DebtNet通信 (vol.4 #6)  
世界銀行を告訴するために
2005年3月22日


1) 世銀を告訴することは可能か?

  国際通貨基金(IMF)は、加盟国政府がそれぞれIMF に“保有している”引き出し金を使って融資を行っているので、法的な免責権をもっている。したがって、IMFを告訴することが出来ない。
  一方、世界銀行は、その憲章第7章の2項に「世銀は一定の条件のもとでは法廷に呼び出されることもありうる」と記載されているように、1つの組織としても、法的存個人としても、免責権を持っていない。
  なぜなら、世銀設立当時、世銀が債務返済不履行に陥った場合、世銀を告訴する権利を保証しない限り、世銀債を売ることが出来ないと想定されたからである。世銀は銀行業務を行い、金融市場で業務をする「銀行」である。
  世銀は、その事務所を置いている国、または世銀債を発行している国の裁判所に告訴されうる。したがって、世銀は設立以来、世銀に対する告訴は可能であったし、またこれまでその条項が改正されていない。それは、世銀が世銀債を発行して金融市場から借り入れた資金で融資を行ってきたという理由からである。これまでは、主として北米や日本の巨大な市中銀行が世銀債を購入してきたが、今日では年金基金や労働組合など他の機関投資家が買っている。
 
  これまで世銀は一貫して、巨大なダム建設、鉱山開発、輸出志向型農業、火力発電所などといった巨大インフラ建設プロジェクトに優先的に融資してきた。これは環境破壊、人権侵害、貧困の増大につながるものであった。
  また世銀はアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの独裁政権、アパルトヘイト、旧ソ連圏のルーマニアなどのチャクシェスク政権など悪名の高い政権に融資して、その存続を維持してきた。
  一方、世銀はインドネシアのスカルノ政権などの民族主義政権、チリのアジェンダ社会主義政権などを一貫して不安定化させる政策をとってきた。
  世銀はまた、独立後の途上国に対して、植民地時代のモノカルチャーをさらに促進するような政策をとってきた。その結果、途上国の旧植民地宗主国に対する経済依存性は温存されたのであった。
  さらに、世銀は1970年代後半から途上国に対して、構造調整融資を行ってきた。これは、途上国をグローバルな市場経済に組み込むことに貢献した。
  今日、世銀は途上国で水と土地の民営化を推進している。そして、第3者の「鉱山業についての委員会」が出した勧告を無視して、融資を続けているように、世銀はこれまでの政策を改善する気はないようだ。
  以上の件について、世銀を告訴する必要がある。

  世銀を告訴できるのは、第1に世銀融資の被害者である。第2に、銀行、労組、個人など世銀債の所有者である。
  しかし、これまで、世銀に対する告訴が行われたことはない。
  なぜなら、第1に、世銀の憲章第7章第8項でもって世銀の理事や総裁を含む職員が業務を施行する際に免責権を与えている点が理由である。この項によって、あたかも世銀が1つの法的存在として告訴することができないかのような印象を与えている。
  たしかに、世銀の理事個人を告訴することよりも、むしろ世銀が機関として、その行為を問われるべきであろう。また理事が辞任した後に、法的に告訴できる。
  第2に、世銀がこれまで告訴されなかったのは、法的手続きが長期間にわたることと、煩雑な点でもある。また、しばしば世銀の行為と現地政府の行為との境界線がはっきりしないのもその理由である。

2) 米議会で世銀批判

  米上院の「多国間機関(主として世銀)の腐敗に関する外務委員会」では、昨年5月、公聴会を開いた。その際、証人として呼ばれたイリノイ州のエバンストンにあるノースウエスタン大学の政治学部のジェフリー・ウインター準教授は「世銀がその設立以来、開発融資を行っていた中で、約1,000億ドルが腐敗に貢献した」と証言した。
  「世銀は国際法に基づいて、またその憲章の条項にもとづいても、融資があらかじめ決められた目的に使われることになっており、さらに明らかにその融資金が盗まれていることを知りながら、この条項を尊守してこなかった」と述べた。世銀が行っている「腐敗防止策は、なんら効果をあげていない」ばかりか、これまで世銀の融資の被害者たちが、その債務の返済を免除されていない」と語った。
  昨年10月以来、議会の休会中に世銀政策の立案を委託された議会の中の会計検査局は「現行の米国の法律では、会計検査局は世銀の活動を審査する権限を持っているが、しかし、世銀を告訴する権利はない」という報告書を提出した。そこで、議会では、この米国の法律の改正の必要性が出てきた。また同監査局の報告書には、「アフリカのレソト政府が腐敗防止キャンペーンを行い、世銀がAcres International社に委託したプロジェクトに絡まる汚職事件を裁判で同社を有罪にした事件を例に挙げて、世銀と米国政府の腐敗のブラックリストを共有すること」を勧告した。
  この勧告が発表された2日後に、世銀の制裁委員会は、同社に対して3年間業務委託を停止したのであった。