DebtNet通信(vol.2 #23)  
「南米の債務危機と民営化について」
2002年8月16日

南米の金融危機の深刻化

1) IMFがブラジルに300億ドルの“救済融資”

 8月7日、IMFはブラジルに300億ドルの]救済融資を決定した。
 これはIMF史上、最大規模の“救済融資”となった。1004年メキシコのペソ危機では500億ドルの救済融資が行われたが、これは米国が単独で融資を行った。1997年、韓国は、580億ドルという巨額の救済融資を受けた。しかし、この時は、日本、米国、ヨーロッパの協調融資を含めた額であった。
 しかし現在では、これらの国の不況が深刻化し、協調融資を行う力はない。したがって、2000年、トルコ危機以来、IMFが単独で、“救済融資”をせざるを得なくなった。
 今年1月、アルゼンチン経済が“メルトダウン”した。米オニール財務長官は、「アルゼンチン危機にIMF融資を行うことはまかりならぬ」と救済融資に反対した。その理由は、アルゼンチン政府が抱える1,000億ドルの公的債務の大部分は民間銀行からの借り入れであり、したがって、ワシントンのIMFの救済融資は、ブエノスアイレス経由でそっくりそのまま、ニューヨークの銀行に対する返済分に充当される。したがって、これは「モラル・ハザードだ」というものであった。
 本当の理由は、アルゼンチンはトルコのように地政学的に重要な国でもなく、また経済の規模も小さいので、見殺しにしたのであった。
 しかし、8月に入り、アルゼンチン危機が、周辺諸国に伝染し始めた。
 ラテンアメリカ最大の国ブラジルは、9月に控えた大統領選挙戦で、労働党(PT)の候補者Luiz Inacio Lula da Silva(通称ルラ)が優勢であるということもあって、すでに6月以来、ブラジルからの資本逃避が始まっていた。7月の1カ月で、「レアル」が18.7%も値下がりし、8月に入ってもとどまらない。ブラジルの国債は値下がりし、政府が銀行から借り入れる際の金利は30%になった。ブラジルがアルゼンチンに続いて、債務返済不履行(デフォールト)に陥るのは、時間の問題であった。
 ブラジルは、2,000億ドル以上の対外公的債務を抱えている。これは、HIPCs41カ国の債務総額に均しく、世界最大の重債務国である。ルラは、債務返済を止めることを公約している。
 ブラジルは1年まえ、すでにIMFから150億ドルの救済融資を受けている。今回の300億ドルは以後15カ月間に供与される。IMFは融資の条件として、債務の金利の返済分を除いた政府財政をGDPの3.75%の黒字を計上しなければならない。

2) IMFがウルグアイに150億ドルの“救済融資”

 8月2日、IMFはウルグアイに150億ドルの救済融資を供与した。
 ウルグアイには、ラテンアメリカのスイスである。金持ちの外国人、とくにアルゼンチン人が非居住者預金をしている。昨年末以来、アルゼンチンの銀行が預金の引き出しを停止したため、ウルグアイでアルゼンチン人の預金引出しがはじまった。そのため、ウルグアイの外貨準備高は80%も減り、わずか6億ドルになった。ウルグアイ政府は銀行の営業停止を決めた。ウルグアイは、第2の“アルゼンチン”になる可能性が最も高い。

3) ラテンアメリカに広がる反民営化の波

 7月22日付けの『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ペル―のArequipa市のJuan ManuelGuillen市長がデモ隊の肩車に乗って、「民営化反対」のデモの旗を振っている写真を載せた。Guillen市長は、「我々は民営化をした」「しかし貧困は減らないし、失業も減らない」「逆に貧困は増え、失業も増えた」「理論はくそくらえ。現実を見よ」と叫んだ。
Guillen市長は、この地方の反民営化運動のリーダーである。
 ラテンアメリカでは、GNPでは中所得国が多いが、人口の44%は絶対的貧困である。過去10年間で、失業者は倍増した。労働者の70%はインフォーマル部門で働いている。
 ブラジルでは民営化反対を公約するルラ労働党候補が大統領戦で第1位である。
 パラグアイでは、6月、民営化反対運動が、政府が国営の電話会社を4億ドルで売却することを阻止した。Luis Goszalez Macchi大統領の政権の汚職が暴露され、経済政策の失敗の責任は問われている。7月には、大規模なデモの結果、戒厳令が敷かれた。
 ボリビアでは、「国有化」を公約に掲げる先住民出身のEvo Moralesが、大統領戦で、11の候補者中、第2位に踊り出た。
 エクアドルでは、今春、17の電力配給会社の民営化が阻止された。これは、通貨を「ドル化」しており、外国からの投資に経済を100%依存しているエクアドルにとって大きな打撃であった。