サンプル・レジュメ1

(作成者)清水雅彦・和光大学
(使用箇所)2002年5月3日の「2002憲法を考える5.3集会」(横浜)
(講演対象)一般向け
(講演内容)「アフガン戦争」・有事法制・改憲論とかなり広範囲
(注意事項)当日のレジュメを若干修正。なお当日は別紙資料あり。



平和憲法の現状と可能性〜「アフガン戦争」・有事法制・改憲論から考える

一 憲法の平和主義の現実はどうだったのか?
1 9条の空洞史
1950 マッカーサーの指令で警察予備隊創設←1949中国設立、50朝鮮戦争
1951 サンフランシスコ平和条約・日米安保条約調印
1952 保安隊発足←条約発効
1954 自衛隊発足
1960 日米安保条約改定
1978 日米防衛協力のための指針(ガイドライン)合意
    1991 自衛隊の海外派兵(掃海艇)←「湾岸戦争」
1992 「PKO法」成立、自衛隊カンボジア派兵
1997 新ガイドライン合意
1999 新ガイドライン実施法(周辺事態措置法など)成立
2001 「テロ対策特措法」成立・自衛隊派兵←アメリカの「報復戦争」

 2 「アフガン戦争」はどこが問題なのか?
  @ 国連憲章違反が問題(51条の自衛権、86年の国際司法裁判所判決)
・武力攻撃の要件…現に攻撃を受け、受けつつある
・暫定性の要件 …安保理が必要な措置をとるまでの間に限って
・均衡性の要件 …自衛措置は必要範囲内で(先制・予防、報復は不可)

  A 安保理決議違反が問題(1368号、2001.9.12)
・あらゆる必要な手段をとるとするが、加盟国への授権ではない

  B 国連総会決議違反が問題(1970年の2625号、友好関係原則宣言)
・武力行使を伴う復仇行為を慎む義務があるとし、アメリカも賛成した

  C では9.11事件をどう解決すべきなのか?
・原則・国内犯罪であるから国内裁判で(88年のリビアによる米機爆破テロ)
・特例・国際犯罪として国際法廷で(国連決議による旧ユーゴ戦犯法廷)
・そもそもなぜアメリカが攻撃されるのかを考え、原因を除去すべき
・日本はアメリカを批判し、仲介役につとめ、構造的暴力の解消を

二 有事法制論はどう展開してきたのか、その問題点は?
1 戦後の有事法制論の展開
  @ 60・70年代の有事法制研究
・三矢研究(63年作成、65年暴露)…幹部自衛官による朝鮮有事研究
・防衛庁の有事法制研究(77年〜)…第一分類(81)、第二分類(84)中間報告

  A 80年代の安全保障会議の設置
・(経緯)78年以降の総合安全保障戦略→86年安全保障会議設置法制定
    ・(内容)国防会議の継承と新たに重大緊急事態への対処
    ・(構成)総理、外相、防衛庁長官、経企庁長官、官房長官、公安委員長
・(問題点)国家安全保障会議、内閣の中の内閣、大統領的首相を目指す

B 90年代の国民総動員体制作りの展開
    ・湾岸戦争(91.1)…安保会議は湾岸危機対策本部設置、自治体に協力要請
    ・PKO法成立(92.6)…26条で国以外の者への協力要求、10月JALで本隊輸送
・内閣の機能強化…86年の内閣官房に内閣安全保障室、98年に内閣安全保障・
     危機管理室、99年に内閣府の安全確保任務と警察庁・防衛庁外局に
  ・周辺事態措置法成立(99.5)…9条で国以外の者への協力要求
    ・地方分権一括法成立(99.7)…地方自治法改定で自治事務・法定受託事務の統制
     規定、駐留軍用地特措法改定で代理署名を国の直接執行事務に

2 今回の有事3法案の問題点は?
@ 法案の構成
・「武力攻撃事態法」案…戦争遂行手続、国民動員規定
    ・安全保障会議設置法改定案…事態対処専門委員会の設置、構成員の変更
・自衛隊法改定案…徴用・徴発規定、陣地構築、武器使用緩和、特例措置

  A あいまいな概念が問題(2条)
・武力攻撃事態、おそれのある事態、予測されるに至った事態に対処
→アメリカの朝鮮攻撃や「周辺事態」など勝手に始めた戦争に国民動員

  B 国会軽視と内閣機能強化が問題(9条)
・安保会議答申、事態の認定、対処基本方針の閣議決定、対策本部の実施
・決定後「直ちに」国会承認を求め、不承認の場合は「速やかに」解除
→首相が認定から実施までを行い国会関与は不十分、大統領的首相へ

  C 自治体・指定公共機関・国民動員規定が問題
・自治体…必要な措置を実施する責務と国との役割分担(5条・7条)
         首相に指示権、直接執行権(15条)
    →憲法上の対等関係から主従関係に変え、戦争遂行の下請け機関へ
・指定公共機関…医療(日赤)、マスコミ(NHK)、道路(日本道路公団他)、鉄
            道(JR)、空港(成田、関空)、輸送(日通)、通信(NTT他)、
            電力(東電他)、ガス(東京ガス他)などの指定公共機関の
            必要な措置を実施する責務(6条)、直接執行権(15条)
→「公共性」の名の下、当該労働者を戦争に動員し、国民生活に影響
  ・国民…必要な協力規定(8条)、自衛隊による土地・家屋・物資の使用、物
        資の保管命令と罰則規定、業務従事命令(自衛隊法改定)
→有事に際して自衛隊だけが活動するのではなく、一般国民をも動員へ

3 有事立法成立は憲法にどう影響するか?〜戦前、各国との比較から
@ 憲法の人権規定の制約・無視へ
・個人の尊重(13条)と法の下の平等(14条)…有事には軍事優先
・奴隷的拘束・苦役からの自由(18条)…憲法は徴用・徴兵制を認めない
・信教の自由・政教分離(20条)…戦前の神道の実質国教化、靖国公式参拝
・表現の自由・知る権利(21条)…9.11後の米国の表現規制、防衛秘密規定
・学問の自由(23条)…戦前の学徒出陣・徴兵制、学問弾圧・戦争協力
・生存権(25条)…最大の環境破壊である戦争の否定、有事には福祉削減
・教育を受ける権利(26条)…戦前の軍国主義教育の反省と教育基本法
・勤労の権利(27条)…戦前の勤労の義務・徴用、00.9の奉仕活動の義務化
・財産権の保障(29条)…憲法は戦争=公共を認めない、有事には徴発
・人身の自由(31〜40条)…戦前の特高警察を反省して憲法の手厚い規定

  A 憲法の統治規定規定の制約・無視へ
・唯一の立法機関としての国会(41条)…戦前は天皇の緊急命令・独立命令
・議員の不逮捕特権(50条)…軍事・独裁国家における野党への政治的弾圧
・議員の免責特権(51条)…戦前は議員の軍拡・戦争批判が許されず
・国会・内閣(4,5章)…憲法に非常時の国会規制・内閣の機能強化規定なし
・首相と大臣の文民規定(66条)…戦前の軍人内閣を否定しシビリアンコントロール
・特別裁判所設置の禁止(76条)…戦前の軍法会議を否認し司法裁判所のみ
・司法の独立(76条)…暴力など他者の干渉による裁判の禁止
・憲法の最高法規性、違憲立法審査権(98,81条)…多数決万能主義の否定
・地方自治の保障(8章)…戦争遂行適合国家体制の否定と独自活動の保障
・憲法尊重擁護義務(99条)…公権力の担い手・公務員に対する縛り

三 一連の日米の戦略の背景は?
1 アメリカの狙い
@ アメリカの主要な2つの敵
・「社会主義」(東)←NATOや日米安保体制で対処
・民族主義(南) …軍事同盟と経済援助、多国籍企業の進出により安い資源、
              労働力、商品市場獲得(新植民地主義)
←民族運動にはLIC(Low Intensity Conflict)戦略で
・東西冷戦対立から地域紛争介入・テロ抑止戦略へ

A アメリカの世界支配の主要な2つの手段
・核兵器…核不拡散条約、国際原子力機関体制、ABM制限条約離脱など
・石油 …メジャーズとOPECの協調体制、一方で石油国有化のリビア・イラク・イラン

 2 日本の狙い
@ 日本の資本の展開と役割の変化
・70年代以降の日本企業による海外直接投資の急増
 80年代以降の国内生産から海外生産へのシフト転換、多国籍化
→進出先国の政治的経済的安定必要に
・米の経済力低下(財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」)
→「経済大国責任論」「国際責任論」さらに90年代以降「国際貢献論」へ

A そのような中での日本の戦略
・軍事、政治、経済、社会、文化の全てに渡る総合安全保障論の登場
 (平時)ODAによる日本資本の活動円滑化のための相手国の条件整備
 (有事)進出先の邦人救出、市場の防衛・開拓
  ・アジア諸国の反発、自衛隊の装備・海外拠点の不足・欠如
 →米国の後方に回り権益保護・獲得…新ガイドライン、「アフガン戦争」
     →日本独自に権益保護・獲得   …PKO派兵、邦人救出

四 昨今の改憲論をどう考えるか
1 改憲論のタイプと狙い
@ 復古的改憲論(従来の自民党)
・天皇元首化
・個人の尊重より国家重視、伝統的価値の重視
・9条改定により戦争のできる国家へ

  A 新自由主義的改憲論(自民党の改革派、基本的に自由党、民主党の主流派)
・天皇制にはこだわらない
・自由化による企業の競争の激化、個人の自立の要求、司法による救済
・一方で弱者切り捨て、治安強化(公安調査庁、盗聴法、住基法改定等)
・9条改定により「普通の国」(軍隊の保持と国際貢献)に

2 今後予想される展開
・解釈改憲 …集団的自衛権の承認、国際的軍事活動・国連軍への参加
・立法改憲 …有事法制の整備、安全保障基本法の制定
・憲法改定1…首相公選制導入・新しい権利規定で国民を改憲に慣らす
・憲法改定2…解釈改憲が限界にきたので、最低限9条を変える
・憲法改定3…新しい国家作りのための全面改定

五 おわりに〜米軍への戦争協力・有事法制・改憲論の前に考えるべきこと
1 憲法論として考えること
@ 9条に関して
・戦争違法化の歴史…自衛戦争を容認する国連憲章の先を行く平和憲法
    ・積極的平和主義…単に戦争のない状態でなく構造的暴力の解消を目指す
→「普通の国」論のレベル・ダウンではなく、9条理念の再評価と実現

A 全体に関して
・新しい権利規定…これらは解釈・判例で実現可能
・憲法裁判所設置…求められるのは司法積極主義(違憲判決積極主義)
・その他の規定 …今、早急に改定する必要性のないものは急ぐ必要ない
→まずは徹底的な憲法理念実現の努力が必要

2 運動論として考えること
@ 平和勢力に対して
・総評の労資対決路線から連合の労使協調路線へ、組織率の低さ
・理論・感情先行による分裂と細分化の歴史、個別の反対運動
→大同団結の運動、総合的な対案提示型運動、政権獲得を目指す運動へ

A 国民全体に対して
・18世紀の市民革命や20世紀の労働運動・社会主義運動など「権利のため
     の闘争」で、民衆が歴史を創り、憲法や権利を勝ち取ってきた
→そもそも近代以降の憲法は国民が権力者に「押しつけ」たもの
歴史の、そして社会の主人公である主権者国民の責任が今問われている
→戦争巻き込まれは嫌だではなく、「殴る側・共犯者」にならない運動へ