DebtNet通信 (vol.5 #23)  
「銀行としての世銀の危機」
2006年6月12日

 2000年代に入ってから、世界銀行は融資先の途上国からの返済額が、世銀から途上国への融資額を上回るという「Net Negative Flows」現象が起こっている。たとえば、

2002年   −7億6,500万ドル
2003年  −82億3,300万ドル
2004年  −84億5,600万ドル
2005年  −51億7,400万ドル
2006年  −26億2,900万ドル(推計)
2007年  −17億1,700万ドル(推計)
2008年    7億5,600万ドル(推計)
2009年   45億9,500万ドル(推計)いずれも会計年度となっている。

 これを見ても明らかなように、世銀は、国際開発融資機関ではなく、単なる債務の収集機関と化している。これは銀行としての世銀の危機である。銀行はつねに融資が返済を上回っていないと倒れてしまう。この危機対策として、世銀は、2008年以降、融資を拡大して、2016年には純貸付額を85億ドルに拡大する計画である。
 世銀は、1999〜2000年間に世銀の年間融資総額は290億ドルから150億ドルと、半減した。2000〜2003年間、世銀の中所得国への融資額は1999年レベルの半分であった。それが、Net Negative Flow の原因である。
 90年代に米国の世銀理事を務めたCarole Brookinsによれば、90年代に世銀のインフラ建設プロジェクトへの融資は50%減少した。これは中所得国むけ分ではより激しく減少した。一方、2002年、世銀の上下水道建設プロジェクトへの融資は1993〜97年間の年平均額の25%でしかなかった。つまり、インフラ投資から貧困根絶融資に転向したしたわけでもないのだ。
 2002年「融資危機」に対して、世銀は融資を拡大する方向を「民間部門開発(PSD)戦略」を打ち出した。これは

(1)、ビジネス志向の政策を取り入れる途上国に対して多額の調整融資を行う。これは、短期に多額の現金を注ぎ込むことを意味する。
(2)、社会的、とくにインフラ・サービス部門の民営化に多額の融資を行う。
 このPSD戦略は途上国のすべての部門と計画に世銀がカネも口も出していくということである。

世銀の新しい3つの戦略

1. 中所得国(MICs)に対する戦略

 世銀はMICsに対しては、これまでの融資に付随する政策介入と、「国別援助政策(Country Assistance Strategies))を廃止する。そして、途上国政府に責任において金融、社会、環境基準を遵守させるようにする。その結果、世銀は民間の金融機関と競合することになる。そこで、世銀は、政策介入を強化する低開発国と、中所得国との間にダブルスタンダードを持つことになる。

2. インフラ行動計画

 これは2003年8月7日に発表されたものだが、インフラ建設プロジェクトへの融資額は年間100億ドルになり、年間40%増となる。
 しかし、多額のインフラ投資をする際に問題となるのは、IMFのインフレ・ターゲットが厳しいことである。IMFが許可しなければ、世銀も融資機関も融資できない。だが、IMFは貧困者の叫びには耳を貸さないが、そのジュニアー・パートナーであるIMFの言い分なら多分聞くだろう。さらに世銀はインフラ投資のために、保健や教育など社会部門への投資を犠牲にするだろう。
 IMFと世銀の2005年版「グローバル・モニタリング報告書」によれば、サハラ以南のアフリカのインフラ投資はこれから10年間で4.7%から9.2%に増えると見通している。世銀のインフラ・プロジェクト融資は、1999〜2003年間の経済効果収益率は年平均で35%と予測している。なぜならば、このインフラ・プロジェクトとは、WTOの「貿易ファシリティ協定、つまり港湾、関税など貿易関係のインフラ部門への融資を指すのである。この部門へのインフラ投資の収益が35%だというのである。

3. 新しい水資源部門戦略

 これは2003年に世銀が発表したもので、巨大ダム建設を再開するというものである。これは世銀が設けた「世界ダム委員会」の勧告を自らないがしろにするものである。

ワシントンにある「主要なサービス市民ネットワーク(CNES)」のNancy Alexander
論文による