『週刊鉄亀』2000年8月7日号

●7月31日(月)
 終日、雑務。暑さに耐えきれず、駅前のサブウェイ(サンドイッチ屋)に避難。サンドイッチをかじりながら資料の読み込み。何度も来ているので、店長とはすっかり知り合いである。
 上山明博著『プロパテント・ウォーズ』(文春新書)を読み終える。アメリカから世界に広がったプロパテント(特許重視)政策の歴史的経緯と問題点をおおざっぱに理解するには手ごろな本である。この著者も、遺伝子特許については問題視しているようだ。

●8月1日(火)
 毎月1日は、千葉県内の映画館では映画を1000円で見られるので、妙典の映画館で『パーフェクト・ストーム』を見る。映画そのものはたいして面白くもなく、グロスターという港町のカジキ漁の漁師たちが危険だとされている海域に挑み、その帰りに大きな嵐に巻き込まれ、果敢にそれと戦うというストーリー。舞台は1991年で、実話に基づいているらしい。グロスターではこれまでに1万人もの漁師が嵐で遭難しているという。この映画によると、漁師たちの生活は決して豊かなものではないのだが、それならせめて、「日本人にカジキを喰わせるために、オレたちの仲間は嵐で死んでいった」とか、そういう類のセリフを滑り込ませることはできなかったのか。ただ大自然に右往左往される人間たちを描いても、映画としての新しさはもはやほとんどないぞ。
 夜、新宿方面に移動し、女性中心の某グループの勉強会で、ヒトゲノム解析研究とその規制についてレクチャー。人にレクチャーするからには自分でも情報を整理する必要があり、非常に勉強になった。終了後、近くの中華料理店で食事。変わった店で、メニューというものはなく、基本的にはお任せ。料理自体も、いわゆる中華料理とは違うメニューであったが、すごくうまかった。また来よう。
 帰宅すると、なんと、母校・河合塾から講演依頼のファクスが届いていた。もちろん断る理由はない。
 
●8月2日(水)
 午後、都内某国立大学で研究者を取材。内容は「外来生物」である。なんせT社の編集者Sさんが……。
  終了後、新宿に移動。紀伊国屋書店で『図書新聞』8月5日号を買う。同紙恒例の「上半期読書アンケート」が載っていた。各分野の論客が、上半期に出版された本のベスト3をそれぞれ挙げる企画である。僕の知り合いでは、天笠啓祐氏、小松美彦氏がアンケートに答えていた。後述する『負けた戦争の記憶』を取り上げていた回答者がいなかったのがちょっと不思議。何人かが金森修著『サイエンス・ウォーズ』(東京大学出版会)を取り上げていたのが目についた。いわゆる「ソーカル事件」を取り上げた論文などを収録したもので、僕もずっと気になっていた本なのだが、哲学・思想コーナーで値段を確かめてみると3800円でびっくり。最近は新書ばかり読んでいるので、非常に高価だと感じる。でも、近いうちに買うことになるだろう。それはともかく、早く僕も『図書新聞』や『週刊読書人』から読書アンケートを依頼されるようになりたいものである。われながら地味な希望だな(苦笑)。
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 というわけで、今年上半期に出版されて、僕が読んだ本のなかでのベスト3を勝手に挙げさせてもらう(順不同)。
・生井英考著『負けた戦争の記憶』(三省堂)
 アメリカ人がベトナム戦争のことを「負けた戦争(lost war)」と認められるようになったのはごく最近のことだという。前著『ジャングルクルーズにうってつけの日』(三省堂)の続編的な内容で、この戦争がアメリカ人の精神にどのような影響を与えたのか、とくに戦争終了後約30年間でどのような変化が生じたのかが、ていねいに分析されている。
・市野川容孝著『身体/生命』(岩波書店)
 新進気鋭の社会学者が、ミシェル・フーコーの著作に出てくる「生-権力」という概念を下敷きに、「身体」や「生命」というものがどのように見られ、考えられてきて、さままざまな社会的事象とどのように関係してきたのかを歴史的な視点で読み解いた意欲作。哲学や社会学の術語が頻発し、そのうえ横書きでたいへん読みにくい本ではあるが、教えられることは多かった。なおこの著者は最近、米本昌平らと共著で『優生学と人間社会』(講談社現代新書)という本を出した。
・『思想』2000年2月号「特集 生命圏の政治学」
 単行本ではなくて恐縮だが、上記の市野川ほか、立岩真也、小松美彦、金森修、柘植あづみらが、「生命」をめぐるさまざまな事象を、社会学や科学史などそれぞれの立場から分析した諸論文を収録。いずれも力作。やはりキーワードは「自己決定権」か?
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 夜、そのまま新宿で、歌舞伎町のイベントスペース、ロフトプラスワンで、渋谷のユーロスペースで公開予定の『新しい神様』関係のイベントに参加。監督の土屋豊氏、主演の雨宮さんほか、『A』の森達也監督、社会学者の宮台真司などがゲスト。しかし、話があまり面白くなく、2階席で知り合い数人と聞いていたのだが、どうもダレてしまい、関係ない話ばかりしていた。せっかく映像関係のイベントなのだから、適当なところで映像を織りまぜながら進めればよかったのに。
 10時ごろに切り上げて帰宅。
 
●8月3日(木)
 あまりの暑さに、ふたたび駅前のサブウェイに避難。しばらく資料読みをしていると、今度は冷房がきつすぎ、寒くなってきて退散。マンガ喫茶で『カムイ外伝』ほかいくつかのマンガを読む。
 
●8月4日(金)
 この日の昼間の行動は極秘である。某厚生省系機関の子役人と粥川とが激しいバトルを繰り広げるという劇的な場面もあり、ほんとは書きたくて仕方がないのだが……。
 夜、神楽坂に移動し、知り合いの映像作家Kさんの事務所兼仕事場へ。某イベントの打ち合わせ。Kさんはここに引っ越したばかり。8畳ぐらいのキッチン兼居間、6畳の洋室、3畳ぐらいの洋室という間取りで家賃12万円とか。うーん、神楽坂という場所は魅力的だが、家賃を払っていく自信は僕にはとてもないな。

●8月5日(土)
 午前10時、千葉県の某大学の研究者を取材。テーマは例のごとく「外来生物」である。なんせT社の編集者Sさんが……。
 午後は自宅に戻って雑務。
 ビデオ屋で借りた『ファイトクラブ』を見る。前半、主人公がいくつものセルフヘルプグループにハマっていく様子は、なんともいえないオカしさがあってなかなかよい。しかし後半がちょっとダルい。
 
●8月6日(日)
 あまりの暑さに、近くのファミレスに資料を持ち込んで仕事。月曜日の取材のために資料を読み込む。おかわり自由のコーヒーを飲みすぎて気持ちが悪くなる。帰宅して写真の整理。いくつか依頼されている講演のために、スライドをつくらなくてはならないからだ。(つづく)

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