コラム  
「最貧国の債務を帳消しに」
 
『熊本新聞』「論壇」04年12月12日掲載 

                
 再選されたブッシュ政権は、テロに対して断固として「軍事的に対応する」という方針を続けるようである。これに呼応して、日本政府もイラクの自衛隊派遣をもう1年間延長することを決定した。日本では、政府もマスコミも、米国を主軸にして世界が動いていると信じている。 
 しかし、世界中が軍事力一色に塗りつぶされていると考えるのは間違いである。「ブッシュのプードル」とからかわれている英国のブレア首相でさえ、来年の総選挙を控えてタカ派的発言を控えている。
 イラク戦争に反対してきた大陸ヨーロッパでは、貧困が戦争やテロの原因であるとして、途上国の「貧困根絶」を最大の課題に挙げている。この考えに、地球上では4分の3を占める途上国が同調している。世界の多数派は、軍事力主義ではなく、貧困根絶が最重要課題だと考えているのだ。
 では、貧困根絶の動きにはどのようなものがあるのだろうか。

 来年7月、英国のエジンバラで先進主要8カ国首脳会議(G8サミット)が開催されるのだが、これに向けてヨーロッパには、さまざまな取り組みがある。
 まずサミットの議長国である英国政府内では、ブレア首相のライバル関係にあるブラウン蔵相が、最貧国の債務の帳消しに熱心である。さる10月にワシントンで開かれたIMF・世銀総会では、総会議長のブラウン蔵相が「100%帳消し」を提案したが、その方法をめぐって米英間が対立し、合意に至らなかった。
 そこで、来年のエジンバラ・サミットで、ブラウン蔵相はこの債務帳消しを最大の議題にしようとしている。民間レベルでも、すでにオックスファムなど有力なNGOが集まって「貧困を歴史的な問題にしよう」というスローガンを掲げて、サミットに向けた債務帳消しの国際的なキャンペーンを開始している。
 最貧国の債務の帳消し問題は、すでに1999年6月、ドイツのケルンで開かれたG8サミットで、「42カ国の重債務貧困国の債務のうち700億ドルを帳消しにする」ことに合意している。これは、世界中から市民3万5000人がケルンに集まり、サミット会場を「人間の鎖」で取り囲んで、G7首脳に対して圧力をかけた成果であった。
 ケルン以来すでに5年以上経過しているが、これまで帳消しになったのはその半分以下の340億ドルにすぎない。残りの債務はほとんどIMF・世銀などの国際金融機関の「開発」融資の焦げ付いたものである。
 アフリカなど最貧国では、政府予算の3分の1、あるいは2分の1が債務返済に充てられるので、政府は子どもにポリオワクチンを接種することができない。そのために1日に1万6,000人の子どもが命を奪われている、というユニセフの統計がある。このように、子どもの命を犠牲にして返済されている債務は不法であり、したがって帳消しにすべきだ、というのが根拠になっている。
 国際キャンペーンは、債務帳消しによって浮いた資金を今日アフリカやカリブ海諸国で猛威を振るっているエイズ対策、そして教育や水の供給といった人間が生きていくのに最低必要なニーズに充てられるべきだと主張している。 
 債務帳消しを要求する国際キャンペーンは、再びエジンバラでケルンでのような大規模なデモを企画している。エジンバラでは、最貧国の債務を100%帳消しにするようヨーロッパの首脳たちがブッシュ大統領を説得するという構図が想定される。この場合、「テロにたいしては断固として軍事力で対処する」といい続けている小泉首相はどのような態度をとるのだろうか。