DebtNet通信 (vol.5 #32)  
「Reality of Aidの2006年レポート」
2006年9月18日

 さる6月、政府開発援助(ODA)をウオッチする国際NGOのReality of Aidが2006年版報告書を発表した。
 開発援助についての市民社会の関心は、ブッシュ大統領の「テロに対するグローバルな戦い」によってどのように途上国への開発援助費が削られることにある。そして、今回の報告書は、すでに減少傾向にあったODAが、貧しい人びとに向けられるのではなく、いかにドナー国の治安対策に向けられているかを如実に物語っている。
 たとえば、2001年以来、米国と英国の援助額は220億ドル増となっているが、その3分の1はアフガニスタンとイラクに向けられている。
 ドナーたちは、援助プログラムの規定を勝手に変更した。米国は、援助を自国の安全保障と対テロ戦争の戦略的資金と見なしている。オーストラリアは開発援助の中にインドネシアとフィリピンでの対テロ戦略費を組み込んでいる。EUでは、すでにフィリピンとパキスタン政府の反テロ・プロジェクトに援助金を供与しているが、これはEUの援助規制に違反しているとして、EU議会の議員たちから告訴されている。
 オランダとカナダは、軍事・治安対策費に充てるというODAの範疇の拡大を行った。これはReality of Aid のTony Tujan議長によると、「援助を軍事費に充ててはならない」というこれまでの原則を逸脱するものである。
 開発援助を貧困根絶に向けるという援助の原則は危機にさらされている。
 さらに、先進国は、途上国の紛争に介入する際にも、人道的観点よりも、対テロ戦略の前線という視点が強い。2002〜2004年間の米国の経済・軍事援助の増額分は、200億ドルに上るが、その対象は、中東の「豊かな三日月地帯」であるイスラエル、エジプト、イラク、トルコとアフガニスタンに集中している。
 国際人道法は、紛争地域に対する人道支援は必要性にもとづくものだとしている。しかし、不幸にも、人道支援は先進国の戦略的価値があるところに限定される。そしてその価値のない紛争は見過ごされている。
 援助の増額についても、うそが多い。デンマークやドイツ、日本などの2005年の援助額は、実際には債務帳消し分を入れているので、2004年よりの減少している。2005年のOECD全体のODAは前年の1065億ドルに269億ドル増加しており、31%の増加を記録している。しかし、この増加分269億ドルの85%はイラクとナイジェリアの債務帳消しに充てられた。この分を除くと、2005年の増加分は31%でなく、たった9%にしか過ぎない。
 同時に援助の質が問われている。OECDの開発援助委員会(DAC)によると、90年のひも付き援助は41%であったものが、2004年には9%に減少したという。これもうそである。
 技術援助と食糧援助というひも付き性の高い援助を加えると、2004年のひも付き援助率は36%になる。これは、米国がひも付き援助の率を報告しないので、さらに高いものになる。米国のひも付き援助率は72%といわれるからである。ドナーが決定権をもっている技術協力、先進国内の難民、途上国からの留学生の費用、ひも付き援助のコスト、緊急救援、ソナー側の援助の運営費など、通常、途上国内での開発費とは関係がないものを引くと、2004年の2国間援助のなかの32%が実際に被援助国の開発援助に充てられることになる。これは2000年には39%であった。ドナーたちが言う「開発の現地オーナーシップ原則」は単なるリップサービスだ。
www.realityofaid.org/activitieshow.php?id=5