コラム  
「イラク派兵を許すな」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」04年1月19日掲載


 先遣隊とはいえ、ついに陸上自衛隊がイラクに派兵された。
まず第1に、今日のイラクはどのような状況にあるのだろうか。イラクのほとんど全土がゲリラ戦争の様相を呈している。毎日のようにゲリラ攻撃のニュースが流れているが、私にはフセイン派の残党やアルカイダだけの仕業だとは、とうてい思えない。もしフセイン残党や外国のテロリストだとすると、彼らはすべてのイラク人の支持を受けていることになる。それも大変なことだ。  

 日本のマスコミは依然としてフセインの残党による「テロ攻撃」と報じているが、欧米のマスコミは外国の占領に対する「ゲリラ攻撃」に言い換えている。フセイン派も反フセイン派もともに戦っているからだ。これをベトナム戦争になぞらえる人もいるが、むしろ私はナチの占領下のフランスのレジスタンス運動に似ていると思う。

 ここで、自衛隊が「復興支援に来ました」とか「人道支援です」と言っても、イラク人には聞き入れられないだろう。米占領軍と同一に見なされて、ゲリラのターゲットになることは間違いない。イラク人から民族的レジスタンスを受けている米軍に自衛隊は物資空輸など支援することになる。つまり侵略戦争に加担するのである。したがって、これは明白な憲法違反である。

 第2に、ブッシュ大統領の言うイラク戦争の2つの大義について考えて見よう。それは、イラクが大量殺戮兵器を所有していることと、アルカイダとの関係という2つの理由づけがなされた。イラク戦争を支持した小泉首相も、同じことを繰り返した。

 しかし、さる1月9日付けの『ニューヨークタイムズ』紙は、「イラクの大量兵器の調査を担当していた米軍部隊400人がひそかに撤退した」ことを報じた。その翌日、パウエル米国務長官が国連で演説し、その中で「フセイン元大統領とアルカイダとの関係はなかった」と語った。
これは、ブッシュ政権自らが、イラク戦争の大義を否定したことになる。
第3に、イラク戦争を国連との関連で見てみよう。

 安保理15カ国の中で、米国を支持したのは常任理事国ではイギリス1国、非常任理事国ではブルガリアとスペインの2カ国のみであった。反対した非常任理事国の中には米国の隣国カナダとメキシコがいた。カナダとメキシコは米国と北米自由貿易協定を結んでおり、米国との関係は日本などとは比べようもなく深い。したがって、この2国の反対は、政治的に重要な意味を持っている。米国は、安保理の決議採決に必要な9カ国の賛成が得られなかった。

  冷戦後、米国は唯一の超大国となり、国連安保理を仕切ってきた。しかし、国際社会は米国のイラク攻撃には「大義がない」として採決を拒んだのであった。このような事態は安保理始まって以来の出来事であった。

イラク戦争は国際法違反であった。