DebtNet通信 (vol.3 #25)  
HIPCイニシアティブの行方
2004年4月9日

4月4日付けの英紙『オブザーバー』はNick Mathiason記者名で、「IMF・世銀がHIPCイニシアティブを今年12月で廃止する」と報じた。さらに、HIPCイニシアティブに代わるものは準備されていないため、以後最貧国の債務救済は行われないことになる。これは1999年6月、ケルン・サミットで、G7が行った国際公約の崩壊である、とも言っている。

結局のところ、最貧国42カ国の債務総額1400億ドルのうち、約400億ドルが削減され、さらに300億ドルが削減を約束されており、削減総額は700億ドルであった。対象となった国はHIPCs42カ国中、27カ国にすぎない。

しかし、国際社会の前には「2015年までに貧困を半減する」というミレニアム開発ゴールという課題がある。最貧国が抱える債務の根絶は、この貧困削減にとって、第1の、しかも緊急の前提条件である。それが、HIPCイニシアティブの廃止によって、実施されないことになってしまった。

2005年には、国連はミレニアム開発ゴールの達成度を示す報告書を発表する。これに向けて、英国のブラウン蔵相は、「International Finance Facility(国際金融基金)」と名づけた年間500億ドルの国際公債を発行することを提案している。これを途上国の開発援助に充てようというのである。このブラウン案を支持しているのは、今のところ、フランス1国にすぎず、スカンジナビア諸国などは、公債の発行は次の世代につけを残すものだと、反対している。英国は、来年、EU議長、G8の議長国となることから、このブラウン案を強力に推進するものと思われる。

また世銀などは、債務削減よりも、むしろ貿易の分野で、先進国が農産物の輸出に補助金を出しているのをやめる、あるいは先進国の市場を途上国に開放するなどといった政策をとったほうが、途上国により大きな利益をもたらすと、主張している。彼らは、「貿易は成長のエンジンである」といい続けている。
 
また、ドイツ・ジュビリーは、ケルン・サミット5周年に当たって、HIPCイニシアティブの達成度を検証した。
その結果、以下の6項目について、ドイツ政府並びに他のG7政府に対して、要求している。



1) ケルンで行った債務救済の公約を破ってはまらない。HIPCイニシアティブを再規定することは、重債務貧困国に対する詐欺行為である。
2) 約束した債務救済を実施する際に必要な「Topping-Up(上乗せ)」に対して新しく条件をつけてはならない。IMF・世銀がHIPCイニシアティブを実施したときに行った将来予想される輸入の歳入の計算が誤っていた場合、そのつけを債務国に押しつけるのではなく、国際金融機関のほうが責任を負うべきである。
3) 「債務の持続可能性」の規定は債権者の意向で決められるのではなく、国際的に合意した開発目標によらねばならない。
4)
債務国はギャングのような債権者による告訴行為から資金的にも法的にも守られるべきである。
5) 債務救済は貧困を増加させるようなマクロ経済の基準で行われてはならない。
6) 「完了点」で債務救済を受けた重債務最貧国が、再び債務返済が不履行になった場合、もはや、「上乗せ」を繰り返すのではなく、公正で、透明性のある、独立の仲裁プロセスによる包括的な債務救済を受けるべきである。

(註:3月29日にドイツJubileeが発表した論文より)
なお、英文の全文が入用の方は北沢までご連絡ください。