DebtNet通信 (vol.1 #26)  
Eric Toussaintの評価
2001年5月11日


前号に引き続いて、今号では、Eric Toussaintの、IMF・世銀の春季会議に向けた重債務最貧国の債務状況について、分析した論文の翻訳を送る。

「重債務最貧国にとっては、架空の債務削減」
Eric Toussaint CADTM(第三世界の債務帳消し委員会)代表

ワシントンでは2001年4月末、IMF・世銀の春季会議が開かれるのを契機に、これまで、重債務最貧国の債務削減が、どのようなものであったかを、分析する必要がある。

1996年、IMF・世銀、G7、パリ・クラブは、彼らが重債務最貧国(HIPCs)と規定した国ぐにに対して、その重い債務を返済する能力を向上させる「イニシアティブ」を発足させた。債務の重圧を軽減させるのは、さらに不良債務が累積するのを避けるためであった。このような債権者の決定には、寛容などといった言葉はおよそ縁がない。それは、債務の返済を滞りなく執行させるために、冷静に計算された。

そこで、G7、IMF、世銀は、HIPCsの債務を80%削減することにした。それは、1996年リヨンのG7サミットの席上で発表された。その3年後、1999年6月のケルンでのG7サミットにおいて、G7首脳は、リヨンを上回る90%の債務削減を発表した。

この成果は、ジュビリー2000のキャンペーンが最も貧しい国の債務を帳消しにしようという要求を、世界のメディアにキャンペーンした結果、その圧力によって得られたのであった。IMFと世銀のイニシアティブの対象は、41カ国に限られる。これは、途上国のほんの少数に過ぎない。OECDの統計によると途上国の数は187カ国にのぼる。
(資料:OECD『対外債務統計』2000年度版より) 

HIPCsイニシアティブが華々しく発足してから5年を経た2001年には、僅かな国が債務の返済部分の一部が削減を受けた。HIPCs41カ国のうち、22カ国(うちサハラ以南のアフリカは18カ国)が、2000年12月以後、債務返済分の削減という恩恵に浴したのであった。何度も大げさな発表を行ったにもかかわらず、実質的な成果はあまりにも僅かであり、IMF・世銀、G7は、大掛かりな詐欺を隠すことができない。

その証拠は以下に述べる数字と引用で明らかである;
HIPCs41カ国の債務ストック合計
1990年; 1,584億ドル
1996年; 2,055億ドル
1997年; 2,021億ドル
1998年; 2,044億ドル
1999年; 2,098億ドル
2000年; 2,079億ドル
2001年; 2,149億ドル
(資料:IMF、世銀『世界経済アウトルック』より)

1990〜96年間には、債務ストックは30%増加した。1996年には、G7とIMF・世銀は80%帳消しにすると発表したが、実際には、債務は減少するどころか、逆に、増えつづけ、5年間に4.7%も増加した。

南から北へ資金が逆流

1999年、HIPCsは、新しく受けたローンの額に対して16億8,000万ドルも多く北に支払った。
(資料:世銀『グローバル開発金融』2000年版より)
 これは、HIPCsが債権者により多くの額を支払ったことを意味する。一体、誰が誰に対して寛容だと言うのだろうか。最も貧しい国ぐにが受取っているものよりも多くを支払っているのに、どうして、G7をドナーと呼び、IMF・世銀を資金供与機関などと呼ぶことができるだろうか。

HIPCsの債務返済額は増えている

世銀によれば、1996〜99年間、HIPCsが支払った債務返済額は、25%増えた。1996年には88億6,000万ドルであったが、1999年には、114億4,000万ドルになった。(資料:世銀『グローバル開発金融』1999年版より)

OECDによれば、HIPCsのIMF・世銀に対する債務、つまり多国間債務は、1998年には707億ドルであったが、1999年には704億ドルになった。
(資料;OECD『対外債務統計』1999年版より)

たしかに、僅か(0.5%)に減っている。一方、OECDによれば、HIPCsのその他の債務、つまり、2国間債務、民間債務は、同じ期間、6.6%減っている。これは主として、フランスに負うところが大きい。

では、将来はどうか。

IMF・世銀は、22カ国の債務を、今後数年に亘って、340億ドルも帳消しにしたと宣伝している。これは驚きである。事実は、これまでCADTMが述べてきたように、世銀とIMFは決して帳消しはしない。これら機関の総裁は、帳消しを実施しているなどと、恥知らずにも嘘をついている。多国間債務はIMF・世銀に対しては、「信託基金」というふざけたものによって、確実に返済されるのだ。
(参照:Eric Toussaint著;「債務のスパイラルを破れ」『ルモンド・ディプロマティーク』 1999年9月号)

この「信託基金」がどのように機能するかについては、Yves Tavernier議員が2000年12月13日、フランス議会に提出した「IMF・世銀の活動と支配」という文書によって明らかである。2000年のIMFの年次報告書とTavernier議員の文書によると、HIPCsイニシアティブが始まった1996年〜2000年間に合計4億ドルが支出された。これは、IMFの2,300人のスタッフの年間の給料(4億5,100万ドル)を下回る額である。

世銀が基金から支出した額は、世銀の年間の利益金(約15億ドル)を下回る。忘れてはならないことは、IMF・世銀が基金から出した資金は、債務返済として回収されているのだ。HIPCsの債務を削減するために設けられたこれら信託基金の金は、決して債務を免除する気のない機関の手に最後には回収されるのだ。

HIPCsの債務削減に関係するのは、2国間債務だけである。この場合でも、帳消しはパリ・クラブのメンバーである債権国に限られる。だが、ここにも、反則がある。先進国政府は帳消しを発表するが、その額は常に誇大に言っている。実際の帳消し額は、そのうちの10〜25%に過ぎない。例えば、ベルギーは、ベトナムの債務を3,600万ドル帳消しにすると言ったが、ベルギー財務省が支払ったのは、わずか900万ドル、25%に過ぎなかった。しかもこの金額がベトナムに渡ったのではない。それは、ベルギー財務省が、正価3,600万ドルの債権を、値切って買い戻した額である。実際には、ベルギー海外協力省が、ベルギーの輸出業者向けに輸出の保険業務をしている「Office de Ducroire」に支払ったのであった。

フランスの場合、Coface公社が、HIPCsは2国間債務を返済すべきだと主張している。HIPCsが年間の債務返済を行うと、同じ額を贈与の形でHIPCsに戻してやる。これを、帳消しと呼べるだろうか。

OECDの昨年の報告書のなかの債務の項は、これと同じ立場で書かれている。HIPCsイニシアティブは債務ストックの削減を意味しない。なぜなら、削減は、利子分に限られており、贈与とは、債務返済の対価として支払われるものだから。

HIPCsイニシアティブの目的は、最貧国の債務の重荷をいくらか軽くすることにあり、債務のシステムは依然として継続する。HIPCsは債務の枷から逃れられない。債権者側はHIPCs政府に、自分たちの利益に沿った政策を押し付けることが出来る。IMFと世銀は、パリ・クラブのメンバーとともに、「貧困削減成長基金(PRGF)」や「貧困削減戦略ペーパー(HRSP)」、つまり構造調整政策を改名したもの、という枠組でもって政策を押し付けている。

HIPCsは、今後の債務返済が削減され、新しい融資を受けることと引き換えに、IMF・世銀の政策を受け入れている。IMF・世銀の言葉では、「条件」と呼んでいるが、これらの政策は、;
水、電気、通信、公共運輸などのサービス部門の民営化の促進
国営企業の民営化、または閉鎖
主食や日用品に対する補助金の廃止
VATを一般化することによって、貧しい人びとに対する増税(西アフリカの場合、18%)
関税による保護政策を撤廃(自国の生産者を多国籍企業との競争に晒す)
資本の流入・流出の自由化(資本の大量の流出となる)
土地の民営化
教育と保健の受益者負担

これら条件はあまりにも時代遅れであるので、2000年には、IMF・世銀が選出した41カ国のうち、2カ国がHIPCsの資格を辞退した。それは、ガーナとラオスであった。