DebtNet通信 (vol.4 #3)  
「世銀は帳消し費用を賄える」
2005年1月24日


 2月4日、ロンドンでG7蔵相会議が開かれる。これは、今年7月6〜8日のエジンバラでのG8サミットについての予備会議である。したがって、G7蔵相会議では、是非とも、重債務貧困国(HIPCs)42カ国の多国間債務100%帳消しの合意をかちとらねばならない。
 HIPCsの多国間債務とは、主としてIMF、世銀に対する債務である。2国間債務の場合は、先進国政府がそれぞれ財政から資金を捻出して帳消しをしてきた。一方、多国間金融機関は、“帳消し財源を持っていないこと”を理由に、帳消しを拒み、代わりに「HIPCsイニシアティブ」を使って、帳消しをサボタージュしてきた。
 IMFの債務帳消しの財源については、1999年6月、ケルン・サミットでのG7の「ケルン合意」によって、すでに「IMF所有の金を売却して債務帳消し資金に充てる」ことが合意されている。しかし、最貧国が最も多く抱えている世銀、とくにその傘下のIDA債務については、世銀は、自らの資金を帳消しに充当すると、世銀本体(IBRD)の開発融資資金の調達、つまり「世銀債を市場で売って調達することが困難になる」と主張してきた。先進国政府が新しい資金を提供してくれない限り、帳消しはできないと開き直ってきた。
 ここで、英国政府が、「任意で世銀に資金を拠出する」と発表した。したがって、「他のG7諸国もこれに従え」と言うのである。しかし、米国、日本、ドイツなど主要なG7国は巨額な財政赤字を抱えており、新たな資金の拠出は困難である。もし、拠出するとしたら、それは既存のODA予算を削らねばならない。これは「ODAを債務帳消しに使わない」というジュビリーの原則に違反する。
 そこで、世銀自体(IBRD)に帳消しの財源があるかということが、問題になる。そのために、今回、米国ジュビリーは、「世銀はHIPCsの債務帳消しに必要な資金を十分に保有している」という報告書を発表した。それはSony KapoorがAmerican Friend Service Committee(クエーカー派)の委託を受けて、世銀の財務内容を調査したものである。
Sony Kapoor氏は、元ロンドンのシティでの金融取引人として活躍していたが、現在では英国Tobin Tax Networkに参加している。今回はJubileeUSAの上級顧問の資格でワシントンに滞在して、調査を行った。

 以下はSony Kapoor氏の「World Bank(IBRD)Resources and Debt Cancellation」の要約である。 (全文はwww.jubileeusa.org/に掲載)

結論

帳消しの資金については、3つの方法がある。
第1は、IMFの金を売却することである。これで350億ドルを捻出できる。これは、IMFと世銀の両方の債務の帳消しを賄える額である。
 第2は、英国政府が提案しているように先進国政府が追加の資金を拠出することである。
これと第1のIMFの金売却からの資金とを合わせると、HIPCsの債務の100%帳消しを十分に賄える。
 第3に、この帳消しに追加の資金が必要な場合に、世銀本体(IBRD)利益金から175億ドルを動員できる。これについては、通常の業務に支障はない。

分析

 IBRDは世界で最も資金が豊富な金融機関である。その運営資金は2,360億ドルである。金融機関としては最も安定しており、現在、その60年の歴史の中で、最も健全だと言えよう。IBRDの2000〜04年の年間の利益金は19.5億ドルである。1995〜99年には年間12.0億ドルであった。また融資に対する収益率は1999年の21.7%から、2004年には29.3%に上昇している。さらに、ここ数年間は、IBRDは運用可能な資金の50%しか融資していない。世銀債は金融市場ではAAAをマークしており、これは最も信用度の高いものである。
 IBRDはこのように健全な金融機関であるので、貧しい国のIDA債務を帳消しにするために、IBRDが保有している370億ドルの準備引当金の中から、100億ドルを使っても良いはずだ。
それに加えて、IBRD はかってないほどの収益をあげているので、毎年の利益金から6億ドルを出しても良いはずだ。2020年には、合計すると75億ドルになる。
 これは、世銀債のAAAの信用度を弱めるものではない。有力な信用調査機関であるFitchの分析では、利益金から100億ドルを債務帳消しに引き出してもなお、465%(約3.5倍)の運用資金を募集しても、AAAを維持できる、といっている。IBRDの資金運用率は115%である。これは通常の健全な銀行の8倍である。また融資に対する利潤率は13倍である。
 IBRDはこのように健全な事業展開をしており、さらに、OECD諸国の政治的バックアップがあるので、市場からの資金調達については、最もコストが安い。そして、世界の国債市場では最も健全と見なされている米国債の利率とほとんど変わりがない。
 IBRDの運用資金は、利益金/準備金と世銀債の売り上げから調達される。そしてその資金は資金運用のための投資と開発融資に使われる。IBRDが準備金から100億ドルを債務帳消しに使ったら、債権市場から同じ額を調達しなければならない。その場合、世銀債の利子として2億6,000万ドルを余計に支出しなければならない。
 IBRDは通常、世銀債を調達したときの利子より少し高い利子で融資する。それによって、利益金を生み出している。そこで、この2億6,000万ドルを調達するには、
 オプション1:融資の際の利率を変えないで、利益金から引き出す。その場合IBRDの利益金は10〜15%低下する。しかし、IBRDが歴史的に高い利益をあげているので、通常の業務に支障をきたすことはない。
 オプション2:利益金の額を同じにして、融資の利率を上げる。これは現在のIBRDの利率を6%挙げることになる。その結果、2003〜4年の4.02%という利率が、4.26%になる。
 オプション3:オプション1と2を合わせたものにする。その結果、IBRDの利益金は10%減少し、融資の際の利率は3%上昇する。
 Sony Kapoor氏は、IBRDが債務帳消しをする場合、「オプション1」を勧告している。