コラム  
「役人のリストラを」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」03年7月7日掲載

                 
 日本経済の大不況は13年目を迎えた。それ以前に、円高により、企業が海外生産をはじめており、産業の空洞化が始まっていた。そしてバブルがはじけ、不況になった。
 とくに中国から安い製品が入ってくるようになり、さらにデフレがはじまると、企業の倒産があい次いだ。年功序列・終身雇用制度は、もはや昔の物語となり、企業では社員の「リストラ」すなわち解雇は当たり前のことになった。収益の上がらない部門や子会社は情け容赦なく、切り捨てられている。

 不況の進行とともに、日本政府の財政は大赤字になった。小泉首相は、「国債の発行を30兆円に抑える」ことを公約にした。しかし、そもそも30兆円の国債を毎年発行すること自体が恐ろしいことである。財政規模が80兆円だから、2年とちょっとで発行率は100%となる。私は、小泉首相が「30兆円」を口にするたびに引き付けを起こしそうになる。だが実態はもっと悪い。日本の財政は、歳入、つまり税金が、歳出の半分に満たないのである。

 かって80年代、レーガン政権が猛烈な核軍拡をやり、その結果、米国の財政は大赤字となった。その穴埋めに発行した国債を、日本の生命保険会社や証券会社が大量に買っていた。私はワシントンで、ある議会ロビイストに会った時、「この国債の将来はどうなるのか」と質問した。相手は、上を向いてしばらく考えた末、「グリーン・ペーパーを増し刷りすれば良い」と答えた。グリーン・ペーパーとはドルのことである。なるほど、ドルは世界通貨であり、いくらでも刷れば良い。しかも米国債を買っているのは日本だから、アメリカ人が破産するわけでもない。「簡単だなー」と妙に感心したりした。日本政府も最後にはこの解決法を考えているのかも知れない。

 財政赤字を理由に、福祉予算が大幅に削られている。また国の事業の多くは、民営化された。というよりは、人々の共有財産であったものが、私企業に安く払い下げられた。当然のことながら、政府の仕事は大幅に減った筈である。しかし、役人の数は全く減っていない。歳入から考えて、半分に減る筈である。小泉首相が省庁を統合したが、大臣の数は減るどころか、逆に副大臣がやたらと増えた。役人もまったく減っていない。どこの官庁に行っても、物凄い数の課がある。その名称がまた傑作である。

 教育、医療、衛生、農業、建設、国土などなど、ほとんど地方自治体が担っている分野の官庁ほど、巨大であり、役人がワンワンといるのはどういうことだろうか。
 長く続いた、かつ巨額な財政赤字を理由に、この際、中央官庁の役人の数と課を大幅にリストラすべきである。これまで政府は、「民営化」と「小さな政府」をスローガンにしてきた。その度に犠牲になってきたのは、社会的に弱い人々である。彼らの福祉、教育、医療、衛生などの事業費を無慈悲にもぶった切ってきた。しかし、真にこの2つのスローガンを実施するということは、役人のリストラではないか。