コラム  
「石油の輸入国を多角化せよ」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」04年8月2日掲載


 今年はじめ、アフリカのアンゴラに新たな大油田が発見されたことが外電で報じられた。
アンゴラは、同じく大西洋沿いのガボン、中央アフリカのチャド、それにすでに大産油国であるナイジェリアを合わせると、将来、中東の湾岸に匹敵する有望な産油地域になることが予想される。
 アンゴラは、1975年にポルトガル植民地から独立して以来、内戦が続いていた。そしてやっと最近反政府勢力のリーダーが死亡して、和平が成立したばかりである。長期にわたる内戦のために、ダイアモンドや石油などの豊富な地下資源に恵まれながら、政府は膨大な対外債務を抱え、国内経済は破綻に近い状況にある。

 新油田の発見のニュースとともに、いち早く米国の石油会社がアンゴラ油田の開発に乗り出した。米国にとって、アンゴラは中東よりも地の利がよい。大西洋を渡ればペルシア湾岸よりも短く、かつ安全なルートで米国東部の工業地帯に石油を運ぶことができる。ブッシュ政権も活発な対アンゴラ外交を開始した。

 この米国の動きを見て、ヨーロッパ勢も負けじとばかり、アンゴラ政府に接近しはじめた。なかでもドイツはとくに活発に動いた。ドイツ政府は、アンゴラの債務を帳消しにしたり、ODAを供与するなど、アンゴラ援助に乗り出した。これはすべてアンゴラの石油資源の確保を意図したものであった。ヨーロッパは、エネルギーの確保のためには、あらゆる外交的努力を惜しまない。
 一方、日本では、このアンゴラ新油田の発見のニュースは全く報道されなかった。日本にとっては、アンゴラからの石油と、湾岸から運んでくるものとほとんど距離に差はないし、しかもルートはより安全だ。しかし、政府も石油会社もアンゴラに対して何らかの働きかけもしなかった。

 日本は石油を100%海外からの輸入に依存している。しかも、中東からの輸入が90%に達している。紛争の絶えない中東にこのように極度に依存することが日本の安全保障にとってどんなに危険であるかということは、古くから言われてきたことであった。

 1974年、石油危機が発生した時、巨大タンカーが狭いホルムズ海峡にひしめいていることの危険性を指摘された。そこで、インドネシア、中国などアジアからの石油輸入を増やし、中東依存率は80%にまで下がった。しかし、危機が終わるにつれて、また元に戻ってしまった。

 最近、原油価格が高騰している。ということは供給が逼迫しているということである。その理由は、米国のイラク戦争と中国の石油消費の急増にあると言われる。他の先進国に比べてエネルギー源を極端に海外からの石油に依存している日本は、輸入国を多角化することが急務の筈である。しかし、財界、官僚、政治家ともにこのことにあまりいも鈍感すぎるのではないか。