DebtNet通信 (vol.4 #4)  
ロンドンG7財務相会議の「結論」
2005年2月14日


2005年2月4〜5日、ロンドンでG7財務相会議が開かれた。これは、今年4月、ワシントンで開かれるIMF・世銀の春季総会と、今年7月6〜8日、エジンバラで開かれるG8サミットの枠組みと政策を決める重要な予備会議である。

1)ロンドン会議の議題

ロンドンG7財務相会議の最大の議題は、議長である英国のブラウン財務相が提案した「ミレニアム開発ゴール(MDG)」の達成と、そのための重債務貧困国(HIPC)のIMF・世銀など多国間債務の100%帳消しと、ブラウン財務相がかねてから唱えてきた貧困根絶のための「国際金融ファシリティ(IFF)」の創設問題であった。

IFFとは、途上の貧困根絶のために、ブラウン財務相がかねてから提唱していたアフリカに対する貧困根絶の「マーシャル・プラン」であって、500億ドルという大量の資金を、一挙にアフリカの貧困根絶に供与する機関である。具体的には、IFFは、先進国政府の保証をもって市場で資金を集め、それを低利でアフリカに貸し付けるというものである。IMFにはPRGF、世銀はIDAという類似の低利、あるいは無利子の融資機関を持っているが、これらには構造調整プログラムが条件になっており、しかも、その額は少ないからである。

2)日本のマスコミの誤報

日本のマスコミは、「米英のIMF・世銀の100%債務帳消し提案に対して、日仏が共同して反対し、まとまらず、夏のG8サミットに持ち越された」こと、また、IFFについては、「日米が反対した」と報じている。(『朝日新聞』2005年2月6日5面)

あたかも、日本が英国案にすべて反対して、先送りしたかのように見られるが、会議の直接の取材をせずに、日本代表団の報道官の毎日のブリーフィングしか聞かない日本のマスコミからは真実は見えてこない。

実際にはどうだろうか。たしかに、債務問題は、2月5日に発表されたG7財務相・中央銀行総裁会議の「声明」には書き込まれなかった。しかし、「開発に関する結論」という文書が声明に付随する文書として発表された。この文書について、日本のマスコミは日本代表団だけからしかブリーフィングを受けなかったので見過ごしたに違いない。

3)コミュニケの内容

「結論」の冒頭のパラグラフで、G7は2015年までにMDGを達成するために途上国、とくにこのままでは達成できないアフリカを支援することを再確認した。第2のパラでは、2002年3月、メキシコのモンテレイで開かれた国連開発金融サミットでの合意文書を引用して、ODAの増大と債務救済を再確認している。

第7パラで、IMF・世銀の重債務最貧国(HIPCs)イニシアティブ、つまりIMF・世銀の債務帳消しについて述べている。確かにここではG7は、HIPCsイニシアティブを承認はしているが、それに加えて、「より多くの債務救済が必要だ」としている。HIPCsの国を「ケース・バイ・ケースで分析」し、我々の意志に基づいて多国間債務を100%まで帳消しにすることに同意した、となっている。上記の括弧の中のフレーズは多分、日本が挿入させたのに違いない。なぜなら、1999年6月のG7サミットでも、「ケルン合意」に日本が2国間の債務の帳消しが出来ないので、同じようなフレーズを挿入した例があるからだ。

しかし、ここにははっきりと「HIPCsの多国間債務の100%帳消し」が書かれている。また「結論」には今後のスケジュールが詳細に書き込まれている。たとえば、債務帳消しの資金としてのIMFの金売却については、ロドリゴ・デ・ラトIMF専務理事が4月のIMF・世銀春季総会までに提案を作成することになっている。世銀とアフリカ開発銀行の債務に関してもまた、4月までに、詳しい方法を提案することになっている。さらにHIPCs以外の貧困国の債務についても、IMF・世銀は、「債務の持続可能性」を考慮するように要請している。また、パリ・クラブ以外の国もHIPCsの債務帳消しに同調するように要請している。

4)G7ははじめて多国間債務100%帳消しに同意

すでに財務相会議以前に、100%帳消しについては、米国も同意していた。米国の案は、「貧困国の多国間債務を、即時、一挙に、全額帳消しにする」というラジカルなものであった。一方米国は、アフリカの貧困根絶には、独自の援助を計画している。それは、米国の外交政策に同意した17カ国に25億ドルを供与するというものである。

外国のメディアは、例えば『ニューヨーク・タイムズ』2月7日付けには「G7が公式に、はじめて、貧困国の世銀などの巨大な国際機関の債務を100%帳消しにすることに同意した。その額は700億ドルに上る」と報じている。

5)IFFをめぐる米英の対立

G7が合意に達することができなかったのは、日本のマスメディアが報じているような「100%債務帳消し」問題ではなかった。それは、G7、とくに英国と米国が対立した項目は、アフリカ支援の「マーシャル・プラン」であり、「IFF創立」であった。英国は開催国として、南アフリカのネルソン・マンデラをロンドンに呼び、アフリカの窮状について話させた。マンデラは貧困根絶の闘いを奴隷制やアパルトヘイトに対する闘いになぞらえた。

この英国案にフランスが同調したが、米国が反対した。英国は、このマーシャル・プランとIFF創設を、今夏のスコットランドのG8サミットで決議を獲得するつもりである。

G7財務相会議の終了後、議長を務めたゴードン・ブラウン財務相は記者会見を開き、「G7のコミュニケに100%の債務帳消しが明記されたのははじめてのことである。それは、G7が貧困国の声に耳を傾けた結果である」と述べた。

フランスが、英国、米国に張り合って、途上国の貧困根絶にために、為替取引税、環境税、航空機の切符税、武器輸出税などさまざまな国際税の導入を提案した。

6)米ジュビリーの声明(要旨)

米ジュビリーはかねてから主張してきたIMF・世銀の債務の100%帳消しにG7が同意したことに勇気づけられた、と述べている。しかし、これが実際に帳消しが実現するべきであり、また、破壊的な条件が押しつけられることがないことを要求している。

1. 100%の元金の帳消しであること。英国とカナダの提案では元金を帳消しにしないで、今後10年間、債務の返済を猶予することになっているからである。
2. 例外の国を設けてはならない。G7のコミュニケではHIPCsの国を「ケース・バイ・ケースで分析する」とある。このようにHIPCsの42カ国に例外を設けてはならない。
3. いかなる条件もつけない。債務帳消しは外部からの条件を押しつけることがあってはならない。債務国では、資金が正しく使われているかを市民社会が調査出来るように支援するべきである。
4. IMF・世銀は正当なシエアを払うべきである。IMFは金を売却して得られる350億ドルをIMFと世銀の債務帳消しに充当すべきである。これに加えて、世銀は少なくとも170億ドルをこれまでと将来の利益金から捻出できる。