コラム  
「大統領再選とイラク」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」04年11月15日掲載

                
 ブッシュ大統領が再選された。私は、大統領選挙の最大の争点であったイラク戦争の行方について考えたい。

 ブッシュ大統領は、これを対テロ政策の目玉として、エスカレートさせていくであろう。11月9日、米軍はファルージャ市に対する総攻撃を開始した。

 この攻撃は、来年1月末に予定しているイラク総選挙を行う際の最大の障害を取り除くためだという。なぜなら、この総選挙は、ブッシュ政権の2期目発足の就任式直後に当たり、「イラク民主化」を掲げる米政権にとっての試金石と見なされるからである。しかし、ファルージャを軍事的に制圧したからといって、総選挙がスムーズに行われる見通しはない。

 ファルージャ攻撃の成功を信じているのは、ブッシュ大統領と米国防総省、それに早々と支持を表明した小泉首相ぐらいのものであろう。10月31日、アナン国連事務総長は米英首脳とイラク暫定政府に対して、「総攻撃の中止」を要請した。イラク国民が「米軍の占領が続いていると感じ、総選挙の遂行が不可能になる」というのがその理由であった。

 イラク国内でも、スンニー派地域に大きな影響力を持つイスラム宗教者委員会は「攻撃が行われれば選挙をボイコットする」と声明した。一方、イラクの人口の60%を占めるシーア派の間でも新しい動きが起こっている。11月8日付けの『ニューヨークタイムズ』紙によれば、かつて米国防総省とCIAの申し子であったチャラビィ氏とシーア派の過激派サドル師とが手を結び、奇妙な反米同盟が生まれたことを報じている。この反米同盟はシーア派の住民の中で広範な支持を得ているという。

 今日、米軍はイラクに13万8千人の軍隊を駐留させている。その多くは予備役で、実戦部隊は多くない。その証拠に、今回のファルージャ攻撃に際して、バスラの英軍にバグダッドの防衛のために850人の援軍派兵を要請したほどであった。首都バグダッドでは、米軍はほとんど塹壕の中に閉じ込められていて、動きがとれない状況である。

 多国籍軍の中では、来年1月の総選挙を期に、撤退を決めている国が増えている。スペインなどすでに撤退した7カ国に加えて、オランダなど3カ国がすでに撤退を決めている。わずか10〜160人という象徴的な派遣をしている13カ国を除くと、イラクに駐留を決めている国は英国、イタリア、韓国、デンマーク、それに日本ぐらいである。

 日本の自衛隊が駐留するサマワでも、今年8月以来、しばしばオランダ軍、自衛隊、イラク警察署に対するゲリラの迫撃砲による攻撃が続いている。小泉首相は自衛隊の駐留の延長を決めているようだが、オランダ軍の撤退後は自衛隊が単独で、ゲリラの攻撃と対峙することを覚悟しているのだろうか。