DebtNet通信 (vol.5 #33)  
「IMF・世銀2006年年次総会について」
2006年10月2日

1.バタム島でのIPF

 「IMF・世銀に対抗する国際ピープルズ・フォーラム(IPF)」は、9月15日から3日間、年次総会が開催されるシンガポールからフェリーで45分のところにあるインドネシア領バタム島で開かれた。

1)シンガポールでの入国拒否事件

 IPFが開かれる前に、シンガポールで2つの大騒動が持ちあがった。

(1)シンガポール・チャンギ空港でのNGOの拘留

 まず、バタム島に入るためにシンガポール空港に到着したIPFの海外代表たちがシンガポール島当局に次々と拘留された。その中のごく一部の人は、シンガポール警察の護衛付きで、シンガポールを経てバタム行きのフェリーにのることが出来たが、ほとんどの人は、単にトランジットであるにもかかわらず、何の理由も告げられず、長い人で30時間以上も空港に拘留され、取り調べを受け、指紋を取られたあげく、本国に強制送還された。
 その中に、IPFの呼びかけ団体の代表であるGCAPアジアのChona Ramosやジュビリー・サウスのBooby Diciembremの2人も含まれていた。日本人も1人いた。
 IPFが把握している限りでも、強制送還された人の数は17団体、54人にのぼった。

(2)総会に登録したNGO代表もブラックリストに

 さらに、IMF・世銀にNGOとして登録を済ませ、シンガポールのビザを取ったにもかかわらず、シンガポール政府に公式に入国を禁止された代表27人のリストが公表された。
 この中には、Focus on Global South の代表でフィリピン大学のワルデン・ベロ教授も入っていた。ベロ教授は『ロイター通信』のインタービュに対して、「世銀の秘密文書にもとづいて1981年に本を出版したのだが、これを窃盗罪と決め付け、また78年にマルコス独裁政権に対する援助に抗議しサンフランスシスコの世銀支局の前で座り込みをしたことなどを、入国拒否の理由にされた」と述べた。シンガポール政府がこのように四半世紀も前の細かいことを知っているはずはなく、明らかに世銀当局がシンガポール政府に告げ口をしたに違いない。
 また、イタリアの「世銀改革キャンペーン」の共同代表のAntonio Tricarrioもブラックリストに入っているが、彼は『ストレート・タイムズ』紙のインタービュに対して、「これまで10年以上もIMF・世銀に対してロビイ活動を展開してきたが、一度も暴力的な手段をとったことはない」と述べた。
 のち、市民社会のボイコット声明を含めた強い抗議行動と、しぶしぶ行ったIMF・世銀の要請によって、シンガポール政府は、ブラックリスト27人のうち、22人に入国を認めた。

2)NGOのボイコット声明

 9月15日、バタム島のIPFとシンガポールの年次総会に出ていた160以上のNGOは、シンガポール政府の不当な入国拒否と、バタム島当局にIPFの開催を禁止するよう圧力掛けたこと(これは失敗したのだが)に抗議して、IMF・世銀総会内で予定されていた一切の公式会合をボイコットする声明を発表した。このボイコットは徹底していて、IMFや世銀とのさまざまな議題での対話シンポはもとより、Action Aid、OXFAM、EURODADなど国際NGOが総会内で企画していたすべてのシンポジウムにも及んだ。IMF・世銀に対しては、すでに事前にこのような事態になることは予測できたにもかかわらず、あえて、シンガポールを開催地に選んだことを非難した。
 IMF・世銀はシンガポール政府を「グッド・ガバナンス」10カ国の1つに入れている。EURODADのAlex Wilksは、IPFの会合で、「IMF・世銀は、ガバナンスの最大の要件であるアカウンタビリティを考慮していない。この点についてシンガポール政府はゼロに近い。ここが市民社会のガバナンスの理解とは異なるところだ」と述べた。
 声明に署名した主なNGOは以下の通り。
国際NGOは、Action Aid International、EURODAD、Focus on Global South、Friends of the Earth International、Greenpeace、Jubilee South、OIL Watch International、OXFAM International、Solidarity Africa Network、など、Bothends(オランダ)、Campagna per la Riforma Della Banca Mondiale(イタリア)、CIDSE、Freedom from Debt Coalition(フィリッピン)、IINFID Indonesia 、Jubilee USA Network、US Network for Global Economic Justice(米国)、World Development Movement(英国)、50 Years is Enough(米国)などである。

3)バタムIPFの議題

 9月17日の日曜日夜半、IPFは盛会のうちに終了した。これには、インドネシア国内から500人、海外25カ国から200以上が参加した。議論されたテーマは不当な債務(Illegitimate Debt)をはじめ、構造調整プログラム、透明性などであった。
 不当な債務に関しては、とくに貿易保険から生じた債務についての多くの報告があった。たとえば、ケニアのAction AidのRose Wanjiruは、英国政府の火力発電所建設計画について報告した。これは技術面で問題があり、さらに賄賂疑惑があったにもかかわらず、強行され、その後、これらの疑惑が正しいとされたにもかかわらす、ケニア政府はその債務を返済させられている。
 またインドネシアのInstitute for Global JusticeのIvan Hadarは英国から貿易保険で購入したスコーピオン型戦車の代金を返済している例を述べた。この戦車はアチェ紛争で学生などを弾圧するので使用された。
 バングラデシュの代表は、国内のすべての市民団体を網羅するAlliance for Economic JusticeというIMF・世銀の活動をモニターし、チェックする連合体を結成したことを報告した。構造調整プログラムを廃止し、政策決定の民衆主権を確立する、IMFは融資制度、PRGFを廃止する、政府はアカウンタビリティと透明性を確立する、IMF・世銀はグローバルな警察官であることを辞め、国連の腐敗防止条約に加盟することなどを要求スローガンに掲げている。

4)多くのNGOの報告書が発表される

 IMF・世銀年次総会に向けて、多くのNGOが優れた報告書を発表した。
 たとえば、英国の民間シンクタンク「New Economic Foundation」は、Odious Debt(汚い債務)についての報告書を発表した。多くの国が、Odious Debtの元金はすでに返済済みであるにもかかわらず、その利子分にあたる債務を未だに返済し続けていると指摘した。   
 たとえば、インドネシアは、Odious Debtに関係する1,510億ドルを返済している。これは、1,380億ドルの資金がネットでインドネシアから北に流れたことになり、それはインドネシアのGDPの90%に上る。
 またアルゼンチンはOdious Debt関連の返済ではすでに770億ドル支払ってきた。これは同国の債務の75%に上る。
 ニカラグアのOdious Debtは同国のGDPの5倍である。
www.neweconomics.org/gen/odiouslending180906.aspx

 英国のCAFOD、Action Aid、Christian Aid、World Development MovementなどによるJubilee Debt Campaign は構造調整プログラムなどの条件がどのような影響を途上国にもたらしているかを分析した報告書を発表した。
www.jubileedebtcampaign.org.uk/?lid=2028

 World Development Movementは、IMFと世銀を解体するべきだという報告書をまとめた。
www.wdm.org.uk/news/SingaporeBan1309226.htm

 国連社会開発サミット後に行動計画の遂行をモニターする市民社会の国際組織である「Social Watch」は「不可能な機関」というタイトルでグローバル金融機関と金融システムについての分析を発表した。
www.socialwatch.org/en/informelmpreso/tablaDeContenidos2006.htm

 バングラデシュのVoiceは「援助の政治」というタイトルの報告書を発表した。
www.voicebd.org

 「グローバル透明性イニシアティブ(GTI)」は国際金融機関の「透明性憲章」を発表した。憲章の全文は以下のWebを参照
www.ifitransparency.org/activities.shtml?x=44474&als[select]=44474

2.シンガポールの年次総会

 IMF・世銀の合同年次総会は184カ国の蔵相、中央銀行総裁が出席し、これに民間の財界人がゲストとして参加する総勢16,000人の大イベントである。これに通常、およそ500人のNGOがオブザーバーとして登録し、IMF・世銀と対話シンポを開催することになっていた。 
 今回シンガポール政府はすでに登録済みのNGOの入国拒否をした。さらに、早くから、これまでの開催地で認められてきた街頭デモを禁止した。そして、NGOの屋内の会合も、IMF・世銀の会議場内の“相撲の土俵並み”の小さい部屋に限定した。
 政府の代表のためには、“赤いカーペット”が準備された。会場前の広場には、何百台ものBMWが無料で提供された。そして、総会の最終コミュニケには、シンガポール政府と国民に対して、「すばらしい歓待と会議場の提供に感謝する」と述べた。このことは、シンガポール政府が、総会に登録したNGOの入国を拒否し、数多くのNGO代表を空港で拘留し、送還したという政府のスキャンダルを黙認したことになる。
 IMF・世銀合同年次総会の日程は、9月15日から20日までということになっているが、19日〜20日の総会は、加盟国の蔵相・中央銀行総裁全員が出席する単なるセレモニーに過ぎない。実質的な審議は、15日に開かれた24カ国のメンバー24カ国の開発委員会と、同じく17日に開かれた24カ国の国際通貨金融委員会(IMFC)にあった。ここでの審議の結果は、それぞれ、コミュニケという形で発表された。
 さらに両委員会の審議、コミュニケもともに、IMF・世銀総会に先立って開かれたG7蔵相会議での審議が下敷きになっている。つまり、IMF・世銀はG7の独占物である。

1)開発委員会コミュニケについて

(1)ODAについて
 2005年夏のグレンイーグルスG8サミットで、国連ミレニアム開発ゴール(MGD)の達成のために、G8首脳が、アフリカに対して2010年までにODAを倍増することを含め、ODAの増加を公約した。これは、昨年秋のIMF・世銀の総会でも承認された事項であった。
 昨年のサミットから帰国した日本の小泉首相は、「日本は向かう3年間にODA100億ドルを追加すること」を公約したが、日本に帰国した途端、まったく忘れてしまった。外務省は、追加の100億ドルの財源などまったくないので、とりあえず、インドネシアなど津波被災国の債務返済を1年間モラトリアムにしたことによって入ってこなかった1年間の利子(約20億ドル)と、米国主導のイラク債務帳消し分をもって、追加のODAに摩り替えた。これは、99年のケルンG8サミットで「債務帳消しをODAに加算しない」という合意に違反するものである。
 今回の開発委員会コミュニケでは、昨年の公約が守られていないことを非難し、また、ODAをGDPの0.7%支出するという公約を実施していない国に対して、努力するよう迫っている。
 また債務救済分をODAにカウントしている国に対して、明確な警告をだした。

(2)HIPCsイニシアティブについて
 そもそも、世銀は重債務貧困国41カ国に対して債務帳消しを行うことになっていたが、今春の総会では、18カ国に対してだけ100%債務帳消しを行った。これは「MDRI」と名づけられた。
 そこで、残りの国はどうなるか、について関心が集中していた。
 今回発表された世銀のコミュニケでは、「“日没”条項が2006年末に発効する」ことになった。これは、2004年末のデータにもとづいて規定されたHIPCs該当国リストが決定であり、今後新たらしく付け加えられることはない、という意味である。
 MDRI、つまり100%の債務帳消しを受けた国に対して、世銀はその国が新しく融資を受けることを厳しく制限していく。これは、多国間金融機関だけでなく、2国間ドナー、貿易保険、市中銀行などからの利子付きのすべての融資を含む。とくに、中国など、新興ドナー国などからの借り入れも含まれる。世銀から債務帳消しを受けた国が、世銀の承認なしに新しく融資を受けた場合、世銀のソフト・ローンであるIDA融資はストップされることになる。
 いいかえれば、世銀から債務を帳消しになった後も、貧困国は世銀のコントロールの下に置かれる。EURODADは、世銀は貧困国がMDGの達成に努力する余地をもぎ取っている、と非難している。

2)国際通貨金融委員会(IMFC)コミュニケについて
 IMFは出資比率に応じて、投票権が決まる。これまで、米、日、英、独、仏の5カ国が半分近くの出資比率と投票権を持ち、その他、先進国の分を合わせると、北が60.6%となる。
 途上国政府、NGOなどは、この点について、激しく非難してきた。そればかりでなく、ブラジル、アルゼンチンなどをはじめとしたIMFの大口借り入れ国が続々と前倒して一挙に債務を返済しはじめた結果、IMFが財政的危機、機能的危機、正当性の危機というかってない存立の危機に見舞われた。
 そこで、IMFは2008年をめどにした2年間のIMF総合改革プログラムを設立した。
 今回、発表された出資比率の改正は、その1つに過ぎない。
今年8月末に開かれた理事会は、特に経済規模に比べて出資比率が低い中国、韓国、メキシコ、トルコの4カ国に限って、出資比率を引き上げることが決まった。4カ国の引き上げをしても、北は59%の投票権を持つことになる。
 その他の途上国に関しては、2年以内に出資比率を決めることになった。推定では、アフリカの投票権は現在の6.5%に0.5%増える予定である。
 今回のIMFCのコミュニケはこの理事会の決定を追認した形となった。コミュニケは、18日までにIMF加盟国に、賛否を求めた。
 すでに50カ国以上の途上国がこれを不服として反対した。
 なぜなら、米国に次いで6%の出資比率である日本などは、「計算上の出資比率を下回っている」(財務省渡辺博史財務官)として、増やすことを要求している。
問題になっているのは、出資比率に応じた投票権を見直すという提案である。 IMFCでは、米国が、市場通貨レートで計算したGDPだけで投票権を決めるという提案を行った。これによると、ナイジェリア、インドネシア、ベネズエラ、マレーシア、南アフリカ、それにすべてのアフリカ諸国は、現在の投票権より少なくなる。
したがって、結果的には、南北のバランスは変わらないばかりか、むしろ北に有利になるからである。