DebtNet通信 (vol.3 #24)  
60周年を迎えたIMF・世銀の最近の政策
2004年4月7日

4月22日〜25日の春季会議を前にして、IMF・世銀がグローバリゼーションの推進に果してきた役割に対する反対の声は増大している。この中で、あらためてこれら国際金融機関の現状を分析してみよう。

ウォルフェンセン世銀総裁は、「昔ながらの世銀批判を続けないで欲しい」という。彼は、ワシントン・コンセンサスの時代は過ぎて、今は「ポスト・ワシントン・コンセンサス」の時代であるという。「構造調整」は「貧困削減戦略」に代わり、これから「開発政策融資」が主流になるという。そのため、世銀のスタッフたちは数知れぬ開発政策融資ペーパーなるものを起草しており、一方では、その政策融資が社会、環境、雇用に及ぼす影響についての表とグラフを作成するのに忙しい。これらのペーパーには必ず、オーナーシップと参加が共通用語として使われており、腐敗と闘う“グッドガバナンス”という言葉が導入されている。

本来の「ワシントン・コンセンサスの10項目」のなかで、最も多く使われ、そして最も激しく反対されてきた3項目、つなわち「自由化」、「民営化」「財政緊縮」について、IMF・世銀はどう変わったのであろうか。

1.自由化

世銀は貿易のセクションを急増強している。世銀は貿易面では「途上国の友人」だというポーズをとっている。WTOでの交渉の行き詰まりが貧困層にとって不利であることを証明する調査報告書を出し、途上国の市場へのアクセス、さらに貿易協定を実施しあたっての途上国の役人の能力開発などについての数多くのアドボカシイ・ペーパーも出ている。 

世銀のスタッフは、ドルの支配と途上国の市場開放が、貧困削減に貢献することを疑問視する論文さえ書いている。以前世銀では異端視されていた地域貿易協定、輸出加工区、一次産品マーティング・ボードなどを現在では容認する動きが出ている。

世銀は以前のように関税引き下げの圧力をやめ、今日ではもっぱら途上国の能力向上プロジェクトに大量の融資をしている。しかし、途上国政府がサービス、投資、政府調達などの分野での自由化に抵抗している場合、世銀は昔ながらの圧力をかけている。世銀もIMFも、南も北の政府も同様に、発展過程では、ある一定の関税措置と投資規制が必要だというる説や事例を否定している。世銀もIMFも異なった多様な開発の道があることを認めず、唯一の開発理論に固執している点では前と変わらない。

IMFは、アジア、ロシア、ラテンアメリカ、そしてトルコ危機が世界金融システムを揺るがして以来、資本勘定の自由化をIMFの中心的事業とすることは、あきらめているようだ。IMFが債務再建メカニズムを提案したことは、市場だけで金融危機を解決できないことを認めたことを物語っている。しかし、この提案が否決されたのは、IMFが市場の見えざる手にとって代わろうとしたところにある。

IMFのチーフ・エコノミストであったKen Rogoffは辞任する前に、「金融自由化は経済成長をもたらさなかったし、危機に対する抑制力を殺いだ」ことを認めた。

ケラーIMF専務理事も辞任にあたって「アジア通貨基金の設立に反対したのは、バカだった」と語った。
しかし、IMFは世界金融システムを改革することが出来ず、単に銀行改革とそのスタンダードとコードの開発に終わった。このような限界があるため、東欧、東アジアと中央アジア、そしてラテンアメリカまでもが、IMFから距離を置くことが出来、かつその方が得であると考えるようになった。

2.民営化

IMF・世銀の民営化政策に対して、途上国のすべてが抵抗している。とくに、それが公共サービスに民営化をテーマにしているとき抵抗は激しい。あるところでは、人びとの反対に押されて再国営化が起こっている時、あるいは、多国籍企業が参加する時に反発が起こった時、世銀は態度を変えている。たとえば、世銀は教育の「受益者負担」を引っ込めた。水の民営化について、世銀のスタッフは「このことについて自分たちは狂信者ではない」といった。保健、電力、通信の分野については、世銀は「国家の役割は決定的である」と言っている。

世銀の新しいスローガンは、「公と民のパートナーシップ」である。
とはいっても、世銀・IMFは、2国間、多国間のプログラムを通じて、そっして、世銀が運営する協調融資を通じて、民営化を押し付けている事例が多く見られる。

3.財政緊縮

世銀とIMFの財政緊縮政策は、長期の経済成長を目的としたものよりはむしろ、債権者向けのものである。ラテンアメリカでの最近のIMFとの交渉では、財政緊縮政策はあまり協調されなかった。IMFによれば、中所得国においては、厳格な緊縮政策は最貧国に比べると必要ないという。

最貧国では、社会的サービスに対する世論の要求は高まっている。この場合、政府はIMFの厳格な財政均衡、インフレ抑制、利子率の引き上げなどについての指令との板ばさみになる。とくにアフリカでは、IMFが画一的な財政支出の削減を要求している。

4.ポスト・ワシントン・コンセンサス、あるいはワシントン・コンセンサス・プラスか

上記の3つのワシントン・コンセンサスのほかに、ポスト・ワシントン・コンセンサスと呼ぶものは、社会、環境のセーフガード、オーナーシップ、参加、グッド・ガバナンスなどがある。これらすべてについての、とくに世銀のこれまでの実績を見ると、すべて中途半端か、期待を裏切るものである。