コラム  
「イラク反戦デモ」
 
『神奈川新聞』「辛口時評」03年1月27日掲載 

                
 本日1月27日は、国連イラク査察団が安保理に報告書を提出する期限日である。どうやら、ブッシュ大統領は、この日をもって安保理の再決議なしに、いつでもイラク攻撃できると考えているようだ。イラク情勢は一段と緊迫感を増した。

 ブッシュ大統領は、昨年1月の『年頭教書』でイラクを「悪の枢軸」の筆頭に名指した時をもって、事実上の「戦争宣言」にしようとした。ところが、ブッシュ氏の誤算は、米議会の民主党の抵抗と、ヨーロッパの首脳たちの非協力を予想していなかったことだった。したがって、国連安保理での決議採択とイラクへの国連の査察団派遣という余計な“儀式”を経ざるをえなくなり、1年経っても実際の戦争を起こせないでいる。

 そうこうするうちに、米国内のイラク反戦運動が盛りあがってきた。
 たしかに米国の世論は、9.11直後には反テロ一色に塗りつぶされた。しかし、鳴りを潜めていた反戦派は、1年後には見事に復活した。昨年10月26日、ブッシュのイラク戦争に反対する大規模なデモが全米各地で行われた。これを組織したのは、「戦争と人種差別をストップするために今行動しよう」連合であった。これは、長い名称の頭文字を並べた「A.N.S.W.E.R.(答えるの意味)」で知られる。この日、首都ワシントンに20万人が集まった。サンフランシスコでは10万人、その他の都市では数千人が参加し、全米で50万人を超えた。ベトナム戦争以来、最大規模の反戦デモとなった。 

 そして、今年1月18日土曜日、再びワシントンで、前回を上回る規模のイラク反戦デモが再現した。デモを呼びかけたA.N.S.W.E.R.の発表では、50万人という記録的な数だった。デモは全米各地に広がり、サンフランシスコでも20万人が参加した。

 これはヨーロッパ、中東、アジアの各都市で同時一斉のグローバルなデモであった。日本でも、東京の日比谷公園に7千人が集まり、デモをした。そして、この神奈川でも、1日遅れた日曜日、相模原と横須賀で「イラク反戦デモ」が行われた。

 イラク反戦派は、さらにピッチを上げている。ヨーロッパの呼びかけで、来る2月15日、全世界同時一斉の1000万人デモを企画している。

 私のところに送られてきたA.N.S.W.E.R.の「行動計画」では、「イラクをめぐる戦争の危機は刻一刻と高まっている。我々は時間と競争している」と書いてあった。だが、本当に時間と戦わねばならないのは、ブッシュ大統領の方だろう。そして、1月20日付けの『ニューヨーク・タイムズ』紙が社説で書いているように、反戦運動の高まりに脅威を感じたブッシュ大統領が、対抗措置としてイラク攻撃に踏み切れば、米国社会に修復不可能な亀裂をもたらすだろう。それは、米国が世界で孤立して行くことのはじまりであろう。