DebtNet通信(vol.3 #1)  
重要「日本政府、ついに最貧国の債務帳消しを発表」
「IMF・世銀のHIPCイニシアティブ」
2003年1月9日

 昨年末、12月20日に、外務省は、ついに、これまで2年半越しに亘って、DebtNetに対して「その件については、検討中」と繰り返してきた「債務救済無償援助スキーム(TDB無償)」を、廃止し、重債務貧困国(HIPCs)、それに一部の低開発国(LDCs)の累積債務を帳消しにする、と発表した。

 これは、1999年6月、ケルン・サミットでG7首脳が、「2国間ODA債務を100%帳消しにする」という「ケルン合意」であった。
 さらに、2000年沖縄サミットを前にして、外務省経済協力局が、ジュビリー2000日本委員会との交渉で、「HIPCsのODA債務を帳消しにする」「TDB無償スキームを見直す」ことに合意し、これを、同年6月27日、ジュネーブで開かれた国連社会開発サミット+5で、世界に公表した公約であった。

 「TDB無償スキーム」の廃止によって、債務国41カ国は、今後公式に債務返済の義務はなくなった。実際には、ケルン以来、これらの国は元金・利子ともにほとんど返済していない。すでに不良債権化していたのであった。

 しかし、12月17日、DebtNetと外務省経済協力局有償資金課との話し合いでは、これは、条件付きであり、直ちにすべののHIPCsが債務帳消しとなるものではないことが判明した。その条件とは、

1) IMF・世銀の枠組みの中で実施される。つまり、100%の帳消しが行われる国は、
IMF・世銀が「完了点」に達したと認定し、拡大HIPCイニシアティブによって、債務の元金を含めて削減を受けた国に限定される。これでは、HIPCs41カ国中、ウガンダ、モザンビーク、タンザニア、ブルキナファソ、モーリタニア、それに南米のボリビアの6カ国にすぎない。しかも、この6カ国も、今年4月からの個別交渉に委ねられる。
2) 今回の対象国のなかで、HIPCsでないLDCsは、「TDB無償スキーム」が廃止され
たのだが、これまで、返済を滞ってきた「未返済金」については、帳消しの対象にならない。外務省は、「ミャンマーのようにHIPCsであり、TDB無償の対象国の場合は、拡大HIPCイニシアティブが適用される」と答えた。しかし12月22日、ミヤンマーの経済構想調整支援会議では、債務総額2,734億円のうち、1,500億円を帳消しにすることを約束した。これは、今年4月に始まる措置を前倒しの形で進められた。
 今回の外務省の決定は、ミャンマーの債務帳消しを目的として、取られた措置ではないかとさえ勘ぐられる。

これで、G7中唯一ケルン合意の実施を拒否し、「TDB無償スキーム」にしがみついてきた日本政府との交渉は、一段落した。DebtNetとしては、今後は、
1) IMF・世銀の拡大HIPCイニシアティブの廃止とFTAPの確立
2) インドネシアなど非HIPCsの「不法な債務」
の2点に重点を移して行く。

IMF・世銀の「拡大HIPCイニシアティブ」について

 1999年、ケルン合意では、HIPCs41カ国中36カ国の多国間債務500億ドルを帳消しすると公約した。しかし、これまで、決定点、完了点に達したと認定され、債務の削減を受けた国は26カ国、総額は260億ドルに留まっている。

「債務の持続可能性」の問題点

 しかも26カ国中、半数が、すでに、拡大HIPCイニシアティブに規定された「債務の持続可能性」がなくなり、再び債務危機に陥っている。したがって、以後IMF・世銀が拡大HIPCイニシアティブの基準、輸出総額やGNPといったマクロ指数に占める債務の比率を弄繰り回し、修正しても、同じことである。HIPCsの主要な輸出品のコーヒー価格が急落するだけで、あるいは、洪水、旱魃などの災害でGNPが縮小するといった事態で、直ちに「持続可能性」はなくなる、という現実があることを考慮すべきである。IMF・世銀がHIPCsの優等生としているウガンダはコーヒーの値下がりで、非持続可能性に陥った。G7はウガンダに10億ドルの追加削減を行ったが、これでも十分ではない。

 HIPCイニシアティブの枠組みそのものを取りやめるべきである。

 IMF・世銀がHIPCイニシアティブに固執すると、G7をはじめとした2国間債務が帳消した現在、債務国は、浮いた資金を、多国間機関の債務返済に充当することになる。これは道義的に正しくない。IMF・世銀はアルゼンチンやブラジルの例では、多国間機関の救済融資がヘッジファンドやはげたかファンドへの返済資金に充てられているといって問題視し、SDRMスキームを提起しているが、自らも同じことをやっている。

世銀の言い分

 世銀は拡大HIPCイニシアティブに固執する理由として、「債務帳消しは、貧困根絶に
役立たない。なぜなら世界の貧困が集中するインド、中国、ブラジルなどの国は、HIPCではなく、債務帳消しに対象ではない。むしろG7はHIPCsに対するODAを増額すべきだ」と言っている。

 これまでジュビリーが主張してきたように、HIPCsにとては債務帳消しはODAの代わりである。ODAは、先進国の外交政策と資本投資の枠組みで供与されるので、HIPCsに優先的に行くわけではない。また、ODAはグラントではない場合、新しい債務につながる。