DebtNet通信(vol.2 #44)  
「IMF・世銀年次総会に対する英ジュビリーの見解」
2002年9月12日

IMF・世銀の「拡大HIPCsイニシアティブ」について

その1 英国のNGOドナーの提案

OXFAM、Christian Aid(英国聖公会の援助団体)、CAFOD(カトリック援助団体)が資金を提供してブルッセルのEU委員会に債務問題についてロビイ活動を展開しているEURODADは、このほど、9月28日から、ワシントンで開かれるIMF・世銀年次合同総会に向けて以上の4団体が連名でIMF・世銀に対して、さる8月、「ポジション・ペーパー」を提出した。以下はその要約である。

 IMF・世銀の2002年春季会議において、「秋の総会で、債務の持続可能性、それに関連した資金や政策について検討する」ことに合意を見た。また、3月の国連開発資金会議において、IMF・世銀は「モンテレイ合意」に賛成した。ここでは、「2015年ミレニアム開発ゴール(MDGs)を達成するために債務救済が果たす役割を含めて、債務の持続可能性を検討していく」と記されている。
 しかし、そもそもHIPCsイニシアティブが「非持続可能な債務の重圧から債務国を解放する」という目的からほど遠いものであると思う。とくに、HIPCsイニシアティブによる債務救済を受けた後の国の債務返済額が大きく、貧困根絶にとりくむことが出来ない。
 したがって、4団体は、HIPCsイニシアティブの債務持続可能性についての意見書を提出する。

HIPCsイニシアティブのメリット
 2001〜2003年、削減の対象国となった26カ国の平均削減率は、年間返済額の3分の1にとどまっている。債務削減による社会支出は、1998〜1999年より増えた。以下はその例である。

1) モザンビークは子どもの予防注射プログラムを無料化した
2) ウガンダ、マラウイ、タンザニア、そしてベニンの農村部では、初等教育の受益者負担制度を廃止した
3) マリ、モザンビーク、セネガルではHIV/エイズ予防の予算が増えた
4) マリ、モザンビークでは年間5%の経済成長率を記録した
5) 「貧困削減戦略ペーパー」の作成に市民社会の参加を義務付けたため、貧しい人びとが国家資金の配分に介入することができるようになった。

HIPCsの危機
上記の記録をうわまわるようなマイナスの結果が出ている。

1) 26カ国のうちの半数は国家予算の15%以上を債務返済に充てている。
2) アフリカでは、HIV/エイズによって、100万人の子どもが教師を失っている。モザンビークでは、17%の子どもが2010年までにエイズで死ぬと予想される。世銀の控えめな試算でも、HIV/エイズ対策費はGDPの1〜2%に上る。しかし、26カ国の中の13カ国が医療費より多くを債務返済に充てている。ザンビアでは100万人がHIV/エイズに感染しているが医療費より債務返済費のほうが30%多い。
3) HIPCsにはほとんど外国投資は来ない。アフリカの世界経済からの疎外によって、GDPの21%、または年間680億ドルの損害を受けている。
4) 2001年、アフリカではインフレにスライドして、石油を除く一次産品は、1979〜1981年間の役半分以下に値下がりした。世銀の推計では、HIPCs8〜10カ国が一次産品の値下がりで打撃を受け、その結果、輸出/債務比が150%を超えている。
5) HIPCsは依然として、財政赤字、外貨赤字を埋めるためにグラントのODAを使っている。これでは、MDGsの達成は不可能である。
 結論として、HIPCsは新しい資金なしには、2015年までにMDGsを達成することは出来ない。

 アフリカでは、MDGsを達成するためには、年間7〜8%の経済成長率を維持しなければならない。また投資がGDPの30%以上のレベルでなければならない。しかし、アフリカの貿易条件は悪化し、貯蓄率が非常に低いことも相俟って、どうしても外国の資金に依存しなければならない。
 G8カナナスキス・サミットでは「アフリカ行動計画」を採択し、アフリカに年間60億ドルを追加支出することを公約した。これは、アフリカ援助としては1990年代のレベルに戻ったにすぎない。また民間投資についても、グローバルな景気後退とアフリカをとりまく投資環境から見て、期待できない。
G8首脳、IMF、世銀のレトリックと、開発資金の実体との間には大きな信頼ギャップがある。

債務帳消しは、開発資金にプラス
 債務救済は最も有効で、効率的な資金移転である。これをODA供与と比べて見よう。

 ODAは年度によって変化し、結果はすぐにでてこない。プロジェクトの企画、実施、ン\モニター、報告書などの重圧が受ける側の政府にかかる。一方債務帳消しは、初等教育、基礎医療の予算を増額するだけである。市民社会の参加の方式はすでに確立している。したがって、企画からモニターにいたるプロセスが政府の重荷にならない。

債務救済はインフレを抑制する
 IMFの調査によると、債務が多い国ほど、インフレ率が高い。

債務救済は経済成長を促す
債務の重圧から解放されると、外国投資と国内貯蓄が増える。

債務救済は為替取引きのコストがいらない

債務救済のプロセスを通じて、政府のアカウンタビリティとガバナンスが向上する

HIPCイニシアティブとミレニアム開発ゴール・債務持続可能性をリンクせよ

1) 債務救済は、ミレニアム開発ゴールの達成に必要な資金供与として捉えること。また他の国連機関のように政務の持続可能性に「人間開発」の視点を入れる。
 以上の2点が勘案されれば、当然、債務の100%帳消しが唯一の選択肢となる。決定点に達した26カ国の全面的債務帳消し総額は、68億ドルである。これは、G7の総年間GDPの0.17%にすぎない。そして、IMF、世銀が自身の財政がらいくらかを支出すれば、この額はかなり少なくなる。
2) 「返済可能性」「持続可能性」の評価において、人間開発の視点をいれるべきである。輸出と債務比が主要な評価基準になってはならない。
3) 歳入に占める債務返済額は5%以下に抑えるべきである。
4) IDA(無利子、長期のソフトローン)をローンがらグラントに変えるという世銀内の議論については、ローンとグラントを好ましい率でブレンドすることに賛成する。
5) 将来の融資について、市民社会を参加させるべきだし、透明性を確立すべきである。