っていなかった。しかしハイチは重債務国であり、また西半球ではもっとも貧しい国であった。世銀によれば人口800万人のうち76%が貧困層である。しかも貧富の格差は世界1である。
 さらにハイチ経済は年毎に悪化しており、水道、電気、職が不足しており、初歩的な保健、教育などへのアクセスがなかった。世銀は2005年には、輸出額のなかで債務が占める比率は194%に上っていると述べた。国際金融機関はハイチが多国間債務を返済できないことを認めていた。
 2007年にはハイチがHIPCs入りし、債務帳消しをうけることは決定している。ハイチのIDA債務のほとんどは「不当な債務」である。2002年3月、世銀は、1986〜2001年間のIDA融資の評価を行ったが、「開発に全く貢献していない」という結論が出ている。世銀は、ハイチをHIPCsイニシアティブの対象にすることで、この不当な債務を合法化するならば、受け入れがたい。さらにHIPCs入りによってハイチが世銀の悪名高い構造調整プログラムを押し付けられるのであれば、これも受け入れがたい。
 ハイチの債務帳消しには米州開発銀行の債務も入れるべきである。ハイチは2006年には、米州開発銀行に2,860万ドルの返済をしなければならない。これは2010年には4,000万ドルに上ると見込まれる。

エクアドル

 エクアドルの債務総額は168億ドルである。この国は、石油、バナナ、ココア、コヒー、えびなどの一次産品の輸出依存度が高い。また巨額の財政赤字を抱えている。また天災が多く、政府もしばしば変わる。その結果、エクアドルは経済の悪化し、1990年代の10年間に貧困者数も人口の34%から56%に増えた。現在50%の子どもが栄養失調に苦しんでおり、「シエラ」と呼ばれる先住民地域では70%に上る。10人のうち7人が医療保健を受けていない。
 にもかかわらず、エクアドルは国家予算の47%を債務返済に支払っている。2003年にはそれは21億6,000ドルに上った。一方社会部門の支出は9%にとどまっている。
 米州開発銀行はエクアドルの最大の債権者であり、債務総額の18%を占める。2004年末には米州開発銀行の債務は20億ドルにのぼり、2006年には、エクアドルは2億1,300万ドルを債務返済するであろう。

ペルー

 ペルーの貧困層は人口の48〜49%にのぼる。2003年末の債務総額は298億ドルである。ここ10年間、国際金融機関の中で、最大の債権者は米州開発銀行である。
 2001年末、米州開発銀行の債務残高は28億ドル、多国間債務のなかでは43%になっていた。またペルーの総債務残高の中では14%にのぼる。
 2006年には、ペルーは米州開発銀行に3億8,100万ドルの返済をしなければならない。これは2010年には4億3,000万ドルに上ると見られる。数年前、ペルーはエルニーニョのせいで、気候が激変した。今後もこれに苦しめられるだろう。
 ペルーの債務帳消しは、MDGsの達成には不可欠である。

3.汚い債務

 米州開発銀行の債務には「汚い、非正当な債務」が含まれている。
 たとえば、米州開発銀行は、ニカラグアの1961〜1979年のソモサ家族独裁政権下に3億2,160万ドルを貸した。ハイチに対しては、米州開発銀行はパパドックとベイビイドック・デュバリエ政権に対して2億9,000万ドルを貸した。3万人の行方不明者を出した1976〜1983年間アルゼンチン軍事政権に対しては、16億ドルを貸した。