2001年6日12日 長崎県教育委員会 教科書採択に関する質問ならびに要請書 2002年度から使用される検定に合格した教科書のなかに、「新しい歴史教科書をつくる会」が企画・執筆した扶桑社の中学校社会科歴史・公民分野の教科書が含まれています。「新しい歴史教科書をつくる会」は、上記の教科書について10パーセントの採択を目指すと宣言し、さまざまな活動を行っています。 質問事項については、 6月19日までにお答え下さるよう、お願いいたします。 【質問事項】 1.教科書採択方法の変更に当たって、長崎県教育委員会は各市町村教育委員会にどのような指導を行ったのでしょうか。 2.教科書採択手続きの変更に関わる規則などの変更について、その内容を明らかにしてください。 3.行政解釈によれば教科書の採択権は、「地方教育行政の組織および運営に関する法律」第23条6号および「教科書の発行に関する臨時措置法」第7条第1項を理由に、教育委員会にあるとされています。「新しい歴史教科書をつくる会」は、その解釈を援用し、教科書の採択から現場の教師を排除することを求めています。しかし、「地教行法」の当該規定には教科書の取り扱いに関する教育委員会の「事務」が定められ、また「臨時措置法」には教科書需要数の報告義務が定められているのみであり、これらを根拠に「教育委員会の教科書採択権」を主張することには、明確な法的根拠はないというのが、教育法学における通説です。教科書の選定は、各学校の教育課程編成および教師の授業内容編成に深く関わる事柄です。教育条理から考えて、教材である教科書の選定権は、教育の内的事項として、現場の教職員の意見がとりいれられるべきであり、教師の教育権に属すると解するのが妥当です。したがって、「新しい歴史教科書をつくる会」の、教育委員がすべての教科のすべての教科書の採択を決定すべきだという主張は、教育の条理を理解しない一方的な見解であると考えられます。「現場の教師には教科書を選ぶ権限がない」と断定している「新しい歴史教科書をつくる会」の主張についての、長崎県教育委員会の見解と根拠を示してください。 4.教科書の採択に当たって、各学校の一人ひとりの教員の意見を反映させる仕組みは、現在どうなっているのでしょうか。あるとすれば、どのような仕組みになっているのでしょうか。また、学校単位の採択制度に移行していく考えはあるのでしょうか。 5.保護者、地域住民の意見を反映させる仕組みはあるのでしょうか。あるとすればどうなっているのでしょうか。今年から、教科書採択に保護者の代表が加えられた地区があると聞きますが、教科書の採択に関わる委員の人選について、公正が保たれているかどうか、チェックする機能は、用意されているのでしょうか。また展示された教科書をみて、市民が意見を言う機会や仕組みがあるのでしょうか。 6.「新しい歴史教科書をつくる会」は、関係者が執筆した『国民の歴史』『国民の油断』などの書籍を、各地の教育委員や学校・教師などに大量に無料送付しています。教科書採択の公正確保に関する重大な問題だと思われますが、長崎県においても、そのようなことがあったのでしょうか。その実態を調査して公表してください。 7.私立学校の教科書採択について、今年度から教科書採択の理由について、「いつ尋ねられても明確に答えられるように文章化するように」と指示があったということですが、それはどのような理由によるものですか。長崎県教育委員会の意図を明らかにしてください。 【要請事項】 1.長崎県において、扶桑社の中学校歴史教科書・公民教科書が採択されないようにしてください。理 由 1)学校教育は、日本国憲法・教育基本法の趣旨に基づいて行われるべきことが、定められています。それにもかかわらず、扶桑社の歴史教科書・公民教科書は、大日本帝国憲法や教育勅語を賛美し、戦争を美化しているなど、ともに主権在民・平和主義・民主主義をうたう日本国憲法および教育基本法の精神を否定する内容であること。 2)歴史教科書については、検定通過後において近現代史部分だけでも51カ所もの誤りや問題点が、近現代史の専門家によって指摘されていること。また、他の部分についても、独善的民族主義の主張のために都合の良い学説だけを取りだす、あるいは通説を無視する、感情に訴えるような表現が多用されるなど、バランスを欠いた恣意的記述が目に付きます。したがって、子どもたちに史実を伝えるべき歴史の教材としてきわめて不適切であること。3)扶桑社の歴史教科書の記述は、韓国や中国を中心とした諸外国から批判され、記述の変更を求められています。このことは「新しい歴史教科書をつくる会」関係者の独善的民族主義による歴史的事実の隠蔽に対して向けられているものでしょう。「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情」など学習指導要領の断片のみを基準とした独善的な歴史観で記述された教科書で子どもたちが学ぶことは、日本を国際的な孤立にみちびくことになります。国際・外交問題に発展しているほどの大きな問題のある教科書によって、教育が行われるべきではありません。長崎県は、地理的・歴史的にも、韓国・中国と密接な関係を持っています。たとえば、対馬は朝鮮半島との歴史的な交流関係がありますし、現在も韓国との交流促進が図られています。また、長崎県長期総合計画においては中国・韓国・オランダとの交流の推進がうたわれていますし、現在、長崎県は福建省、長崎市は福州市との友好を進めています。さらには、多くの修学旅行生が韓国や中国を訪れ、韓国・中国からの観光客もあります。このような状況にある長崎において、扶桑社の教科書を採択することは、韓国・中国両国との国際理解・友好の障壁になるであろうと考えられます。また、長崎県は核兵器の廃絶・平和の希求を世界へ発信していく立場にあるはずです。扶桑社の教科書は、国際的な潮流に反する戦争肯定論に貫かれた内容ですから、長崎県においてこのような教科書が採択されることを認めることはできません。 4)中学生の発達段階を考えると価値観・世界観の形成の途上にあり、豊かな人間性を身につけるべき時です。その発達課題に対して、扶桑社の教科書は不適切であると考えられます。扶桑社の教科書の執筆者ほか関係者は、歴史教科書における「慰安婦」記述の削除を求める運動を展開していました。その際、「慰安婦」問題が自虐史観の典型であり、さらに中学生の発達段階にそぐわないなどということを理由としています。しかし、このことは歴史的事実の隠蔽・不当な女性蔑視の表れに他なりません。扶桑社の教科書は、女性の位置づけが低い家族国家観・家父長制の思想に貫かれた記述の教科書であり、男女共同参画社会の推進という現在の流れとは相容れないものです。これを中学生に教え込むことこそ、中学生の発達段階を理解しない主張であり問題であると思われます。 2.採択に当たっては、学校の教職員の意見が尊重されることを保障してください。特に一人ひとりの教職員が勤務時間内に教科書についての調査研究を十分にできるよう、時間や場所その他の条件整備を行ってください。 理 由 子どもの実態や学校・地域の実態にあった教科書を選ぶには、現場教職員の調査研究とその結果を反映させることは、欠かすことができません。1966年に日本も賛成して採択されたユネスコ・ILOの「教員の地位に関する勧告」61項も教員は「教科書の採択並びに教育方法の適用にあたって、不可欠の役割を与えられるものとする」としています。また、1997年3月28日の閣議決定は、将来的には学校単位の採択の実現を検討する観点から「教科書採択の調査研究により多くの教員の意向が反映されるよう」都道府県の取り組みを促しています。今こそその決定を遵守すべきです。3.保護者・地域住民の意見が尊重され、教科書研究が十分に行えるよう、見本本の展示期間の延長、展示場所の増設、意見を聞くための制度の保障を行ってください。また、教科書採択に関わる委員の保護者・地域住民への委嘱については、人選の公正を期し、透明化を図ってください。 4.教科書採択の制度や教科書採択の経過についての全面的な情報公開を行ってください。特に、採択方法の変更や規則の変更などについては、教科書採択の終了後ではなく、早急に情報公開を行ってください。 5.上の要請について、教科書採択の事務に関わる人々に必ず周知してください。
賛同者・賛同団体一覧 <個人> (大学関係者) 113名 |
トップページへもどる