DebtNet通信 (vol.3 #30)  
IMF・世銀がHIPCsの債務帳消しを検討
2004年8月24日

1. 米・英が最貧国のIMF・世銀への債務の100%帳消しを検討

ドイツ・ジュビリーから送られてきたメール(8月5日付け)によると、「今年6月、米国のシーアイランドで開かれたG7サミットにおいて、米国と英国の首脳が重債務最貧国(HIPCs)のIMF・世銀など多国間債務を100%帳消しにすることを検討」した、ということである。

ドイツ・ジュビリーは、これは1998年以来、ジュビリーのこくさキャンペーンが目指してきたことが実現する見通しが出て来たと述べている。そこで、2005年のスコットランド・サミットに向けて、「100%帳消し」の国際キャンペーンを行うことを提案している。

それには、まず第1に、2国間債務を協議するパリ・クラブに対して、これまでの67%、80%、90%という帳消し額の議論をやめ、100%帳消しに踏み込むように要求すべきである、としている。

第2に、パリ・クラブに対して、これまでのようにHIPSsの国名を弄くるのをやめさせる。例えば、ナイジェリアはHIPCsのリストから出たり入ったりしてきた。また英国のジュビリーが、これまで帳消しの対象国として52か国を挙げてきた。しかし、なぜモロッコが入っていて、ブラジルが抜けているのか、ジャマイカが入っていて、インドネシアが入っていないのか、議論のまとになってきたからである。

第3に、帳消しの対象となる債務の規定を真の意味の100%とすることをパリ・クラブに要求する。なぜなら、これまでパリ・クラブでは帳消しの対象となる債務を、1987年以降、リスケが行われてきたので、それ以前の債務とするPost-cut-off-dateとしてきた。また国債に変えられた国内債務をどうするのか?政府が保証した民間企業の債務をどう扱うのか?ドイツ・ジュビリーの提案では、これらすべての債務を対象とするよう要求する、としている。

第4に、帳消しにあたっては、これまでは、債権者が圧倒的に強い力をもっていた。ドイツ・ジュビリーは、債務国、債権者双方の力が均衡するよう「公正で、透明性のある仲裁プロセス(FTAP)」を要求する。すでに、ジュビリー・サウスからは、「一方的に債務国が返済を拒否する」という提案がなされ、またAFRODADがアドホックな「国際破産法廷」の提案がでている。これらは、FTAPの具体的な内容である。

北沢の解説

英国と米国の首脳が、先のサミットでIMF・世銀など多国間債務の100%帳消しを検討したということは、重債務最貧国が巨額の多国間債務を抱えているという現実からきている。さらにEUと米国は、2002年3月にメキシコのモンテレイで開かれた国連開発金融サミットにおいて、アフリカに対するODAを倍増することを公約した。その後、EUはアフリカにカリブ海諸国を付け加えた。

しかし、これら最貧国に供与されたODAは、IMF・世銀などの多国間債務の返済にまわされ、貧困削減、ミレニアム開発ゴールの達成には役立てられない。したがって、ODAの倍増には、多国間債務の100%帳消しをすることが前提条件となってくる。

2国間の債務については、G7は、これまでに帳消しを公約してきた。日本は、2000年4月10日、非ODA債務の100%帳消しを公約し、2002年12月10には、ODA債務の100%帳消しを約束した。ドイツは1999年6月のケルン・サミットにおいて、ODA債務の100%帳消しを公約した。たのG7国も同様な約束をしている。

しかし、帳簿上の帳消しは、IMF・世銀のHIPCイニシアティブの進展に連動してなされていない。しかし、債務国は、2国間の債務の返済をする必要はない。G7以外の債権国については、まちまちで、大部分は帳消しの約束を行っていない。

IMF/世銀などの多国間債務については、これまでに26カ国、総額340億ドルが削減されたに留まっている。これには複雑で時間のかかる拡大HIPCイニシアティブを受けねばならず、さらに、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)も加わっている。

ドイツ・ジュビリーが提唱する100%帳消しのキャンペーンには、G7のIMF・世銀の理事に対する強力なロビイ活動が必要である。

2. アジア通貨基金の創設?

1997年のアジア通貨危機の直後に、香港で開かれたIMF・世銀の年次総会に、日本はマレーシアなどに押されて、「アジア通貨基金(AMF)」構想をぶち上げた。しかし、米国とIMFの強い反対に会うと、たちまちこれを引っ込めてしまった。またこの時は、AMFに台湾が入っているというので中国も反対した。

その後、日本は、ASEAN10カ国と中国、韓国、日本の3カ国を加えたASEAN+3による「チェンマイ・イニシアティブ」を実現させたのであった。これは、日、中、韓3カ国とASEAN各国がそれぞれ2国間で通貨危機に際して、融通し合う「通貨スワップ」協定である。すでにこれまでに、このスワップ協定は16件、総額365億ドルに達している。

今年5月、韓国の済州島で開かれたASEAN+3の蔵相会議では、これまでのように、通貨危機に陥った際、協定の相手国とそれぞれ交渉して外貨を融通してもらうのではなく、一度の要請で全加盟国が拠出を約束したものから外貨を融通してもらえるというものにしていくことが決まった。これは、限りなく「AMF」に近いものである。

ちなみに、日本は昨年以来、円高対策として、国債を発行して、その円でドル買いをしてきた結果、8,000億ドルの外貨を保有している。また中国は、2000億ドルという巨額の外貨を貿易黒字によって貯めこんでいる。韓国も同様である。