DebtNet通信 (vol.5 #31)  
「スペインのジュビリーが「債務の監査」を提案」
2006年9月18日


 スペインの債務帳消し運動(Observatorio de la Deuda en Globalizacion―ODG)が、「対外債務の監査(Audit)」と題するスペイン語の報告書を作成した。ここでは、債務国、債権国ともに、不当(Illegitimate)な債務について民間の監査を提案している。これは、途上国政府が不当な債務を毎年返済していることは、「絶対的に不当なことだ」との立場に立っている。
 これに対して、「債務の監査プロセス」は、途上国の債務の起源、原因、構成、経過などを分析し、ローンが組まれた時にどのような国内法が適用され、どのような期限と条件がついたのか、どのようにローンが返済されてきたか、またローンがどのように使われたのかを明らかにする。この作業を通じて、どのローンが「Illegitimate」であるかを規定することが出来る。そして、この部分の債務は直ちに帳消しにするべきである。また、これを通じて、盗まれたカネを取り戻すことが出来る。
 この監査のプロセスには途上国の市民社会の参加が不可欠である。
 報告書はこれまでの債務監査の経験を紹介している。たとえば、30年代に、ブラジルで行われた監査がある。これによって、かなりの部分の対外債務が帳消しになった。また、アルゼンチン、コスタリカ、ペルー、ベネズエラなど他のラテンアメリカ諸国の例とその結果も報告されている。また今年に入って、エクアドルの大統領によって議会の監査委員会が設けられ、対外債務とその返済についての監査がはじまった。
 このような、政府による債務監査と平行して、市民社会による債務監査がフィリピンなどで行われてきた。2002年、ノルウエイ・エクアドルで「民衆法廷」が開催され、ノルウエイ政府が問題の多い船舶をエクアドルに輸出保険を使って輸出したことを調査した。南部アフリカ諸国では、このような債務監査運動が始まっている。
 途上国でのこのような動きに触発されて、債権国の市民社会においても、債務監査運動が起こっている。英国、スペイン、フランスなどでは、NGOがこれまでの途上国へのローンの内容の監査がはじまっている。
 
 債務の監査に当たって、第1に必要なことは、これを単に債権国と債務国との間の融資協定の面だけでなく、社会的、経済的、政治的、環境的な影響を及ぼしたかについても分析すべきである。これらを通じてこそ、債務問題を包括的に解決できる。
 第2に、分析を行うとき、キイとなるケースを選ぶ必要がある。たとえば、スペインに対するソマリアのIllegitimateな債務のケースである。ソマリアの債務は、87〜89年、スペインがスペイン製の機械や車両をソマリアの独裁者Siad Barre将軍に民間用・軍事用に使用するために輸出保険を使って輸出したために発生したのであった。この場合、「債務がIllegitimateでない」こと、そして「ソマリア人がスペイン政府に返済するべきである」ことを主張することは非常に困難である。
 第3に、債務の監査委員会には多様な人材が含まれるべきである。ローンの起源、受益者、その影響などについて調査をするときには、多くの関係者の参加を必要とする。委員会は中立であり、北と南の市民社会、学者、研究者、専門家、官僚が参加すべきである。委員会はどの債務がIllegitimateであるかだけでなく、その責任は誰かをあきらかにして、それを裁くために告発すべきである。また債務の成立条件を調べ、債務協定の中に、不当に高い利子、また一方的に利子を変動する権利など不正がないか、などを調査すべきである。
 そして、そのローンが何のために使われたのかを明らかにするべきである。たとえば、民衆に対する弾圧のための「抑圧債務」、地政学的な、また帝国主義的な目的のための「戦争債務」、政府の懐に入る「腐敗債務」、国の一部のエリートのための「エリート債務」、失敗した開発のための「失敗した債務」などのカテゴリーがある。
 ODGは、スペイン政府に対して、途上国の債務の監査をただちに行うことを要求している。同時にこの監査がすむまで、すべての債務の返済を停止するべきである。
<www.debtwatch.org>参照