DebtNet通信(vol.2 #47)  
「IMF・世銀年次総会報告」
2002年10月13日

IMF・世銀年次合同総会
9月28〜29日、ワシントン

 債務問題についての議論は、Ann Krueger IMF副専務理事の提案(8月25日付け「DebtNet通信Vol.2 No.34」を参照)に終始した。その結果、HIPCsの債務帳消しについてのは、なんら改善されなかった。またドイツ(Jurgen Kaiser)、英国(Ann Pettifor)、オーストリア(Kunibert Raffer)など旧ジュビリー2000の仲間たちのロビイ活動も、アン・クルーガーの「公的債務解決メカニズム(SDRM)」に集中した。
 これは、すでに述べたように、アルゼンチンの債務危機が原因である。アフリカなどの重債務貧困国が先進国政府とIMF・世銀など公的機関からの債務がほとんどであるのに比べてと、アルゼンチン、そしてブラジル、インドネシアなど中所得国政府の公的債務は額が桁外れに大きいのと、民間銀行からの貸し付け分が多い。
 アルゼンチン政府のように、債務不履行(デフォールト)が発生すると、(ブラジルとインドネシアが続く可能性が大)、IMFが救済融資をしなければならない。1997年のアジア危機当時は、日本、米国、ヨーロッパなどがIMFに対して協調融資をしたが、今日は財政が逼迫していて、IMFの単独融資になっている。
 アルゼンチンの場合、IMFが救済融資をすると、アルゼンチン政府は、そのカネを短期で、取り立てが厳しい民間銀行からの債務の返済に充ててしまう。つまり、ワシントン(IMF)から出たカネは、ブエノスアイレスを通過して、ニューヨーク(民間銀行)へとたどる。これは「モラル・ハザード」であるとして、米国財務省がIMFの救済融資に反対している。
 IMFとしては、どうしても、アルゼンチンなどの債務の解決には、すべての債権者を平等に扱う、あるいは均等な負担(Burden Sharing)、つまり民間銀行の参加を必要とした。それがアン・クルーガーのSDRM提案であった。これはあくまで、彼女個人の提案どして、最初は、昨年、ニューヨーク財界の忘年会でのスピーチの形をとり、最後は、今年8月、スイス政府がスポンサーとなって、NGOも参加した公開パネル討論で、提案した。
 今日では、SDRMはほとんどIMFの公的提案になっている。

Jurgen Kaiser(ドイツJubilee)の報告

1) アン・クルーガーIMF副専務理事のSDRMとJubilee提案のFTAP(公正で、透明
な仲裁プロセス)の概念上の違いアン・クルーガーは、8月14日付けで、SDRMについての最終提案を行った。

(1)IMFは、プロセスの進行役をつとめるだけの「弱い中立の機関」を提案した。一方、ジュビリーのFTAPは、プロセスを進行させる権力をもつものであるとしている。
(2)IMFは債権者が交渉の結果に賛成、否決できるよう絶対多数を占めるべきだとしている。一方、ジュビリー側は、プロセスにおいては債権者は債務国と同等の発言権を持つし、独立の機関に対しても平等であるとしている。
(3)IMFは、SDRMを債権者間の調整機関であるとしているのに対して、FTAPは、債務国が返済不可能な債務から解放されることを目的としている。勿論、ジュビリーは、債権者間の調整の必要を認めているが、債務削減を重視している。
(4)IMFには、市民社会の参加や独立モニターの概念は全く欠けている。ジュビリーにとっては、これらは最重要課題である。
(5)IMFにとっては、IMFの特別な資格を擁護しているが、ジュビリー側は、すべての債権者は平等であるが、結果として、平等な削減にはならないとしている。
(6)IMFは、SDRMの法的な根拠として、IMF協定の条項の修正を必要と考えているが、ジュビリー側は、IMFの権限を強化することにならないように注意しながら、国家再生法を策定する方法をとるべきであるとしている。 

2)「債務解決フォーラム(DFR)」の選任方法

 アン・クルーガーの言う“中立の進行役”であるが、これはジュビリーだけでなく、債権者側からも批判の的になった部分である。そこで、DFRの選任は、国際司法裁判所を真似ている。最終的なDFR候補者のリストの承認は、国連総会を代表する国連事務総長にあり、IMFのような債権者にはない。

3) IMF・世銀総会においての議論

 アン・クルーガーは「米政権がSDRMに賛成した」と宣伝しているが、オニール米財務長官は、冷淡な態度をとっている。アン・クルーガーは、「米国政府は、共同行動条項(Collective Action Clauses―CAC)を堅持している」と正直に述べた。しかしCACはSDRMではない。SDRMについては、裏でかなりの綱引きがあるらしい。
 また債権者の民間銀行の態度もワシントン総会では明確ではなかった。銀行の中には、SDRMがCACを超えることに強い反対派がいたが、IMFには、これら反対派を制圧することは出来なかったようだ。
 途上国政府は、ブラジルを筆頭にして、総じてSDRMには否定的である。ジュビリーの反対理由と異なり、この法制度が借り入れのコストを上げると恐れている。9月27日に発表した途上国のG24声明では、IMF協定の条項を修正するような提案にははんたいであり、CACのようなボランタリーなアプローチに賛成した。

4) ワシントン総会以後は?

 IMFは、24カ国の国際通貨金融委員会(IMFC)から、次ぎの会合(2003年春)までに、SDRMの制度的枠組みを作成し、提案する委任状を取りつけた。IMFは、確実に、来年春季大会に協定の条項の修正提案を行うだろう。IMFのスタッフは、12月の理事会に提出するペーパーを11月末までに作成するだろう。これまでの間にIMFはジュビリーからの意見を求めている。また国連は、ワシントンに手を出すチャンスでもあるのだから国連の経済社会局(DESA)も、どのようにDFRのメンバーが選ばれるかについて関心を持ちだろう。
 IMFのスタッフは、12月の理事会以前に、理事会のメンバーとNGOとのセミナーを開いても良いと言った。しかし、日時などは未定である。
 理事国では、それぞれ関係官庁に対して、FTAPについて、ロビイする必要がある。