DebtNet通信 (vol.1 #12)  
国際エイズ・キャンペーンはじまる
2001年4月11日


HIV/AIDSの国際的キャンペーンはじまる―Jubilee2000に続くもの

1)グローバル・エイズ同盟の設立(Global Aids Alliance)

Jubilee2000の成功にならって、債務帳消し分をサハラ以南のアフリカにおいて猛威をふるっているHIV/AIDS対策の費用に充てることを含めた、国際的なキャンペーンが開始された。そのスローガンは、「Drop the Dept for AIDS 」である。

さる3月29日、OXFAM、国境なき医師団など国際的なNGOが集まり、「グローバル・エイズ同盟(GAA)」が結成された。これには、多くにロックスターや映画スターが参加し、債務帳消しのジュビリー2,000に続く国際キャンペーンが始まった。

3月15日に配布されたGAAのFact Sheetは;
GAAは、Jubilee2000をモデルとして、革新的、時限付きの、参加型、行動型の市民社会組織としてグローバルな疫病であるHIV/AIDSに取り組むグローバルなキャンペーンである。GAAはJubilee2000をパートナーとする。

アフリカのエイズ対策に、年間150億ドルを!
国際的な専門家によると、サハラ以南のアフリカにHIV/AIDSとたたかうためには、予防、治療、発病阻止治療、インフラ整備、人材育成、応用研究などミニマムなパッケージを提供するためには、毎年、150億ドルに資金を必要としていると言う。しかし、2001年までの実績では、年平均5億ドルしか供与されていない。

「年間150億ドルをアフリカのエイズにキャンペーン」はこれを贈与の形で、HIVの伝染予防、AIDS患者の治療、支援、さらに「エイズによる孤児」援助などに向ける。これを市民、企業、政府から集める。
 GAAは世銀の「国際エイズ信託基金(IATF)」、独立の信託基金、その他の資金供与組織のアカウンタビリティ、参加、透明性などを監視する。

途上国においては、HIV/AIDS患者の95%は、治療も薬も買えない。GAAはこれらエイズ薬を可能な限り安い価格で手に入れることが出来るようつくす。

米国下院議員Barbara Lee女史がGAAの名よ会長に就任した。
GAAのメイリング・リスト;<Global-AIDS-Alliance-subscribe@yahoogruoups.com>

すでに、米国では、マサセッツ州の学生のイニシアティブによって、ブッシュ大統領、パウエル国務長官、議会に対して、今年の予算にアフリカへのエイズ援助分として25億ドルを計上するよう、10万人の手紙作戦がはじまっている。この呼びかけに対して、全米1,200の大学学生組織が応えている。学生は、6月にワシントンにおいて、大規模な集会を企画している。

2)国連エイズ特別総会の開催

6月25〜27日、ニューヨークの国連本部において、HIV/エイズ問題について、最高レベル(閣僚級)の政府代表による特別総会を開催する。ここでは、国際的なエイズ対策の強化とそのための資金の調達について協議され、「コミットメント宣言」(英文の草案があります。ご入用の方は北沢まで.Wordで送ります)と一連の緊急対策措置について決議されることになっている。これは、アフリカにおいてエイズが猛威を振るっており、もはやこの疫病がグローバルに及ぼす影響を無視することが出来なくなったためである。全世界3,700万人のHIV/エイズ感染者の中で、サハラ以南アフリカの感染者の数は2,500万人にのぼる。

しかし、特別総会に向けた3月の準備会議において、米国代表が見せた態度はひどいものであった。まず、任命されたのが国務省の下っ端役人であり、彼はほとんど会議の席にいたことがなく、エイズ問題について無知であり、国務省からの訓令も受けていないように見えた。これは、多くのEUや途上国の政府代表を失望させた。

ブッシュ新政権のエイズ問題への取り組みが疑問視されている一方で、米議会では、途上国政府のエイズ対策支援を目指した積極的な議論が交わされている。カルフォルニア州選出Dianne Fernsteinとウイスコン州選出Russell Feingoldの2人の上院議員が、「2001年エイズ治療アクセス法案」を提出した。これは、WHOとUNAIDSを途上国向けのエイズ治療薬の製造と配布を監視する機関とする、途上国政府が安価な治療薬を国内で製造、輸入をすることを支援する、そのために、米国際援助局は年間2,500万ドルのODA(贈与)を拠出する、などといった画期的な内容を含んでいる。

米下院ではカルフォルニア州選出のMaxine Waters議員は、米製薬会社が南アフリカ政府をエイズ治療薬の特許権をめぐって訴訟を起したことを、議会において非難した。

3)世銀の対エイズ融資

GAAの誕生は、単に国連のエイズ特別総会に合わせただけのものではない。実は、アフリカのエイズ問題には、世銀の融資問題とWTOの知的所有権、多国籍製薬会社のモラルの問題などが背景にある。

世銀は、アフリカ政府のエイズ対策に対して、無制限に融資を行うと発表した。これには世銀の第二の窓と呼ばれるIDAのソフト・ローンが供与される。ウオルフォンセン総裁は、「エイズの対する投資は30%の利益をあげることができる」と語った。

これに対して、国境なき医師団、OXFAMなどのNGOの多くが、反対声明を出した。なぜなら、世銀の融資は、貧しい途上国の患者が到底支払うことの出来ない高価な治療薬の支払いに充てられ、先進国の医薬品会社を儲けさせるだけであり、結果として、途上国政府の債務を増大させる。また総裁のいう30%の利益についても、何ら根拠がない、と非難した。1人当りのGDPが500ドル以下のの最貧国では、どんなに安価な治療薬を手に入れても、患者の治療費は、確実にそれを上回る。

NGOは、エイズに対する援助は「贈与」でなければならないと主張している。しかし、
世銀がIDA融資を行うことによって、かえって贈与による援助がなくなる恐れがある。なぜなら世銀のIDAローンの原資は、先進国政府が世銀に「贈与」の形で拠出したものである。これを世銀が、40年払いの長期のローンに変え、0.75%という手数料(利子)を取って、最貧国政府に貸しつける。すでに、ケニア、ウガンダ、南アフリカなどの政府が、世銀の対エイズ融資を拒否している。

4)米輸銀も対エイズ融資

米輸銀もエイズ関連の融資を行っている。米国のPhyto-Riker製薬会社は、ガーナにエイズ治療薬の製造工場を進出させている。ここで製造されるエイズ治療薬は、西アフリカ18カ国に販売網をを通じて売られている。2月末、ガーナ保健省とPhyto-Riker社は共同で、2億5,000万ドルの米輸銀の融資を受けた。これは、Rhyto-Riker社が新しく設立した、NPOの「HIV/AIDS医薬品配布とアクセス信託基金」の資金として供与された。これによって、Rhyto-Riker社はほぼ西アフリカ全域にエイズ治療薬の供給を独占できる。そして安い治療薬を受取る代わりに、患者は同社の実験、資料集めなどに協力させられる。

最後に、疑問として残るのは、利子が高い米輸銀の2億2,500万ドルを誰が返済するのかということである。この債務を払うのは、勿論、ガーナ政府であり、貧しい患者である。

5)多国籍医薬品会社が南アフリカ政府を告訴

さる3月5日、米・ヨーロッパなど39の多国籍製薬会社が加盟している医薬品製造協会(PMA)は、南アフリカ政府の「医薬品法」の実施に対してプレトリア高裁に告訴した。この法律は、安価な治療薬を輸入、製造することを許可するもので、それによって、南アフリカ国内でエイズ治療薬を製造しているPMA加盟各社の特許権と利益が侵害されるというのが、告訴の理由であった。医薬品法は、1997年に制定されたが、翌年、PMAがWTOの知的所有権に関する協定(TRIPs)に違反すると訴え、実施が阻まれてきた。今回、南アフリカ政府が、この法律の実施に踏み切ったのは、420万人にのぼる世界一のHIV/エイズ感染者をこれ以上放置することができなくなったためである。5人に1人の感染率である。同時に、NGOの「治療行動キャンペーン(TAC)」と南アフリカ労組連合(COSATU)の2年以上の運動が功を奏したと言える。

3月17日、PMAの中心であったBMS社が、2大エイズ治療薬であるDDIとD4Tの特許権の放棄と、1日当りの価格を1ドルに値下げすると、発表した。同社は、本来1日当り3ドルであり、コスト割れであると言った。

エイズ治療薬の真実

現在、途上国では、タイ、ブラジル、インドにおいて国営製薬会社がDDIとD4Tを自主製造したいる。タイでは、それが何と1日分0.36ドルで売られている。BMS社の言う「1ドルではコスト割れだ」というのは、真っ赤な嘘である。

さらに、この2つの治療薬を開発したのは、それぞれエール大学と国立保健研究所であり、その研究開発はすべて公的資金で賄われた。BMS社は単に製造ライセンスを買っただけで、1997〜99年間に、2つの治療薬から10億ドルの利潤を挙げてきた。製薬会社にとって、HIV/エイズは巨額の利益をもたらすウイルスであり、アフリカの貧しい感染者からさらに絞り取ろうとしている。道義的に許せないことである。

グローバル・エイズ同盟は、アフリカ政府は感染者に無料の治療薬を供与すべきであり、また、感染防止の教育や、治療の専門家を養成するなど包括的な対策を実施すべきである、とキャンペーンしている。そのため、先進国は年間50億ドルの援助を出すべきであり、その内、アフリカ向けには、15〜20億ドルをさくべきである。また、多国籍製薬会社に対して、途上国向けのエイズ治療薬の特許権をWHOに譲渡すべきである、と要求している。 

さらに、いまや、人類の存亡を脅かしているHIV/エイズの撲滅に貢献できるように、先進国政府は、WTOのTRIPsの改正に踏み切るべきであると、主張している。

6)G7のエイズ対策 

7月のジェノバ・サミットにむけて、G7のシェルパやその代理たちは、イタリアの観光地で会議を続けている。『Wall Street Journal』3月13日付けによると、イタリア政府がG7に、エイズ対策として少なくとも10億ドルの信託基金を設立するよう求めていると言う。これは、半分は国家から、残りの半分は企業からの拠出を見込んでいる。この基金は世銀によって運営され、エイズ、結核、マラリア、赤痢などの対策に使用される。