DebtNet通信 (vol.1 #8)  
トービン税についてのQ&A
2001年3月5日


反トービン税派の神話を崩す 

カナダのハリファックス・サミットの際に、NGOの連合が誕生し、その後「Halifax Initiative」の名を継承し、為替取引税(CTT―“トービン”税)のキャンペーンとロビイをしてきた。このHalifax InitiativeがCTTについて、これまで受けてきた最も多い質問を選び、Q&Aの形式でまとめたもの。

Q;トービン税は貧しい者に打撃を与える
A;この税は、内容的には、累進課税である。これは、通貨投機を通じて利益を得ている者を狙い撃ちにしているからである。まず、貧しい者が1日に何百万ドルも為替や債権市場に投じることはできない。これを行っているのは、世界的な巨大銀行や投資会社である。
 トービン税が打撃を与えるのは彼らである。
 トービン税は、逆に、貧しい者を貧困から解放する。トービン税は、毎年、1,500〜2,000億ドルの収入を生み出すと予測される。「絶対的な貧困を根絶し、地球の環境をまもるには、今後、毎年、2,250億ドルの資金が必要である」と世銀や国連は言っている。途上国はそれぞれ、トービン税から何億ドルもの資金を受取り、貧困根絶と環境保全に使うことが出きる。貧しい者がトービン税の最大の受益者である。

Q;投機家は必ず課税を逃れる方法を見つける
A;これは、最も多い神話である。批判派は、少しでも問題があれば、それが金融取引に課税するという提案自身を否定する材料にする。彼らの論理では、「どんな法律でも、破られる可能性のあるものなら、制定すべきでない」というものだ。
 事実は、トービン税は最も脱税が不可能な税である。経済学者のRodney Schmidt博士が提案している「銀行間取引市場で徴収する方式」は、最初にJames Tobin博士が考えたよりも、脱税が難しく、より徴収しやすい。毎日、銀行は、何千回もの為替取引を行っており、これは、一定の集中した場所で集計、あるいは、統合化されることによって、最終の支払い、振り込み、あるいは、決済が行われる。世界中の決済制度は、中央銀行や市中銀行が不渡りの危険性を減らし、あるいは取り除くために、ますます集中化され、規格化され、規制されている。銀行の破産は、この“決済リスク”によって起こっている。
 2001年中に、かなりの国が参加して、国内の支払制度にそれぞれリンクした、1つに統合したグローバルな決済制度が設立される。すべての為替取引きは、IT化され、銀行間で決済される取引き所と中央銀行に記録されている。したがって、補足し、課税することは容易である。
 国内の支払制度においてトービン税を実施していると、中央銀行は、これに非協力的な制度 ― オフショア取引き、またはタックス・ヘブンとの取引を拒否する口実となる。したがって、もしカナダがトービン税を採用したら、ケイマン島は、カナダ・ドルを売り買いすることができなくなる。“ならずもの”の取引所との決済を拒否している国や地域を、以後、完全に締め出すことができる。
 批判派は、投機家は、他の金融商品に切り替えて、税をのがれることができると言う。外国為替取引税は、2つの機関の間の最終支払いに課税するため、どんな金融商品が売り買いされていても関係がない。例えば、「デリバティブ」は、商品や通貨などの資産から派生する金融商品であるが、トービン博士が提案した当時は、現金取引きの時代であったため、脱税の方法だと見なされた。なぜなら、デリバティブが買われた時には、現実には通貨は買われていない。単に、買う権利だけが売り買いされたのである。Tobin博士のもともとの提案を修正したSchmidt博士の提案によると、もしデリバティブ商品が支払われて場合でも、課税は可能である。

Q;トービン税を採択するという政治的なコンセンサスは得られない。
A;政治的なコンセンサスというものは、政策の協調が、無策から生じるリスクより大きいと判断された場合には、いつも得られるものである。1997〜99年、東南アジア、ロシア、ブラジルを襲った危機が、どのように経済的、政治的破壊をもたらしたかを十分に知った。投機的な攻撃によって、物価は高騰し、賃金は下落し、通貨の下落によって生じた債務を返済できなくなり、企業は破産し、失業は急増した。東南アジアの30年間の貧困削減の成果は一挙に失われた。もし何らかの改革が行われなければ、将来、金融危機が再来することは不可避だというのが政治的なコンセンサスである。
 これに加えて、トービン税からもたらされる膨大な収入は、財政危機の国ぐににとって力強いアピールである。貧富の格差と社会的不平等が広がる中で、この税は、税をのがれている富裕層の富を捕捉し、これを公共部門の拡充に向けることができる。
 トービン税の採択については、政治的なコンセンススが最大の障害になっている。しかし、とくに世論が支持し、神話が崩れてきている今日、これは克服できないものではない。最近、より大きな、複雑で、より多くの国際協調を要する問題が解決している。国際社会は何百もの貿易協定を協議し、複雑な環境協定を成立させた。EUは、1999年1月に共通通貨を発足させた。以前には、批判派は、これらは到底成立不可能だと言っていた。

Q;トービン税はグローバルな税である
A;それそれの政府が国内法にもとづいて、課税する。国家主権を脅かすような新しい超国家の課税ではない。税の一部は国内の支出に回される。のこりは、関係国すべてが参加する多国間機関が採択する合意プロセスにもとづいて分配される。
 税の徴収と分配を多国間協力で行うということは、新しくもなければ、すでに実施ずみのことである。EU加盟15ヶ国は、何年にもわたって、付加価値税を、それぞれが徴収し、共同で管理し、再分配してきた。それぞれの国は徴収した付加価値税から10%を天引きした残りをEUに拠出し、加盟国のすべてが同意するインフラ建設費に充ててきた。

Q;トービン税を管理するのは困難である
A;すべての国が参加して交渉が成立すれば、現存の多国間機関を活用できる。国連のような国際機関が、他の多国間機関と協力して税を管理できる。加盟国政府は、中央銀行を通じて、税の徴収を行う役割をはたす。言いかえれば、参加国の政府が税の徴収を行うことが、国際機関での管理に参加できる条件になる。つまりこれに参加すれば、税のシェアに関与できるというインセンティブとなる。
 批判派のいう税の管理の煩雑さに対する、反論はまだある。世界を駆け巡っている投機基金は巨額だが、この取引きが行われている金融センターと取引き業者は多くない。国際為替取引きの80%は、7ヶ所 ― ロンドン、ニューヨーク、東京、シンガポール、香港、フランクフルト、ベルン、であり、またこれは、100以下の大国際銀行と投資会社によって行われている。もし、東京、ロンドン、ニューヨークの3ヶ所が合意するば、68%を押さえることになる。比較的少ない取引き所、限られた取引き業者、そして、明らかな電子
“紙の痕跡”というものが、管理の煩雑さや課税コストを軽減させることになる。

要約

 トービン税は、世界で最も影響力を持つ大銀行と投資会社の一定の活動に課税する。したがって、これは金融界の特権に対する脅威と見なされ、その巨大な政治力をもった抵抗に遭っている。「市場よりも人びとを優先する」という考え方そのものが、21世紀の主流派の経済パラダイムとぶつかる。彼らは、その世界観を覆されたくないのだ。
 トビン税に対して、神話を振りまく奴らをやつけよう。彼らは、グローバルな金融市場をコントロールするという議論を、捻じ曲げ、最終的にはつぶしてしまおうとしている。
 トービン税についての公平な、公開の議論が必要である。人びとの広範な支持と圧力こそが、トービン税を実現できるのだ。

Halifax Initiativeの呼びかけ
● Halifax Initiative のCitizen's Declaration on the Tobin Tax に署名しよう
  全文は次の方法で手に入れることが出来ます  
  E-mail<rjrpweb.net> Web site <http://www.web.net/halifax>
● 国会議員と財務大臣にロビイしよう
● 取引きしている銀行の支店長に対して、宣言文に署名するよう呼びかける。拒否された場合は、取引き銀行を変えるという。
● 自分の年金、預金が、どのように投資されているかを、投機資金にまわされていないかを調査しよう。
● トービン税についての学習会、集会などを開こう