DebtNet通信 (vol.1 #10)  
ベルリンFTAP会議報告その1
2001年4月10日


3月12日から4月2日まで、ヨーロッパを漫遊していまして、債務関連の会議には、ベルリンの4月14〜15日、ジュネーブの3月30〜31日の2つに出ました。この旅行では、世界は物凄い勢いで動いているという感想を強くしました。2つの会議の報告をシリーズでお伝えします。

ベルリンFTAP(公正で、透明性のある仲裁のプロセス)国際会議報告その1

ベルリンのFTAP国際会議は、ケルン周辺に本拠を置くドイツJubilee2000とベルリンのBlue21(環境関連のNGO)が共催した。しかし、連邦議会のFTAPについての公聴会が開かれ、これに便乗したというのが実情である。そこでまず、ドイツ連邦議会の公聴会の模様を報告する。

3月14日午前9時、ベルリンの連邦議会で、財政委員会、外務委員会、対外援助委員会の3委員会が合同(SPD議員が48名、緑の党が8名、CDUが38名、その他12名、計106名の議員、この名簿はDEBTNETの事務局にあります)で、「国際金融市場の安定性、債務、金融再生法」についての公聴会が開かれた。公聴会の議長は緑の党のChristine Scheelという女性議員であった。

パネルには、社民党(SPD)・緑の党連合とキリスト教民主連合(CDU)の双方が推薦した専門家がいた。日本の国会と違い、パネルの顔ぶれは国際的であった。SPD・緑の党連合は、エクアドルのJubilee2000からAlberto Acosta、オーストリアのウイーン大学経済学部のKunibert Raffer、ジュネーブのUNCTAD事務局(トルコ人、グローバリゼーションと開発戦略局という魅力的な名前の部署の責任者)のYimaz Akyuzを参考人に推薦した。CDU側は、バーゼルの国際決済銀行(BIS)頭取のクロケット氏(ペーパーなしでアドリブでスピーチをしたので、スペルは不明だが、1998年、G7が設立した「金融安定化フォ―ラム」の議長)のほかドイツの大学教授2人であった。

公聴会に出席していたのは、106名の議員のうち26人、その中で女性議員は8人、残りは議員秘書であった。議会の公聴会としては出席率が高いそうだ。その理由は、傍聴席にドイツ各地から、ジュビリーやIMF・世銀問題に取り組んでいるNGOが座っており、議員としても投票者に熱心に取り組んでいる姿勢を見せなければならないと言う、Jurgen Kaiserさん(ドイツJubilee2000代表)の解説だった。公聴会はドイツ語で行われたが、英語、スペイン語の3カ国のほぼ完璧な同時通訳がついた。

ドイツ以外からの傍聴者は、FTAPの国際会議に参加した私たちと、アルゼンチンのMario Cafiro議員であった。彼はたまたまヨーロッパを旅行中であったようだが、続いてFTAP会議にも出席した。

パネルの論点の概要:

(1)国際金融市場の安定化について
この問題は、パネリストではBISのクロケットとUNCTADのアキューズ、SPD=緑の党対CDUの間の論争となった。

クロケット:冷戦後、国家による金融政策から市場主導型へと移行した。これは効率的であり、国家経済に規律をもたらした。今のところ市場に代わるものはない。

一方では、金融危機と不安定化をもたらした。その原因は、最近のトルコ危機に見られるように国内の金融制度の不備、コーポレート・ガバナンスの欠如などにある。したがって、国際的に、金融制度の基準と規範を確立する必要がある。そのため、2年前に、G7代表とIMF、世銀、BIS、OECDによるバーゼル委員会が設立された。これは国際的なSECである。また、同じくバーゼルの金融安定化フォーラムは、早期警戒システムの問題のみならず、広範な問題について議論している。ここでの難問はヘッジ・ファンドと資本の移り気性をどのように扱うかである。

アキューズ:一連の金融危機は、外貨不足の問題であった。しかしIMFの介入は、さらに通貨の下落をもたらし、資本のモラルハザードを生み出した。非効率であり、成果がなかった。危機にさいして、IMFの融資に制限を設ける、民間資本の資産を一時的に停止(Standstill)させるようにIMFの条項を改正することというカナダの提案を支持する。 

(2)債務と国家金融再生法(Soverign Insolvency)
アコスタ:1953年、ドイツは連合国から債務救済を受けた。これは、債務総額の52%を削減し、利子を0%にした。債権者の銀行はこれを受け入れた。これは、まず経済の回復を優先させ、輸出の剰余を債務返済に充てるスケジュールを策定したのであった。これを今日の途上国の債務救済政策に取り入れるべきである。エクアドルにおいては、公的債務の返済は輸出の38%、国家予算の40%に上っている。その結果、公務員の給料は3ヶ月不払いになっている。1999年9月23日に法王に謁見したとき、「国際的な仲裁委員会」の設立について、合意した。

ラッファー:1987年以来、国際的な「Insolvency(金融再生法)」を国家に適応することを主張してきた。ドイツの蔵相は「国家アムネスティ法」の制定を主張している。
HansーHelmut Kotz教授(CDU側):金融安定化についての提案は、(1)チリのように資本に税を課す、(2)資本の対外流出と市場の崩壊について、危機の予見を行う。これは、1993年にグリーンスパンが提案したが財務省に拒否された。 

Peter Bofinger教授(CDU側):トビン税に反対である。これは金融危機を防止できない。アジア危機は、1990年代米国の金利が安く、アジア諸国がドルにペッグしていたためである。オールタナティブとしては、国内的に管理フロートをとるべきである。

議員の質問:

クリケットに対して;金融市場の安定化と市場の機能との間のディレンマをどう解決するのか?国際的な基準と規範については、制裁措置を導入すべきか?またモニターすべきである?主要な先進国間の交換レートを安定させるべきではないか?

答え;市場経済は政策決定が非中央主権化されており、規制を再導入するのはコンセンサスになっていない。民間資本の停止を導入することを、1週間後に開かれる金融安定化フォーラムで決める。制裁のメカニズムについては、金融安定化フォーラムで決める。規範については、12の中心的なものについて、途上国が反対している。GATTの12条によって、借り手が「停止」を声明することが出来る.IMFの第8条を改正すべきか、アドホックにやることができる。

アキューズに対して;UNCTADの役割は?

答え;債務の持続性を見直し、国際金融機関ではなく、独立した評価をするよう国連に提案している。しかし、国際世論の圧力が決定的である。基準と規範については、途上国は警戒すべきである。北が開発した新しいモデルなるものが押しつけられる恐れがある。IMFの投票権において、米国は19%だが、EUは30%に上っているので、責任が大きい。

ラッファーに対して;貧困削減戦略ペーパーの策定にさいして市民社会を参加させているが?
答え;十分な措置が取られていないので、声が反映されていないのが実情だ。

(3)トビン税について

可能か?

アキューズの答え;技術的にはすべての通貨取引きに対して課税することが出来る。その収入を途上国の利益になるように支出されるべきである。
ボーフィンガーの答え;2000念6月、金融安定化フォーラムにおいてトビン税についての諮問ペーパーがでているが、否定的であった。
コッツの答え;ドイツでは連邦議会はとりあげているが、大蔵省が反対している。

ドイツ連邦議会の公聴会は、午前9時からノンストップで3時まで続いた。各自別室にしつらえたコーヒーとスナックを持って部屋のなかで審議中に食べていた。

議員の質問は、Kaiserさんによると、Jubilee2000やBlue21が事前にレクチャーしたものだといっていた。