原子力ロビーによる放射線被曝の押付けを拒否しよう!
その11   2019年3月28日
Ivanov氏とYamashita氏による甲状腺がん検査のスクリーニング効果の偽り
〜杉原千文「ロシアから発信される甲状腺がんの国際的な評価」(岩波科学3月号)から〜
 旧ソ連地域の国際ジャーナリスト杉原千文さんが岩波科学3月号の「科学通信」に書いた「ロシアから発信される甲状腺がんの国際的な評価」に驚かされた。国際原子力ロビーが怪しげな論文で「過剰な治療を招くから甲状腺検査はしないほうがよい」という評価を世界に与えようとしているのだ。
 S.Yamashita(山下俊一)氏とV.Ivanov氏(ロシア放射線号簿科学委員会委員長)他がロシアの学術誌『放射線とリスク』誌25巻2号(2016年)に論文「甲状腺がん:チェルノブイリの教訓とその教訓の福島における状況への適用」を掲載した。査読付きの論文ではあるが、15ページのその論文には次の矛盾がある。

<ロシアのチェルノブイリ被災地で1991〜2013年までに生じたのと同等のスクリーニング効果が、福島県で事故直後の2011年〜2013年に行われた一巡目検査でも生じる、という推測だ。>
<なぜ、チェルノブイリ被災地で事故6年後以降に生じたとされるスクリーニング効果係数を、事故直後1〜3年間(著者たちの主張では5年の潜伏期間中であるはず)の福島県における検査データに当てはめるのか。ここにそもそも方法論上の矛盾がある。>
<この論文が扱っている日本側データの信憑性にも疑問符がつく。…110件という甲状腺がん件数を示した。福島県県民健康調査検討委員会が発表した「中間取りまとめ」では甲状腺癌の「悪性および悪性疑い」は「113件」と示されているのに、論文執筆時点での最新(2か月前)の日本データにアクセスしていない。>
<無理な推計をしてでも「スクリーニング効果」の具体的数字を示そうとする、強い目的意識が見える。>
<なぜ山下氏はロシア語で、ロシアの学術誌に発表するのか。
そもそもこのロシア語論文の発表は、日本国内へのアピールのためではないのだ。国際的な専門家コミュニティのなかで、一定の福島評価を根づかせるためのものであると考えたほうがいい。>
<日本人の目の届かないところで福島第一原発事故の影響についての評価は決められていく。…、そして、国外で決められた評価は、日本で開催される国際専門家会議などを通じて、逆輸入されることになる。>
<すでに、チェルノブイリ被災国の専門家が「福島で見つかった甲状腺がんは過剰診断の結果」とする説を、自国で広める動きがある。>
<このように「過剰な治療(手術など)を招くから甲状腺検査はしないほうがよい」という評価が、チェルノブイリ被災国の専門家の間で、浸透しつつある。>

 なお、ビクトル・イワノフ氏はメッセージ「福島県民の皆さまへ」(仮訳:山下俊一、2014年1月14日、首相官邸https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g59.html)で「(1)放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。……」と決めつけている。
 科学をまとい安倍政権と結託する国際原子力ロビーに騙されてはいけない。