DebtNet通信 (vol.5 #1)  
「ブラジルとアルゼンチンがIMFに債務の全面返済を宣言」
2006年1月7日


1.2005年12月末、ブラジルとアルゼンチンが突然IMFへの債務を前倒しで返済すると宣言し、世界を驚かせた。

 ブラジルはこれを、12月13日、アルゼンチンはその2日後の12月15日に発表した。その数日後、ブラジルは154億6,000万ドル、アルゼンチンは99億ドルをIMFに返済したのであった。ブラジルにとってIMFへの債務は債務総額の7%、アルゼンチンの場合は8.9%を占める。
 ブラジル、アルゼンチン両政府がほとんど同時期にIMFの債務の全面返済を宣言したことは、さまざまな憶測を呼んだ。
 アルゼンチン政府の説明では、IMFのコンディショナリティと介入をなくするためということであった。同時に考えられるのは、年間8億4,200万ドルにのぼる巨額の利子の支払いをなくすことでもあった。ブラジルのAntonio Palocci経済相は、このような前倒しの返済によってブラジルは年間9億ドルほど節約できる、と述べた。しかし、ブラジルは隣国のアルゼンチンとは異なり、ルラ大統領がこれからもIMFと緊密な良い関係を保って行くと公式に語っている。しかし、2006年はブラジルの大統領選の年でもあることから、ルラ政権8年目にしてはじめて「ブラジルはIMFから自由である」と宣言する必要があるのではないか。
 市民社会は両政府が債務返済のために保有外貨を使ったことを批判している。国際レベルでは外貨事情が好転したとはいえ、両国は受け入れ難いほどの貧困と社会不安の中にある。ブラジルでは人口の5分の1が貧困ライン以下にあり、アルゼンチンでは、国立人口統計研究所の調査によれば全人口の38.5%が貧困ライン以下にある。国家の資金を豊かな国に支払うのではなく、社会的、あるいは、生産性を高めるための投資に向けるべきである、とNGOは批判している。
 そして、IMFこそが、アルゼンチンの通貨危機に際して採った政策が何百万ものアルゼンチン人を貧困化させ、長期にわたる政治危機をもたらしたのではないか。2005年6月にIMFの「独立評価部」が行った報告書には、IMFの危機管理政策を強く批判している。
 また危機の発生以来、アルゼンチン政府は一貫して、経済破綻はIMFのせいだと批判してきた。
 ジュビリー・サウスは、ブラジルとアルゼンチンというラテン・アメリカの大国がIMFに対して債務不払いを宣言できたのではないか、と批判の声を上げた。

2.IMFは新たに「ESF」を創設

 2005年11月23日、I MFは「外因性のショック・ファンド(Exogenous Shocks Facility)と名づけるファンドを創設した。これはIMFが「多国間債務救済イニシアティブ(MDRI)と呼ぶG8の債務帳消しが実施されるとともに発足する。IMFによると、これは低開発国(LICs)が自然災害、貿易の条件の悪化(一時産品の値下がり)などによる打撃(ショック)受けた場合にIMFがローンを出すという制度である。これはすでに2000年以来停止しているCCFに代わるものである。
 ドイツのジュビリーはこのESFの功罪を分析している。全文は;
www.erlassjahr.de/content/publikationen/fonds20051205_esf_analisis.php を参照。

●このファシリティは途上国が外的な衝撃を受けたときに必要な援助である。
●さらにこのファシリティは無利子であるので有効である
●これまで、IMFの無利子のローンの支出が遅いことが問題であったが、「まず供与し、後に観察する」という手法は有効である
しかし、一方では
●この早い供与は、支出する際に付随しているさまざまな条件と矛盾する
●このような条件を満たしているかどうかの判断はIMFに任されている。しかし、外的なショックとは何かについての規定はない
●外的なショックがどれだけ続くかについてのIMF・世銀の規定があいまいなため、援助の期間が不明確である
●なぜ低開発国だけにESFの供与が限定されるかについての説明がない
●ESFの金額は、すべての該当国を円状するのには不十分である
●決定点に達しているHIPCsの債務を帳消しにするというG8の計画とESFによるローン供与との関係が明確でない
などと批判している。