コラム  
「外国人留学生の受け入れ政策の確立を」
 
『熊本新聞』「論壇」05年2月13日掲載 


  30年近くにもなるだろうか、1978年5月にフィリピンのマニラで国連貿易開発会議が開かれた時、当時の大平首相(故)は日本の巨額の貿易黒字を非難されたことに対する対応策として、「今後10年間で日本への留学生の数を10万人に増やす」と公約した。
  数だけをとって見ると、2003年にやっと外国人留学生の数は10万人を越えた。この中で中国人留学生は7万人強である。また、私立大学への留学生の数が8万人近く、そのうち専門学校への留学生が2万人である。一方、国費留学生の数は9,700人と1割にも満たない。また大学院で学ぶ留学生は3万人にも満たない。
  これらの数字から推察できることは、中国人留学生の数が全体の3分の2以上と異常に多いことと、学位や研究活動にはつながらない専門学校への留学生の数が2割に及んでいることである。つまり、質の面では大いに問題がある。かつて大平首相が留学生10万人受入れ政策を打ち出したのは、途上国への政府開発援助(ODA)を増やすことの一環としてとらえていたはずだった。しかしこれでは、政府に「留学生政策」といえるものがあったとは到底思えない。
  外国人留学生の受け入れについては、現在、米国とヨーロッパの間で激しい競争が続いている。これまでは、将来受入国の良き理解者となるように養成することが留学生受け入れの最大の目的とされていた。しかし、最近では、授業料と滞在費を払ってくれる、いわば1産業部門としてとらえる、あるいは、先進国が高齢化社会を迎えるにつれて、留学生を“高知能移民”として歓迎するという風潮が生まれてきた。オーストラリア、ニュージーランドなどは、1つの産業と割り切って、留学生に高い授業料を払わせている。一方、ドイツやカナダは、人口の高齢化対策として、留学生が卒業後も受け入れ国に留まることを奨励している。そのために奨学金を出す、あるいは授業料を無料にするなどの政策をとっている。
  昨年12月12日付けの『ニューヨークタイムズ』紙によれば、外国人留学生の受け入れ数では、これまでは米国が常に第1位であった。それは今でも変わらない。2002年の統計では、米国が58万人、英国が27万人、ドイツが23万人の外国人留学生を受け入れている。しかし、9.11以後、米国への留学生の数が減ってきた。他方では、英国は年率15%、ドイツは10%増を記録している。
  一方、留学生の国籍では、第1位が中国、第2位が韓国、第3位がインドである。年間に200万人の学生が多くの国をめざして移動しているのだが、その数は2025年には、アジア地域の経済発展によって新しい中産階級が生まれ、先進国に留学する学生の数も4倍に膨れあがると予想される。
  これに対応して、ヨーロッパ諸国は、いかに優秀な外国人留学生を呼び寄せるかにしのぎを削っている。それには、英語で教える学科を増やすことも必要だし、何よりも大学の水準を高めることと魅力的な学科を創設することである。大学のランクづけに、その大学の卒業者から何人のノーベル賞受賞者を出したかという物差しがあった。これによると、これまでは、上位20の大学の中で、17校が米国の大学であった。ヨーロッパ諸国は、この面でも、米国に挑戦しようとしている。
日本では国費留学生に数が圧倒的に少ないばかりでなく、留学生に対する公的・私的奨学金もほとんどない。英語で教える大学も非常に少ない。さらに日本では、国立大学の教授に外国人学者がなることもままならない。学術会議のメンバーも「日本国籍に限る」としている。このような閉鎖的、時代遅れの状態では、これから始まる先進国間の留学生受け入れ競争にはついていけない。