DebtNet通信 (vol.1 #37)  
米国の世銀政策
2001年8月13日


IMF・世銀をめぐる動き

1) パキスタンのNGOが世銀との対話をボイコット
さる6月、世銀はパキスタンのNGOに対して、「国別援助戦略(CAS)」についての会合に招待した。これに対して、多くの労組、市民社会組織が、会合の場所に指定されたNational Institute of Public Administration(NIPA)に集まり、世銀代表がホールに入るのを阻止した。パキスタンにおいては、このようなNGOの抗議行動は始めてであった。 
これを組織したのは、PRISEであった。

NGOの声明

今日のパキスタンの経済危機は、パキスタン政府にあることを認める。しかし、一方では、世銀が推進する政策が危機を解決しないことも認める。実際、世銀の政策は、危機を悪化させている。したがって、NGOは世銀との対話を留保する。

世銀とIMFの政策が、貧困と疎外を増大させ、社会的弱者、とくに女性と子どもに打撃をあたえている。構造調整政策と条件は、市場メカニズムにすべてを委ねるというものである。それは、補助金を廃止し、公共サービスを市場価格化などである。

CAS作成における透明性がない。とくに現在の諮問プロセスについての規定がない。世銀の規則では、政府の承認がなければ公開されない。

世銀の開発プロジェクトの失敗例については、認めようとしないし、検討したり、教訓を学ぼうともしない。

世銀は、農業の企業化を推進している。これは多国籍企業が支配し、伝統的な種と農業基盤を破壊し、小農民の生活基盤を奪うものである。

民営化を推進している。特に人間の命に不可欠な水がその対象になっている。またほとんどすべての先進国では国が供給している教育と保健を民営化しようとしている。

パキスタンでは、1988−89年には17.3%であった貧困層が、10年後の1998−99年には32.6%と2倍になった。これは、パキスタンに構造調整プログラムSAP Iが導入された時期である。SAP Iが失敗したのに、なぜ社会行動プログラムIIが導入されるのか。

パキスタンの累積債務と債務の支払いが、開発を阻む重圧になっている。もはやこの債務問題を解決することなしには、将来の開発援助を議論することはできない。

2) 米国の新しい世銀政策
7月18日、『Financial Times』紙は、ブッシュ政権が、今秋のIMF・世銀年次総会において、世銀のIDAローンの50%をグラント(贈与)にすることを提案する、と報じた。

これまでは、10%がグラント分である。

これに対して、世銀のスタッフは、「返済がなくなり、したがってIDAの収入も減る。これまでの資金供与レベルを維持するためには、先進国は拠出金を倍増しなければならない」と反論した。しかし、IDAがローンであれば、返済しなければならないが、ここで問題になるのは、長期的に見た資金の供与額である。つまり、グラント分からは債務が発生しないので、長期的には、受け取る資金は大きくなる。ブッシュ大統領は、世銀本部において、「債務帳消しは、短期の処置であり、今は、債務の発生を止めることにある」と述べた。

この米国の提案は、EUと世銀スタッフの強い反対をうけるだろう。EUは「世銀の貸し手としての機能を低下させる」と反対している。うの中では、フランスだけが、米国のグラント化に賛成している。

7月26日の『Wall Street Journal』紙は、米国議会の合同経済委員会の顧問であるAdam LerrickとAllan Meltzerが、世銀のIDA融資を贈与に切り換える、という論文を共同で投稿した。

42の最貧国に対する世銀のIDA融資は、1,750億ドルの債務を生み出した。そして、1980年以来、生活水準が28%低下した。今日、多くのの議員、AIDSグループ、アフリカ・グループが、IMF・世銀に対して債務の帳消しを呼びかけている。

IDAを贈与にすれば、同じ額の援助が供与され、それは、より有効に使用され、債務から永久的に解放される。そして、ドナーは、不良債権という損失から解放される。これは先進国の納税者により多くの負担をかけさせる事なく出来る。グラント援助は、プロジェクトにリンクし、結果のモニターを可能にし、パーフォーマンスにたいしてだけ資金を供与すればよい、と述べている。

3) 米国はMIGAに出資しない
7月24日、米下院は、世銀の「多国間投資保証庁(MIGA)」に対する出資を削減する修正法案を採択した。

MIGAは、政治的なリスクのある途上国への投資保険を行う。つまり、企業が途上国に投資するのを促進するために設立された。

米議会は、MIGAに出資を予定していた予算を途上国の結核対策プログラムに充てることに決めた。これは、「50年は沢山だ!」をはじめ、RESULTS、地球の友などのNGOがロビイしてきた結果であった。

4) 米オニール財務長官、世銀を批判
さる5月16日、オニール財務長官は、米下院予算委員会において、世銀の貧困削減政策を批判した。「世銀の活動対象は非常に拡散しており、その結果、途上国の生産性の向上、1人当たりの収入の増加という世銀本来の目標を失うことになる」と証言した。ウオルフェンソン世銀総裁は、世銀の第1の目標は、「貧困根絶にある」と言っている。世銀は、これを達成するためには、経済成長と生産性の向上が必要であることを認めている。しかし、最近では、多くの途上国では、成長の恩恵が貧困層に達していないので、成長だけでは不充分であるという、見解が主流になってきた。また、昨年の世銀の『世界開発報告書』では、途上国の貧困の根源には、不平等問題があり、これと取り組まねばならない、それには、「貧しい人びとをエンパワーして、彼らの生活を左右する政策の決定に参加させるべき」だと述べている。アジア開発銀行も、発電所などのインフラ建設プロジェクトに多くの融資を行う一方、貧しい女性がビジネスが出来るように、マイクロ・クレジットに融資をシフトしている。

オニール長官はこのようなイニシアティブを批判してはいないが、「特別なグループ(貧困層を指す)よりも総体的な経済行動にたいする融資を優先させるべきだ」と証言した。

こおオニール長官の証言は、「貧困削減」を口にする世銀総裁など“開明派”とブッシュ大統領など、「生産性の向上、経済成長」を優先させる“守旧派”との矛盾が深まっていることを物語っている。しかし、どちらも「ネオリベラリズムのグローバリゼーション」の推進派であることでは同じである。

同じ委員会の証言で、オニール長官は、「米国は最貧国の債務を100%帳消しにしない」と語った。「いつも何が起ころうと、米国の納税者がカネを出すというのは、途上国に対しては、良いレッスンにはならない」「債務帳消しを、他のG7に提案する気もない」と述べた。