コラム  
「保有外貨の極度のドル依存をやめよ」
 
『熊本新聞』「論壇」05年3月13日掲載 


  日本は長い間、世界最大の外貨保有国である。その額は、今年の1月末の段階で、8,410億ドル(約85兆円)にのぼり、第2位の台湾の2,430億ドルを大きく引き離している。
  この日本が保有するドルの大半は貿易で稼いだものである。しかし、ここ2年ぐらいの間に急増したのは、財務省が円高対策として、円を売ってドルを買った分である。
  たしかに財務省が「円売り・ドル買い」をすれば、為替は円安となる。しかし、これはほんのいっときのことであり、またすぐに円高となる。なぜなら為替市場を操作しているのは1日に2兆ドルもの巨額の資金を動かすことができるヘッジファンドなどの国際的プロだからだ。せいぜい10億ドルぐらいしか用意できない財務省などの相手ではない。
  しかし、財務省はこの「円売り・ドル買い」を繰り返した。その結果、日本は多量のドルを保有することになった。財務省は、将来、円安(ドル高)になれば、為替差益がでるので大丈夫だと言っている。しかし、米国が巨額の貿易赤字と財政赤字という双子の赤字を抱えていて、何の対策も採られていない現状では、ドル安・円高はさらに進行することはあっても、ドル高・円安になる可能性はない。しかもここで使われた円は政府の借金で賄われたものであり、いずれそのツケは国民に回ってくることは必定である。

  米国の赤字といえば驚くべき額である。たとえば貿易の収支に資本投資などを総合した「経常収支」をとって見ても、毎日20億ドル(約2,100億円)の赤字を出している。この赤字の83%は、勿論その最大は日本だが、他に台湾、韓国、中国などアジアの外貨保有“大国”の中央銀行が米国債を買うことによって補填されている。
  しかし、これらアジアの外貨保有“大国”といっても、全く同じ政策をとっているわけではない。たとえば、中国は米ドル債だけでなく、ユーロ債も持っている。韓国の中央銀行(韓国銀行)も保有外貨のなかの米ドル債依存を減らす政策をとっている。
  米国ドルに100%依存しているのは、米国のうしろだてがなければ生きていけない台湾、そして世界第2位の経済大国である日本である。
  これらアジア諸国の中央銀行は、口を揃えて「米国債を売ることはしない」といっている。しかし、中国や韓国は、保有ドルを売ることはしないが、今後買う量を減らしていく方針である。これだけで、ドルは打撃を受け、一層値下がりするだろう。
  2月24日付けの『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、米国政府が新たに2兆ドル(約210兆円・日本政府の年間歳入の5倍))の借金(新規の国債発行)をするという噂を伝えている。そうなれば、ドルは一層安くなり、円高になるだろう。そうなればこれまで日本が持っていた米国債の価値も値下がりする。それでも日本は、米国に気兼ねして、「ドルを売ることはしない」と宣言し続けている。あくまで対米依存を続ける気でいる。
  これまで、日本はこのような米ドル依存政策のために、どれほど損をしてきたのだろうか。遠くさかのぼれば、敗戦後、破壊された経済を復興し、必要なものも買わないで工業製品を輸出してドルを溜めてきた。そのドルは1971年のニクソン・ショック(ドルの金兌換性の廃止)によって、紙切れ同様になってしまった。さらに1985年、先進5カ国の財務相(G5)のプラザ合意によって、円の切り上げが決まった。その結果、70年代はじめまで、1ドルが360円であったものが、70円近くまで値下がりしてしまった。

  日本は、これ以上のドル依存をやめるべきである。今後ドルを買う量を減らすとともに、保有外貨をドル、ユーロ、金など均等に保有していく長期戦略を打ち出すべきである。それは、日本経済の安全保障を確保する道である。