DebtNet通信(vol.2 #36)  
「バルセロナ世界エイズ会議」
2002年8月26日

エイズ問題

1. 7月8日から一週間、バルセロナで第14回世界エイズ会議が開催された。これには、医師、科学者、NGO、市民が、194カ国から15,000人参加した。これは、科学的な議論、国境を超えたネットワーク作り、政治の場、製薬会社のセールス、紛争と合意の場でもある。
 バルセロナ会議の特徴は、グローバリゼーションがエイズに及んできたことだ。ます、Joep Lange国際エイズ協会会長が7月12日の閉会式で述べたように、「アフリカの僻地でもコカコーラを手に入れることが出来る。おなじようにエイズの薬を手に入れられないことはない筈だ」
 しかし、すでに前回2年前の南アフリカ・ダーバンでの会議で明らかになったのだが、エイズをめぐる南北の格差はあまりにも大きい。一方この2年間で、正しい予防と治療戦略があれば、エイズを食い止め、減らすことが出来ることが明らかになった。とくにHIV感染者に対して、3種のAntiretroviral 薬(ARV)の混合でもって治療するガイドラインが出来、薬が手に入りさえすれば、治療方法が容易になった。したがって、今日、最も必要なことは、国連の言う「エイズ、結核、マラリアと戦うグローバル基金(GFFATM)の創設であろう。これは、今までに21億ドルの公約があり、今年5月、6億1,600万ドルが30カ国、58プロジェクトに第1回目の供与された。基金は随時集まった額から年2回、供与される。
 2年前、製薬会社6社が、先進国での販売価格の10分の1であたる、年間1,200ドルで貧困国に販売することに同意した。しかしいまだに実施されていない。一方インドのコピイ薬は、年間209ドルである。専門家は、アフリカが大量に輸入始めれば、これは30〜40ドルに下がるという。国境なき医師団(MSF)は、国連の基金から支出される資金はコピイ薬を必ず購入するという条件をつけることを要求している。製薬会社の薬を購入することは、カネの無駄だという。

2. マンデラとクリントンのスピーチ
 マンデラとクリントンは、国際エイズ・トラストの共同議長である。マンデラは、「エイズは人類に対する戦争である」と述べた。
 クリントンは、「小槫のGFFATM基金は、年間100億ドル必要であり、その3分の1以下しか集まっていない」ことで、先進国政府を非難した。現在、途上国のエイズ患者には、年間8億ドルしか使われていない。一方アフガニスタン戦争では2カ月に20億ドルが使われている。
 この基金が集まらないので、国連のWHOは2005年までに300万人の患者にATVを投与するというプロジェクトは実施不可能であろう。

3.世界エイズ会議のスポンサーは製薬会社
 7月7日(日曜日)、NGO500団体が主催して、10,000人の「生命の行進」デモが、バルセロナで行われた。
 デモは、製薬会社が全面的に世界エイズ会議をスポンサーしていることを暴露した。これら製薬会社が生産している薬を買えるのは、世界中のHIV/エイズ患者のわずか1%にすぎない。
 「生命の行進」は、(1)グローバル基金に年間100億ドル拠出せよ、(2)2年後の次回バンコク会議までに200万人の患者にARV治療を行う、(3)バンコク会議までに世界中の患者がARVのコピイ薬を手に入れること、(4)NGOが最も大きな役割を果たしていることを認めよ、などを盛り込んだ「バルセロナ宣言」を採択した。

4. UNAIDSの報告書
 世界エイズ会議にむけて国連のUNAIDSが発表した報告書によると、21年前にエイズが発見されたが、「エイズの蔓延は、未だに、初期の段階にあり、弱まる兆しを見せていない」というショッキングな内容であった。世界の患者は4,000万人だが、サハラ以南のアフリカでは2,850万人である。うち300万人は15歳以下の子どもである。2001年には、500万人が感染し、300万人が死亡した。これらの国は、週に2億ドルの債務返済を行っている。ブッシュ大統領はアフリカのエイズ・プログラムに年間5億ドルを支出すると述べたが、これは、アフリカが支払っている債務返済の1カ月分にも満たない。
 報告書には、ウガンダの成功例が載っている。過去2年間で成人のHIV感染率は40%減少した。これは、ウガンダが債務削減を受けた結果である。

5. コカコーラ社のエイズ問題
 バルセロナで、エイズ問題の活動家が、コカコーラ社が、途上国でエイズに感染した労働者を放置しているとして、非難した。コカコーラ社のDouglas Daft社長は、世界エイズ会議をスポンサーしたGlobal Business Coalition on HIV/AIDSの会長である。
 2001年6月、コカコーラ社は、アフリカの工場労働者のHIV感染者に対して、治療を行うと発表した。しかし、その対象は、進出工場で本工1,500人に限られており、下請け、ボトリング工場、販売会社など関連会社98,000人の労働者を除外している。
 一方コカコーラ社はアフリカに進出した企業から、平均年間41%という高利潤を挙げている。活動家の推計では、98,000人の治療を行っても、年間500万ドルにすぎないという。

6. アングロ・アメリカン社のエイズ対策
 南部アフリカで最もエイズが蔓延している原因の1つに、南アフリカの金鉱に出稼ぎに来ている黒人労働者たちではないかといわれている。南アフリカ最大の金鉱主であるアングロ・アメリカン社は、90,000人の鉱山労働者を雇用しているが、そのうち86%の労働者には医療保健がない。同社は、労働者の20%がHIV感染者であると推計している。
 アングロ・アメリカン社は、8月6日、これらHIV感染者に対して、無料のARV薬を配布することにしたと発表した。

7. EUはエイズに2,100万ドルの拠出を決定
 8月9日、EUは、貧困国のエイズ・プログラムに2,100万ドルの拠出を決定した。これは、主として、青年層のHIV・エイズの予防措置プログラムに当てられる。
 今回の醵金は昨年、EUが公約した国連のグローバル・エイズ基金への1億1,70万ドル(今年はじめに最初のグラントを拠出した)とは別個のものであるという。
 今回の拠出金の2,100万ドルは、南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、ハイチなどエイズが猛威を振るっている国に向けられる。

8. ブッシュ大統領がエイズ拠出を拒否
 さる6月、ブッシュ大統領は、米議会が提案したグローバル・エイズ基金への拠出金6億ドルを、2億ドルに削減した。8月13日、さらにブッシュ自身が承認したこの2億ドルさえも拒否したのだあった。
 その後、ブッシュ政権は、この2億ドルの拠出を含めて、10月にはじまる2003年度予算審議の中で再度取り上げることを発表した。つまり、これで、2002年度分の拠出はパスしたわけである。