DebtNet通信 (vol.5 #21)  
「IMF・世銀の2006年春季会議」
2006年5月7日

1)17カ国の債務帳消し

 IMF・世銀は、4月22〜23日、ワシントンで春季会議を開催した。
 春季会議の目玉は、世銀の開発委員会が「多国間債務救済イニシアティブ(MDRI)」について最終的合意に達したことであった。第1のグループ18カ国(ただしモーリタニアを除く)が2006年7月1日までにMDRIによるIDA債務の帳消しを受ける。そのためIDAは370億ドルを40年に亘って帳消ししていく。IDAはすでにその87%の資金をドナーから確保した。しかし、開発委員会のコミュニケでは、ドナーに対して「コミットメントを遂行するよう」呼びかけている。ということは世銀の中に、ドナーが資金を出し渋るのではないかという懸念があることを示唆している。

2)モーリタニア問題

 モーリタニアに関しては、今夏、IMFがミッションを送り、マクロ経済やガバナンス改革について調査をすることになっている。この国がリストから除外されたのは、HIPCsイニシアティブの完了点について、データを操作したという容疑がかけられたためである。IMFも世銀も最近、モーリタニアのパーフォーマンスをほめており、多分、今年末には債務帳消しが可能と見られる。

3)HIPCsリストの拡大

 世銀はまた、HIPCsイニシアティブに4カ国を追加した。それらはエリトリア、ハイチ、キルギス共和国、ネパールである。さらに、スリランカ、ブータンの2カ国が、「債務対輸出が150%を超える」という範疇に入るのでHIPCs入りをするとみられる。しかし、2カ国ともに政府は入りたくないと言っている。
 このことについて、NGOは、2カ国が構造調整プログラムなどの条件を付けられるのを嫌ったせいなのか、と世銀に質問した。世銀は、「そうではなく、HIPCs入りが政府の信用度を弱めることになり、市場からの借り入れが難しくなるのを嫌がったためだろう」と答えた。
 HIPCs予備軍としてのアフガニスタンについては不透明である。これはロシアのクレームもあり、今後の交渉に委ねられる。

4)HIPCsの行方

 以上すでに挙がっている候補の国以外には、IMFも世銀も追加しない方針である。つまり、これ以上の多国間債務の帳消しはない、というわけだ。NGOは、より多くの国の帳消しを要求している。たとえばIDAオンリーのケニア、IBRD融資借り入れ国のエクアドルなどが挙がっている。世銀は、これを拒否しているのは、「たんに資金の問題である」と答えている。

5)債務帳消し以後のHIPCsの状況

 「独立評価グループ(IEG)」が発表したHIPCsの現況報告によると、債務帳消しは、貧困削減のための財政支出を可能にしたという。しかし、「債務の持続可能性」を確保するまでには至っていないという。これは、ウォルフォンセン前総裁が言っていた「持続不可能な債務という重荷からの解放」というHIPCsイニシアティブの当初の目的を達成したことにならない。
 IEGは完了点に達した13カ国の中の11カ国を選んで分析したのだが、債務の状況は悪化している。

6)債務の持続可能性について

 今回の春季会議では、盛んに、「Free Rider」論が聞かれた。とくに世銀のスタッフたちが、MDRIの恩恵を受けて、多国間債務の100%帳消しを受けた国が信用を回復して、新たに借金を作るのではないかと恐れている。というのは市中銀行、輸出信用機関、さらに中国など新しいドナーが市中金利で融資をするのではないかということである。このことが、約10年後に、新たな債務の累積につながる。
 つまりFree Riderとは、中国のような融資提供者が、IDAの債務帳消し、グラント供与、無利子の融資などから、間接的に利益を得るということを指す。
 これを防ぐためには、IDAのドナーや受益国の間に「責任のある信用文化を創る」、あるいは債務の持続可能性の枠組みを作る、などを呼びかけている。これは世銀の開発委員会の最終コミュニケで強調された。
 世銀は、借り手が再び債務の持続不可能性に陥った場合には、懲罰的措置−IDA融資を減らす、あるいはIDA融資を停止するなど―をとる権利を保留する、と言っている。

7)世銀の腐敗退治

 ウォルフォビッツ新世銀総裁は、「腐敗退治」の十字軍遠征を開始した。NGOは、これが、ドナー責任、つまり多国籍企業、ODA供与国、世銀などの責任を無視して行われることに懸念を抱いている。
 4月20日、春季会議に先立って世銀総裁は、「腐敗退治」についての記者会見を開いた。
 この席上で、Mobilization for Global Justiceの活動家などが「世銀は企業の腐敗に融資している」と書いたバナーを広げて抗議した。彼らに連帯して、他の出席していたNGOも合唱した。そして、NGOがすべて排除されると、外で臨時のNGO会見がはじまり、記者たちも彼らを追いかけて、退場してしまった。総裁は、記者がいない会見場で、話し続けた。

8)NGOの活動

 (1)街頭芝居

例年のような反IMF・世銀の派手な街頭デモはなかった。これは、両機関の周辺でのデモが完全に禁止されたためである。しかし、Mobilization for Global JusticeのスポークスマンのBasav Senは、ゲリラ的な“ストリート芝居”を行う、と宣言した。そこで、4月21日(金)の正午に世銀総裁の自宅前の19街とH街の角で行われた。内容は、世銀の融資が途上国の貧しい人びとの家を奪っている事実を告発するものであった。そして劇の最後に総裁の家のドアに「立ち退き勧告」の通知書を張ったのであった。

 







 (2)政策研究所(IPS)での戦略会議


 
ワシントンにある左翼のシンクタンク政策研究所(IPS)が世界中から集まった70人の活動家が参加した4月23〜24日の2日間IMF・世銀に対するNGOの戦略会議を開催した。
 ここでは、IMF・世銀ともに深刻な危機下にあることが確認された。IMF・世銀の世界経済支配力を弱めるチャンスであると捉えられた。
 とくにIMFの弱体化は顕著である。IMFはアジア危機以来失った信頼性を取り戻していない。これは元IMFと世銀の高官で、現在はグローバル開発センターの副所長であるDennis de Trayの言葉である。アジア危機以来、タイ、フィリピン、中国、インドがIMFからの借り入れを拒否している。これはIMFの金融自由化政策が破壊的な結果をもたらしたことに懲りているからである。
 さらにこの傾向はブラジルやアルゼンチンなどのラテンアメリカに飛び火している。両国はIMFの債務をすべて返済し、IMFからの独立を宣言した。
 このような最大の借り手からのボイコットにより、IMFは財政的な危機に陥っている。というのは、ここ20年間、IMFの営業活動は、先進国の拠出であるよりはむしろ途上国からの返済分によって賄われているからである。2005年の返済額は31億9,000万ドルであったのが、2006年には13億9,000万ドルに半減し、さらに2009年には6億3,500万ドルに減ると見込まれる。
 一方、世銀は、オックスフォード大学のNgaire Woodsによれば、借り手からの返済額は2001年には81億ドルであったのが、2004年には44億ドルに半減している、という。さたに世銀の投資からの収入は、2001年には15億ドルであったのは2004年には3億400万ドルに減っている。中国、インドネシア、メキシコ、ブラジルなどは、世銀以外の融資先に切り替えている。
 このような両機関の財政危機はほんの一面にしか過ぎない。世銀のスタッフによる政策作成は現実に合っていない、とDe Rrayは言う。世銀の調査部門(年間5000万ドルの予算)は西側の学会の学説に依存しており、途上国の現場に目を向けていないからだと言う。世銀は1万人のプロフェッショナルを抱えているが、彼ら博士たちは、ほとんど政策作成の経験はない。スタッフの40%を減らしても打撃を受けないはずだ、と言う。
 さらに、IPSのRobin Broad(アメリカン大学の助教授)は、世銀の対外部門は年間3000万ドルを使って世銀のPRの仕事をしているだけだ。これも廃止してもよい、と提案した。
 Focus on Global Southのshalmali Guttalは、世銀総裁の「腐敗退治」キャンペーンにふれて、世銀が60年代半ばから90年代半ばまで、スハルト独裁政権に供与した300億ドルの融資のうち、100億ドルがスハルト一家にポケットに入った、と述べた。「ウォルフォビッツ自身、80年代半ば、スハルトの最大の友人の1人であった」という。
 1990年代、NGOは「IMF・世銀の改革」を唱えてきた。「50年はもう沢山だ」のSameer Dossaniはこの「改革主義」に疑問を投げかけ、「改革の終わり」を宣言し、よりラディカルな戦略を提案した。それはIMF・世銀自体の危機の深化とともに、「Disempowerする」ことである。
 提案として、9月の第3週にシンガポールで開かれるIMF・世銀の年次総会に対して、オルターナティブ会議を開催する。