DebtNet通信(vol.2 #1)  
「フランス議会がトビン税を決議」
「IMFの新しい債務処理案」
「ナイジェリア・パキスタンの債務」
2002年2月8日

1)2001年のレビュー

 途上国の債務と貧困ネットワーク(DebtNet)が新しく発足してから1年経った。
この1年間、アフリカのエイズ、小火器、奴隷貿易の賠償金支払いの一環としてアフリカの債務帳消しなどの問題と取り組んだが、本来の重債務最貧国の帳消し問題は、「拡大HIPCsイニシアティブ」による23カ国が削減を受けただけに留まった。また日本のODA債権についても、進展はみられなかった。
 2002年は、昨年達成できなかった上記の2つの課題、@ 「拡大HIPCsイニシアティブ」について、IMF・世銀に対するロビイ活動を続ける、A 日本政府、とくに外務省にたいするロビイ活動を続ける。

 一方、DebtNetとして、新たに、@ 来る3月18−22日、メキシコのモンテレイで開催される国連の開発資金会議(Financing for Development)の主要な議題である、「債務帳消し」、「ODAをGNPの0.7%」、「為替取引税」について、取り組む。A 8月26日からヨハネスブルグで開催される国連の「持続可能な開発のための世界サミット(WSSD)」(RIO+1)に向けて、債務帳消しの問題に取り組む。B インドネシアのOdious債務(スハルトの腐敗債務)について、インドネシア側のパートナーと共同して、取り組んで行く。

2)フランス国民議会がトビン税を決議

 昨年11月21日、フランス国民議会は、「為替取引税(通称トビン税)」の導入を決議した。その内容は、為替取引額に0.1%の税をかける。しかし、その実施は、すべてのEU加盟国が採択した後になる。
 ATTACは、上記のような制限つきだが、キャンペーン側にとって、非常に大きな前進
だとしている。

3)債務処理についての新しいIMF提案

 2月7日、IMFはトルコに対して160億ドルの救済融資を決定した。「トルコはテロに対する戦争の前線国であるから」というのが、巨額融資を決めたIMFの理由であった。
一方、より危機が深刻なアルゼンチンについては、IMFが要求している財政の均衡と、通貨をフロートするという条件を拒否しているため、また、アルゼンチンが米国にとって「地政学的に重要でない」という理由で、IMFは救済融資を拒否している。
 たしかに、アルゼンチン政府の対外債務の大部分は先進国政府や国際金融機関ではなく、ニューヨークやマドリッドの民間銀行からの借り入れである。したがって、IMFが救済融資をすれば、そのカネは、これら民間銀行への返済に回されることになる。つまり、カネはワシントンからアルゼンチン政府を通過して、ニューヨークのウオールストリートに向かう。これは、民間銀行のモラルハザードであるとして非難されていた。

(1) 昨年11月29日、IMFのアン・クルーガー副専務理事は、アルゼンチンの債務処理の方法として、
@ アルゼンチンは債務の支払いを一方的に停止する(Standstill)宣言を行う。
A その間、アルゼンチンは、IMFの「技術的支援」をもって、債権者と示談による免除
を交渉する。
B これが失敗すれば、IMFは「適切なメカニズム」を提起する。それはIMFの監督の
下に、アルゼンチンと全債権者が交渉する。これには、“ならずもの”(はげたかファンドなど)債権者も参加しなければならない。
 以上がIMFの提案であった。

(2)IMFのアン・クルーガー女史の提案に対して、ドイツJubilee2000のJurgen Kaiserさんが、コメントした。
 まず、評価すべき点として、
@ IMFが、国内の破産法に沿った形の秩序ある債務処理を受け入れたこと。
A IMFが、FTAPの提案の重要な点、つまり、債務の支払い停止、さらに、“ならずもの”債権者を強制するべき、などを受け入れたこと。
B IMFの提案は、制限のない融資や借り入れを防止すると言う点で、秩序ある債務処理
の効用を認めたこと。
C 「債務救済を受けた政府は資本市場で借り入れることが出来なくなるというこれまでの神話を払拭したこと。
D このメカニズムの対象となる国名が特記されていない。そのことは、国によって対象が選別されることがない。これは、むしろグローバルな枠組みである。
E IMFが、債務支払い停止期間に資本規制が必要であることを認めたこと。
などであった。

一方、批判点として、
@ IMFが、このプロセスの中心となることを、あからさまに表現した。IMFは究極的
な決定機関となる。とくにIMFは、強大な債権者であるので、これは、受け入れがたいことである。しかも、債権の審査などという非常に微妙な仕事にまで、技術面に限るとはいえ、IMFが手を出そうとしている。
A 独立の審査機関、さらに独立の仲裁機関について、全く言及されていない。多分、こ
れらが、将来IMFのライバルになると予想しているのであろう。
B 国家の基本的なニーズの保証、さらに貧困削減などについ債務処理の範疇が、全く言
及されていない。
C IMFの提案は、国内法の制定を条件にしている。アン・クルーガー女史も認めてい
るが、それには、2〜3年かかる。さらに、世界大の法律の制定となれば、時間の制限はないに等しい。IMFの提案には、新しい法律に制定を要しないアドホックな仲裁機関について考慮していない。

ドイツJubilee2000の結論;
 皮肉なことに、IMFがFTAPキャンペーンのリーダーの役目をはたそうとしている。これは危険なことである。しかし、今日、債権者は改革を無視することが出来なくなった。
アン・クルーガー女史の提案は、破産法の重要な要素が欠けている。それは、独立の仲裁機関である。(国内の会社更正法では、裁判所、弁護士などが担当するー北沢註)
かわりにIMFがその役を果たそうとしている。これは受け入れられない。
 また、この改革が失敗した時のマイナスの影響を考えると、むしろ改革がないほうが良い。なぜなら、これまで、Jubilee2000がキャンペーンしてきたダイナミズムを失うことになるからである。
 アン・クルーガー女史は、米国の破産法第11条に言及していないにもかかわらず、マスメディアは11条がモデルだと書いている。第11条は国家のケースには当てはまらない。むしろ第9条を適用するべきである。これはマスメディアの重大なミスである。9条には、独立の仲裁機関、さらに、国家の基本的なニーズの保証も記載してある。これを忘れてはならない。

4)日本がIMFに拠出金
 昨年12月11日、日本はIMFの「貧困削減成長ファシリティ(旧ESAFをPRGFに改名))」の融資勘定に、10億ドル(7億8,500万SDR)の拠出を決定した。PRGFは、最貧国に対して、マクロ経済の構造調整と構造改革に融資される。
 日本の拠出金は、2005年までの分である。これまで、9カ国が拠出を公約し、総額52億ドル(41億SDR)になる。
 IMFはPRGFから、最貧国に対して、ソフトローンの融資を行う。
 EURODADは、この融資が、果たして、手数料だけの無利子であるのか、または、手数料より高い「利子」付きなのかは明らかでない、と言う。また、同じような世銀のIDAは、このローンを必要としなくなったときには、理論的には、拠出国に返済することになっているが、今回の、IMFのPRGFのケースでは、このような返済規定が明確でない。
 日本政府は、PRGF融資勘定に拠出したのだが、利子の支払いを受けない、とすると、長期的には、この拠出金の融資としてのNPV(純現在価格)は限りなくゼロに近くなる。
 EURODADは、むしろ日本政府が10億ドルをグラントとして、直接最貧国に出し、現在のPRGFローンを返済し、それによって浮く資金を貧困根絶の資金の回したほうが良いと言っている。

5)インドネシアCGI会議に抗議デモ
 昨年11月7日、インドネシアのジャカルタでインドネシアの債権国会議(CGI)が開かれた。インドネシアの「Anti-Loan Coalition(反融資連合)」は、会議場の前で、数千人がデモをした。
 デモは、「新しい融資が人びとに受け入れられない重い債務となる。すでに、ガソリン、電気、タクシー、教育、医療などの政府の補助金が減らされている」と抗議した。
 ごく一部のグループは、すべての債務を帳消し、新しい融資を止め、CGIを解体せよと要求した。

6)スイスがナイジェリアの債務を救済
 去る1月25日、ナイジェリアの首都アブジャにおいて、ナイジェリア政府とスイス連邦政府は、2国間債務の繰り延べ(リスケ)に合意した。これは、2000年7月31日までのナイジェリアのスイスに対する1億5,200万ドルの債務を、向かう3年間支払いを停止(モラトリアム)し、その後18年間で返済するというものであった。その間の利子は年率4.7%に定められた。
 このリスケ協定を準備したのは、ナイジェリアのDMO、債務担当者とスイス大使館員であった。ナイジェリア側は、スイスに対して、貿易保険から生じた非ODA債務の処理を進めるよう要請した。
 2000年12月13日、ナイジェリア政府はパリ・クラブの15カ国と、リスケについての「合意された議事録(Agreed Minute)」を作成した。これには、民間債務も含まれる。Agreed Minuteに基づくリスケ総額は200億ドルにのぼる。現在ナイジェリアはパリクラブの15カ国に対して債務総額286億ドルの75%を負っている。

7)パキスタンの債務
 ロンドンのJubilee Plusによれば、パキスタン政府の対外債務は317億ドルにのぼり、GDP比の53%に達している。さらに国内債務は300億ドル、GDPの50%に達している。
 パキスタンの債務返済は財政支出の47%を占め、政府の年間歳入の63%にもぼる。パキスタンのGDPの10%が国内、対外債務の返済に充てられる。つまり債務返済はパキスタン国内最大の支出項目になっている。それは、貧困、社会開発の5項目を合わせたものを上回る。
 1999年のデータが最も最近のものだが、パキスタンは2国間債務を122億ドル、多国間債務を142億ドル、残りは民間銀行への債務であった。
 パキスタンの債務が最も増大したのはジア軍事政権時代であった。これは「民政とポピュリズムが債務を増大させる」という神話を覆すものであった。
 2001年1月にパキスタンはパリ・クラブからODA債務のリスケを受けた。これは、それまで15年間とされていた支払い期限を20年に延ばしただけであった。その対象となった債務は総額122億ドルのうち、18億ドルであった。パキスタン政府は、パリ・クラブに対して、ナポリ条項に基づいた債務削減を要求している。それは非ODA債務を67%の削減、ODA債務はリスケを行い、最初の契約時の利子よりより低い利子にするよう要求している。
 パキスタンはHIPCs適格国ではない。したがって、IMF、世銀はパキスタンには、何もしない。したがって、パリ・クラブも動かない。
 しかし、同じ非HIPCs国のエジプトに対して、パリ・クラブは、1991年の湾岸戦争当時、旧パリ・クラブの条項を用いて、210億ドルの債務について、救済を行った。世銀の報告では、利子分の105億ドルを免除し、24億ドルの元金を帳消しにしたのであった。このように、パリ・クラブは、債務問題では恣意的である。