DebtNet通信 (vol.1 #35)  
債務問題についての国際公約と実施状況について
2001年8月7日


はじめに

国際的公約と実施状況について共通の理解

(1)1999年6月、G7首脳がケルン・イニシアティブとして合意した事項
G7の2国間債務について;


●ODA債務は、100%帳消し
● ODA債務の帳消しは、「2国間で」、「選択肢に基づいて」という文字が挿入された
● 非ODA債務(貿易保険や輸銀融資)は90%債務
IMF・世銀など多国間債務について
●より早い、より広い、より深い債務救済を公約
●IMFの保有金を売却する

(2)ケルン以後、沖縄までの期間、
2国間債務について;
● 米国を初めとして、G7各国は、非ODA債務の100%帳消しを公約
●日本政府も2000年4月10日森首相が国会で非ODA債権の100%帳消しを公約
● 日本政府は2000年6月28日、ジュネーブの国連社会サミットでODA債権の100%帳消しを公約
多国間債務について
● 1999年9月IMF・世銀の合同総会において、拡大HIPCsイニシアティブを採択
● 新しい条件に、「市民社会が参加した貧困削減戦略ペーパー(PRSP)の作成」が加わる

(3)2000年7月、沖縄サミットでのG7の合意
多国間債務について
● 拡大HIPCsイニシアティブの新しい条件として、「紛争関連国9カ国の除外」

(4)これまで、達成された債務救済の現実(日本を除く)
多国間債務について
● HIPCs41カ国中、暫定PRSPを作成したとして、23カ国が対象になった
● 23カ国は、毎年の返済額中、平均30%の削減が約束された
● しかし、実際に削減措置を受けたのは、ウガンダとボリビアの2カ国だけ。この場合も、毎年の債務返済分の一部が削減される。決して、債務の元金(ストック)が削減されるのではない。したがって、IMF・世銀の削減費用は、毎年僅かな額で済む。しかもこの資金は、先進国が拠出した「債務救済信託基金」(現在高25億ドル)から支出され、IMF・世銀のふところは痛まない。

ジュビリーは、IMF・世銀に「100%債務帳消しをせよ」と言っている。その場合の費用は、世銀については利益金から、IMFは金の売却益から支出しても、業務には影響を与えることはない、と主張している。(北沢洋子通信Vol.1 No.4を参照)

IMF・世銀は、総額340億ドルを削減したと宣伝している。しかし、この額は、実際には、23カ国がこれから30〜50年に亘って債務を返済していくのだが、そのうち平均30%の削減分を合計した総額である。決して、現在、削減した額ではない。
● 残りの21カ国は、3年間、PRSPを実行し、その後、IMF・世銀が優良と認めた「完了点」までは、削減措置は実施されない。
●ベトナムとラオスは、HIPCsイニシアティブの適用を自ら「辞退する」と申しでたので、除外された。私がベトナムの担当者に聞いたところでは、「債務は返済することが出来るし、また新しい融資を受けたいから」という返事であった。
●また以前には、HIPCsイニシアティブを辞退していたガーナは、最近、政権が交代し、以来HIPCsイニシアティブの適用を申し出た。
2国間債務について
● 2000年末、英国が、紛争関連国の毎年の債務返済分を「信託基金」に入れ、
これを紛争解決のインセンティブとして使う、あるいは紛争後の復興資金として無償援助
することを提案
● カナダが2000年9月、プラハのIMF・世銀年次総会で、HIPCs41カ国の2国間債務返済のモラトリアムを提案
● 米国は、クリントン大統領が4年間で2国間債務60億ドルの帳消しを公約したが、実際には9億ドル。在任中、議会に2年間の削減予算として4億5,000万ドルを要求
● ブッシュ大統領は、5月16日、「米国の2国間債務の帳消しをしない」「G7にもIMF・世銀にも100%の帳消しを要求しない」と発表
● フランスは、1月19日、HIPCs19カ国の2国間債務を帳消しにする、と発表。
削減額は、4億6,700万ドル

日本の「債務救済無償援助スキーム」とは

(1) なぜ「スキーム」に固執するのか
ケルン合意には、日本の主張で「2国間で」「選択肢に基づいて」が挿入された。これをもて、日本政府は、サミットで日本の「債務救済無償援助スキームが承認された」と解釈し、ODA債務についての100%帳消しをしないと言い続けてきた。

しかし、2000年6月、沖縄サミットを目前にして、ジュネーブで「ケルン合意に基づいて、2国間債務を100%帳消しする」ことを公約した。これは(1)沖縄サミットで、シアトルの二の舞が起こっては困る、(2)これ以上、日本叩きは困る、などというのが、真の理由であったと思われる。

それ以来、外務省は、「スキームを検討する」と言い続けている。国際的に公約して以来、1年が過ぎた今年5月24日、DebtNetが外務省と会合したときも、「検討中」と答えた。


(2)「債務救済無償援助スキーム」の由来

●石油輸入国に向けた「スキーム」 
この「スキーム」は、1970年代、石油ショックが起こった時、工業化に着手したばかりのアジア諸国から、「原油価格の高騰で、外貨不足に陥った」と泣きつかれた。

そこで、1978年、アジア諸国に対して、日本政府は、円借款を返済した額に相当するものを無償援助の形で供与するという「債務返済無償援助スキーム」を打ち出した。したがって、この無償援助分は「外国からの輸入代金に当てる」ことが、義務付けられた。


● 低開発国に向けた「スキーム」
1990年代に入って、日本は国連安保理の常任理事国入りを目指した。国連では、
アフリカは51カ国にのぼる大票田である。このアフリカを味方につけるために、東京でのアフリカ開発会議(TICAD)を開いた。そこで、日本政府はアフリカに対して、「債務救済無償援助スキーム」の適用を約束した。この場合、それまでの石油輸入国に加えて、新しく低開発国(LDCs)を「スキーム」の対象国にした。

LDCsとは、国連が定義した、1人当たりのGNPが600ドル以下の国で、今日、59カ国にのぼる。これは、低開発国であって、重債務国とは限らない。

●ジュビリー2000が取り上げてきたのは、「重い債務の帳消し」であった。またIMF・世銀のHIPCsイニシアティブも、「重債務」の貧困国41カ国を対象にしている。 したがって、重債務最貧国は、日本政府がTICADで約束したLDCsではない。


(3)債務救済無償援助スキームの問題点

「債務救済無償援助スキーム」は、40年のリスケ、16年間の猶予期間などとなっているが、債務の返済を前提条件としている。したがって、債務帳消しではない。この点は外務省も認めている。しかし、何も知らないNGOや議員には、「債務帳消しと同じものだ」と説得している。

またこの「スキーム」は、すでに述べたように、ケルン合意の重債務最貧国(HIPCs)を対象としたものではない。この点をはっきりさせるべきである。
また、HIPCsが抱える問題は、重債務の返済が不可能だということにあり、石油輸入
の支払いによって外貨が足りないと言うことではない。したがって、無償援助分を外国からの輸入品の支払いに当てさせるという、珍妙な条件が出てくる。これは、貧困削減を誇らしげにうたっているケルン合意とは、相容れないものである。この点もはっきりさせるべきである。

また、本来、日本の「スキーム」は、HIPCsイニシアティブや、貧困削減戦略ペーパーとは、無関係である、当てはまらないものである。この点もはっきりさせるべきである。

事実、日本政府は、ミャンマーに対して、「スキーム」を実施している。多分、日本政府は1978年の石油輸入国という規定に基づいて、ミャンマーにこの「スキーム」を適用してきたのであろう。しかし、ミャンマーは、これまでも、また今後も、当分の間、IMF・世銀のHIPCsイニシアティブの適用を受けることはない。他のG7も、ミャンマーの2国間債務を帳消しにすることはない。

「スキーム」の無償援助は、ODA予算の中から支出される。したがって、その分だけ、ODA予算が削られる。通常の一般会計から支出されるべきである。ジュビリーは、これまで、債務帳消しの費用にODAを充てないよう、主張してきた。ODAは持続可能な開発のために拠出されるべきであって、債務帳消しのような「不良債権の処理」にあてるべきではない。


パリ・クラブとは
2国間の公的債務を取り扱う場である。2国間の民間債務はロンドン・クラブで扱う。
多国間債務はワシントンのIMF・世銀の本部で、拡大HIPCsイニシアティブに基づいて扱われる。

パリに本部を置く債権国クラブで、1つの債務国について、債権国が集まって、ODAの枠を決めたり、債務のリスケを決めてきた。以前は、その債務国の旧宗主国が議長を務めていた。しかし、最近では、IMFや世銀が議長の座についており、その結果、必然的にHIPCsイニシアティブが適用され、最近では、PRSPの作成が義務づけられることになる。

しかし、パリ・クラブでは、旧宗主国の政治的な意思が働いて、必ずしも、IMF・世銀のHIPCsイニシアティブト通りにことが進むわけではない。いや、HIPCsイニシアティブの適用を受けた23カ国も、旧宗主国の政治的思惑で決定されたきらいがある。