コラム  
「イラク多国籍軍への参加は問題」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」04年6月21日掲載

          
 さる4月、米海兵隊はスンニー派の拠点ファルージャを包囲攻撃し、住民600人(その大部分は女性と子どもであった)の死者を出した。さらに南のシーア派の町ナジャフではモスクを爆撃するという暴挙を犯した。これは一挙に戦況を変え、イラク人の反米抵抗闘争が全土化してしまった。さらにアブグレイブ刑務所での米軍の捕虜虐待事件の全容が世界のマスコミに暴露されるにいたって、米国の「イラク戦争の大義」は完全に色あせた。

 イラクに参戦した有志連合のなかにはスペインをはじめ、ホンジュラス、ドミニカ共和国、ニカラグア、シンガポール、ノルウエーが撤退を決定した。さらに、ブルガリア、タイ、フィリピン、ニュージーランド、ポーランド、エルサルバドルなどが撤退を検討中である。その結果、イラク駐留を決めている国は、米国、英国、イタリア、オランダ、ウクライナ、オーストラリア、韓国、日本の8カ国である。しかも、この中には、英国やイタリアのように断固としてイラク駐留を主張する首相の政治的生命が危うくなっている国もある。これが有志連合の現状である。

 米国に残されて唯一の道は、国連を引き込み、イラク戦争を国際化することだった。そのために、国連に働きかけ、6月8日、安保理で1546号決議が採択された。

 決議では、米英共同軍が多国籍軍にとって代わることになった。多国籍軍に参加する軍隊は統一した指揮の下に置かれる。その任務は、治安維持、人道復興支援、国連イラク支援団(UNAMI)の保護の3点である。

 小泉首相は、この安保理決議が提案されると同時に、はやばやと多国籍軍への参加を表明した。それは多国籍軍の任務の中に人道復興支援が含まれるからというのであった。しかし、多国籍軍の任務として挙げられている3点は、それぞれ孤立したものではなく、切り離すことはできない。そして、多国籍軍は、統一した指揮下(当然これは米軍)に置かれる。したがって、日本の自衛隊は、人道援助だといって浄水活動ばかりしてはいられない。当然統一司令部から戦闘の要請がくる。軍隊はそれを拒否できるのか。

 米国は、仏独に対してどんなに譲歩しても、国連安保理1546号決議さえ通してしまえば、米英共同軍を多国籍軍に肩代わりさせればよいと考えている。しかし、この決議の最大の問題点は、主権を委譲される暫定政府が、イラク人に受け入れられるかどうかにかかっている。それは、当然のことながら、これまでの反米抵抗闘争が沈静化し、イラクが安定化するのが前提である。残念ながら、安保理決議以後のイラクからのニュースを見ても、そのようには決して動いていない。

日本は、このままでは先進国の中で米軍と運命をともにする唯一の国となるであろう。自衛隊はイラク人の抵抗闘争の標的となって、犬死することになろう。