DebtNet通信(vol.2 #53)  
「IMFのSDRMに対するDebtNetの見解」
2002年12月23日

すでに10月13日、DebtNet通信Vol.2 No.55で、お知らせしたように、IMFは、アルゼンチンの債務危機を契機に、アルゼンチン、インドネシア、ブラジルなどの新興市場国政府の債務救済に関して、「国家債務解決メカニズム(SDRM)」案を事務局が作成し、12月18日のIMF理事会に提出することになった。それに先立って、ドイツジュビリーから、G5理事国(米、日、独、仏、英)の政府に対して、それぞれのジュビリー団体が、 NGO側のFTAPについて、ロビイするよう呼びかけがあった。 そこで、DebtNetは、財務省国際機構課に対して、以下のような申し入れを行った。


財務省国際局国際機構課長  
丸山純一様
2002年11月26日
「IMFの国家債務解決メカニズム(SDRM)ペーパーについて」
 さる9月28日〜29日、ワシントンで開かれましたIMF・世銀年次総会において議論されましたAnn Krueger IMF副専務理事提案の「国家債務解決メカニズム(SDRM))」について、IMFのスタッフが11月末までに起草し、来る12月はじめに開かれるIMFの理事会に提出することになっているという情報を入手いたしました。勿論、これが正式のIMFのSDRMペーパーとなるには、来年4月のIMF・世銀春季会議で加盟国全員によって採択されなければなりません。しかし、12月の理事会の議論がほとんど決定的であることはいうまでもありません。

 私たちは、ジュビリー2000の国際キャンペーンが始まった1998年以来、すでに債務国の債務救済のプロセスとして従来採られてきたパリ・クラブ、及びIMF・世銀のHIPCイニシアティブともに、債権者の一方的な意思と決定によるものであることを指摘してまいりました。そして、債権者と債務国にとって公平で、透明性のある第3者の仲裁機関を設けることを提案してまいりました。これは「公平で、透明性のある仲裁プロセス(FTAP)」と呼ばれるものです。
 一方、Ann Krueger女史は、さる8月14日付けでSDRMについて、最終の提案を行いました。私たちには、IMFのスタッフのペーパーを事前に手に入れることができませんので、このAnn Krueger提案をもとに議論を展開するとすると、以下のようになります。

1.Ann Krueger IMF副専務理事のSDRM(国家債務解決メカニズム)とジュビリー提案のFTAP(公正で、透明な仲裁プロセス)の概念上の違い

(1) IMFは、プロセスの進行役をつとめるだけの「弱い中立の機関」を提案した。一方、ジュビリーのFTAPは、プロセスを進行させる「権力をもつもの」であるべきだとしている。

(2) IMFは債権者が交渉の結果に賛成、否決できるよう絶対多数を占めるべきだとしている。一方、ジュビリー側は、プロセスにおいては債権者は債務国と同等の発言権を持つし、独立の機関に対しても平等であるとしている。

(3) IMFは、SDRMを債権者間の調整機関であるとしているのに対して、FTAPは、債務国が返済不可能な債務から解放されることを目的としている。勿論、ジュビリーは、債権者間の調整の必要を認めているが、債務削減を重視している。

(4) IMFには、市民社会の参加や独立モニターの概念は全く欠けている。ジュビリーにとっては、これらは最重要課題である。

(5) IMFにとっては、IMFの特別な資格を擁護しているが、ジュビリー側は、すべての債権者は平等であるが、結果として、平等な削減にはならないとしている。

(6) IMFは、SDRMの法的な根拠として、IMF協定の条項の修正を必要と考えているが、ジュビリー側は、IMFの権限を強化することにならないように注意しながら、国家再生法を策定する方法をとるべきであるとしている。 

2.「債務解決フォーラム(DFR)」の選任方法について
 Ann Krueger女史の言う“中立の進行役”であるが、これはジュビリーだけでなく、債権者側からも批判の的になった部分である。そこで、DFRの選任は、国際司法裁判所を真似ている。最終的なDFR候補者のリストの承認は、国連総会を代表する国連事務総長にあり、IMFのような債権者にはない。

以上の点につきまして、12月のIMF理事会において、IMFのスタッフのペーパーが議論される時、日本の理事の方が留意頂きたくお願い申し上げます。                         
途上国の債務と貧困ネットワーク
                         


丸山課長の説明
6項目の要請について、説明したい。

1. 対象国について、
 SDRMは重債務貧困国(HIPCs)の債務削減が対象ではない。
 債務危機に陥ったアルゼンチン、ブラジルなどの新興市場国が対象である。

2. 解決すべき債務の対象
 これら政府の民間機関への債務は、最近では、銀行だけでなく、政府が発行している各種の国債(ボンド)の部分が多くなった。例えばアルゼンチンは、日本人むけに「サムライ・ボンド」などを発行している。これらボンドは、保有者が散らばっており、アルゼンチン側と話し合いをすることが困難である。
これらボンドを買い叩いて、ペルーの例のように「はげたかファンド」が、勝手にペルー政府をニューヨーク高裁に告訴し、勝利した。この「はげたかファンド」は、ほとんど原価をペルー政府に払わせ、莫大な利益を得たことがあった。 

3.SRDMの提案1―約款に書きこむ

これを解決するために、SRDMは、ボンドを発行する際に、あらかじめ「個別に訴訟をしない」ことを、約款に書き込む、というのがアン・クルーガー副専務理事の提案である。
しかし、ボンドの発行は、東京、NY、ロンドンなどそれぞれ条件が異なっており、これをグローバルに「約款」で統一する(Collective Action Clause)には、何年もかかる。

4 . SRDMの提案2―IMF第4条の改正

これは、条約の改正であるから、IMF加盟国の批准を必要とするため、時間がかかる。また、これは、IMFがボンド市場をコントロールすることになるから、銀行が反対している。

5 . SDRMの提案3−新たな条約を制定

これもIMF加盟国の批准を必要とする。

6 .新興市場国の反対

2002年11月27日、インドのニューデリーで開かれた南北20カ国(G20)の蔵相、中央銀行総裁の会議において、ブラジル、アルゼンチンなどがSRDM、とくに、ボンド発行の際に、「訴訟を禁じる」を約款に書き込むことに反対した。これはボンドが売りにくくなり、利子が高くなることを恐れたのであった。
 SDRMの行方については、IMF提案として、IMFの春期会議の国債通貨金融委員会(IMFC、24カ国)で議論される。しかし、実現には、何年もかかると思われる。



丸山課長は、SDRMの一部であるボンド債務分について述べたが、アルゼンチン、そして米国のラテンアメリカの戦略上最も重要なブラジルなど、新興市場国の債務危機の解決として、IMFが提案しているSDRM全体(公的債務と民間債務との関係については触れていない。
したがって、IMFがSDRMペーパーを発表するのを待って、SDRMをジュビリーがキャンペーンしてきたFTAPに近いものにするため、春季会議にいたるまで、ロビイを続けなければならない。