DebtNet通信(vol.2 #34)  
「IMF・世銀年次総会に向けたジュビリーキャンペーン」
「IMFの債務救済の仲裁機関案」
2002年8月25日

IMF・世銀年次総会

1. 9月28日に大規模デモ

 IMF・世銀の年次総会は、9月25〜29日、ワシントンで開かれる。翌年2003年の年次総会は、昨年のWTO閣僚会議と同様、NGOが参加できない湾岸のバーレーンで開かれるため、多くのジュビリーは、今年のワシントンのの年次総会でのロビイ活動に力を入れているようだ。
 一方、反グローバリゼーション派は、9月28日土曜日に「グローバルな正義」を求め、「もう1つの世界は可能だ!」のスローガンで大規模なデモを企画している。これには、主として北米各地から100,000人の参加する予定。
 ちなみに、ヨーロッパでは、6月のバルセロナでのEUサミットで、「社会的なヨーロッパを!」のスローガンを掲げて、300,000人がデモをしたことに続いて、12月、デンマークのコペンハーゲンで開かれるEUサミットに向けて、大規模なデモを企画している。

2. ジュビリー・キャンペーン

 IMF・世銀年次総会を前にして、英国、ドイツ、スイス、米国などのジュビリーの間で以下の2つのテーマについて議論が交わされている。

1) ジェフリー・サックス教授の「債務をエイズと貧困削減にリサイクル」をめぐって2002年8月、コロンビア大学地球研究所長であり、アナン国連事務総長の「ミレニアム貧困削減ゴール達成のための特別顧問であるジェフリー・サックス教授が、ワシントンのブルッキングス研究所発行『Economic Activity』誌8月号に「債務をエイズと貧困削減のためにリサイクルする」を発表した。
 1999年、ケルン・サミット以降発足したIMF・世銀の「拡大HIPCsイニシアティブ」は、重債務貧困国が債務削減を受けた後も、債務が非持続可能な状態になっている、という信頼すべき調査資料が多く出ている。拡大HIPCsイニシアティブは「失敗」したのだ。にもかかえわらず、G7はより深い、より広い、より早い債務救済を行う意思はないようだ。
 なた、2年前、国連はアフリカのエイズ特別総会を開き、年間70〜100億ドルの「エイズ、結核、マラリアと闘うグローバル基金(GFATM)」の設立が呼び掛けられたにもかかわらず、今後数年間で21億ドルしか拠出の公約がなされていないため、エイズ対策はほとんど破滅状態に陥っている。
 一方アフリカ側は、NEPADを打ち出し、自ら、エイズと貧困と闘う意思を示している。しかし、G7は2002年6月のカナナスキス・サミットでは、NEPADに新しい資金の拠出を約束していない。
 そこで、新しいオルターナティブな戦略として、サックス教授は、HIPCs国もHIPCs対象除外国もともに、「債務返済分を、エイズと貧困削減のための、透明で、アカウンタブルな基金メカニズムにリサイクルする」という提案を行った。
 このサックス教授の提案は、米国のジュビリーをはじめ、「債務不払い」派も含めて歓迎された。「HIPCsが毎年債務の返済を行っている額は数十億ドルにすぎない。しかし、ホワイトハウスを含めほとんどの債権者たちは、HIPCsが、極端な人間的犠牲の上に、債務返済を行っていることを、認めている。したがって、債務返済分を債権国からのグラントとして、まず第1に、債務国のHIV/エイズ対策に充てる。アフリカ政府は、これについて、“Pro-Active”なイニシアティブをとるべきである。もし債権者がノーといったら、債務国は一方的に、債務返済を止めるべきだ。しかし、この場合、透明性のある記録を残すことが肝要である。」
 サックス教授の「債務リサイクル」提案に対して、Walter Kansteiner国務次官補は、「反対だ」と言った。カナナスキスでは、G7が、一時産品の値下がりなどの外的ショックに対応するためHIPCs基金を増やすことに同意したが、現行のHIPCsイニシアティブの主要な狙いは、債務国が市場経済の原則に沿った経済改革を行うことにある。
 世銀は、「より多くの債務救済を行う用意がある。ただし、G7国が、HIPCs基金により多くの資金を拠出することが条件だ」と語った。
 
2)債務救済の仲裁機関

(1) アン・クルーガーIMF副専務理事の提案をめぐって
 すでに昨年最後のDebtNet通信Vol.1 No.55号で、アルゼンチンの債務不履行について、.
IMFのアン・クルーガー副専務理事が、国際法廷で処理することを提案したことを報告した。これは、アルゼンチンの公的債務の中で、銀行が保有している短期で利子の高い債務の比率が高いため、IMFが“救済融資”を行えば、ただちに銀行への返済に廻される、という事態が起こった。これを防ぐには、アルゼンチン債務を、IMF理事会の下に「Dispute Resolution Forum(DRF)」を設け、公的、民間債務ともに処理をする、という「Sovereign Debt Restructuring Mechanism(SDRM)を提案であった。
 クルーガー女史のSDRMは、ジュビリーがこれまで主張してきた「FTAP」に似てはいるが、根本的に、最重要な債権者でああるIMFが債務問題を手がけることにジュビリーは反対を表明していた。さらに、この問題は、最大の債務国であるブラジルの債務不履行問題が浮かびあがってくるにつれ、さらに債務第2位のインドネシアも民間債務を抱えていることから、中所得国の債務救済が現実味を帯びてきた。
 そこで、スイス・ジュビリーのメンバーである「ベルン宣言」とドイツジュビリーの要請を受けて、スイスの財務省がスポンサーとなり、クルーガーIMF副専務理事、オーストリアのクニバート・ラッファー教授(ジュビリー側代表)、Philipp Hildebrandスイス銀行連合代表の3人をパネリストに迎えて、8月8日、パネル討論をおこなった。
 
 クルーガー女史は「まず、IMF協定を修正しなければならない。これがDRF設立の法的根拠になる。DRFは、理事会とスタッフから独立した機関だが、理事会の“近く”に置かれる」と言う。ジュビリー側の疑問は、なぜ、DRFがIMFの中に設立されるのか?さる3月、Guayaquilで開かれたFTAPの国際会議で提案されたように、ハーグ国際司法裁判所の中の一部屋に置かれないのか?
 ジュビリーの質問にクルーガー女史は直接答えず、「債権者の多数決によって、設立が決定される」と述べた。

 クルーガー女史は「DRFは、IMFの政策や債務の持続可能性などIMF理事会の決定について反対することはできない。したがって、その役割は制限されたものである」と言う。FTAP側は、これは逆だという。独立の機関である筈のDRFは、債権者であるIMFに対して拘束力を持つべきだ。勿論、IMFも当事者の1人として、その専門家をDRFに入れることはできるが、独占的な立場はない。

 クルーガー女史は、DRFは、リスケの期間や、返済停止の期間といった重要な決定についての信用のある債権者の多数の決定を覆すことは出来ない、と言う。しかし、そのように弱体な中立機関では、善意の機関投資家、ベンチャーファンド、国際金融機関、先進国蔵相、といった多様な債権者をまとめることはできない。

 アン・クルーガー女史は、DRFのメンバーの選出について、(1)加盟国183カ国が第1回のノミネートする、(2)その中から特別に選ばれた賢人グループが選ぶ、(3)きこれをIMF理事会が承認する、という複雑なプロセスだという。確かにこれでは、良いレフリーが選ばれるだろう。しかし、もっと簡単なのは、FTAPの提案である。債権者と債務国がそれぞれ同一のメンバーを仲裁機関にのメンバーに任命し、次ぎに、全員が追加の1人を任命する。これは、世界中で、仲裁機関のメンバーを選出する方法として、すでに定着している。

2)アルゼンチンの議会に債務不払いと仲裁パネルについての国内法案が提出
 5月22日、アルゼンチン議会内のARI(Argentina Republica de Iguales)という小グループが、15条からなる法案を提出した。これは、アルゼンチンの対外、国内債務の返済停止と確実なかつ持続的な債務の解決を決める仲裁パネルの設立を目指している。
 これは、法案成立後、45日以内に、国民投票にかけなければならない。国民投票でイエスの票が多いと、政府はただちに執行しなければならない。
 仲裁パネルが設立するまで、アルゼンチンの債務の返済、リスケをしてなならない。例外的に、一部の国内債務の返済、公務員や地方政府への支払い、法廷で支払いが決まった分について、債務の支払いが出来る。
 仲裁パネルの決定は、国内債務については強制力を持つ。しかし、対外債務については、外国の法廷にアルゼンチン政府が提訴する。
 法案が成立後、5日間のうちに、アルゼンチン政府はすべての債権者に返済停止を通告し、同時に仲裁パネルのメンバーを指名するよう要請する。債権者が仲裁プロセスに参加しない場合、債務についての権利を失う。
 債務国アルゼンチンのパネルのメンバーは、上院から2名、下院から5名、政府から2名が集まり、選出する。それは、能力のある専門家でなければならない。また1975年以来、債務交渉に関係したものは除外される。パネルの数は、双方同一だが人数が特定されていない。選出された全員が、議長となる追加のメンバーを任命する。