『週刊鉄亀』2000年8月14日号

●8月7日(月)
 暑さに耐えきれず自宅を出て、駅前のサブウェイ(サンドイッチ屋)で資料読み。
 日比谷図書館に行き、『週刊金曜日』の記事をコピーする。同誌で某科学評論家が書いた環境ホルモンと先天異常についての記事が、読者に厳しく批判されていると知り合いから聞いたからだ。件の記事が載った号と批判の投書が載った号をコピーする。記事には尿道下裂という生殖器の先天異常の写真が大きく掲載されており、文章もその存在を危機として煽り立てる内容になっている。つまり、この記事においては、尿道下裂という先天異常は環境汚染の指標でしかなく、「あってはならない存在」として描かれている。批判されて当然だと思った。批判の投書をしたのは、てんかん患者だという女性。「子どもを生むな」と言われ続けてきたという。批判したくなるのは無理はない。
 神保町に移動し、東京堂書店へ。1階で『週刊金曜日』最新号を買う。某科学評論家の反論が載っていたからだ。僕に言わせれば、まったく反論になっていないが。
 そういえば、大きな賞を取ったらしい、インドのドキュメンタリー映画でも、ある産業施設の周囲で多指症などの先天異常が多発している様子を描いているそうだが、これもまた上記の記事とまったく同じ告発方法である。確かタイトルは、『ブッダの嘆き』だったと思う(未確認)。ついでに思い出したが、湾岸戦争中に中東でばらまかれた「劣化ウラン弾」を批判するビデオ作品や雑誌記事でも、しきりと先天異常が強調されていた。こうした作品の作者らにとって恐ろしいのは、有害化学物質や放射能なのか、それとも先天異常児なのか!? ため息が出る。
 東京堂の2階で米本昌平、市野川容孝ほか著『優生学と人間社会』(講談社現代新書)を買う。
 東京堂を出て、引きつけられるように古書店街の明倫館へ。なんと先週号で書いた、金森修の新刊『サイエンス・ウォーズ』(東京大学出版会)が、もう古本として売られていた。3400円。定価より400円安い。その場の勢いで、Karl A. Drica, Double-Edged Sword. The Promises and Risks of the Genetic Revolution(両刃の剣 遺伝子革命の約束とリスク), Addison Wesley, 1994 と Troy Duster, Backdoor to Eugenics(優生学への裏口), Routledge, 1990 をいっしょに買う。3冊まとめてウン千円ナリ。本は、迷ったときが買いどきである。どんどん部屋が狭くなるが。
 外苑前に移動。雨と雷がひどい。
 外苑前にあるTOKYOなんとかクラブとかいう会員制のクラブにて、某医師を取材。金持ちの巣窟。落ち着かない。秘書がよくいえば仕事熱心、悪く言えばうるさい人で、顔写真もカメラマンが撮ったものを大きく使えと言ってくる。はっきり言ってうっとうしい。
 終了後、御茶の水に移動。出版フリーランサーの集まりに顔を出す。
 飲み会の後、地下鉄で帰ろうとしたら、なんと落雷で不通。それでもなんとか浦安までは行けたが、そこから先の電車はないと営団地下鉄はホザいていた。仕方なくタクシーで自宅へ。

●8月8日(火)
 午前中、雑務。
 午後、某NPOの会議に参加。
『サイエンス・ウォーズ』を読み始める。バツグンに面白い。この本で描かれている「サイエンズ・ウォーズ」あるいは「ソーカル事件」は、僕の職業や問題意識とも非常に深く関係することであるので、いつか自分の見解と合わせて紹介させてもらう。
 
●8月9日(水)
 突然、某科学技術情報誌の編集長から電話があり、「明日の午後2時、開いていますか?」と聞かれる。某メーカーのプラズマディスプレイについて取材してほしいという。快諾。
 
●8月10日(木)
 というわけで、神奈川の某メーカーを取材。しかし、慣れていない分野の取材なので、インタビューはほとんど編集者がやり、僕は記録係になってしまった。エレクトロニクスのことももっと勉強しなければ。このままでは「バイオ評論家」になってしまう。
 
●8月11日(金)
 この日の行動は極秘である。まだまだ語れる時期ではない……。

●8月12日(土)
 本八幡にある市川市中央図書館で資料探索。ノートパソコンを持ち込んで原稿書き。しかしパワーブックは重い。アップルは、軽量のノートパソコンをつくる気がないのだろうか? VAIO並みの軽量でマックOSが使えるノートパソコンが出れば、少々高価でもすぐに買うのだが……。

●8月13日(日)
 運動家の某氏からヒトゲノム解析研究への規制について、大学助教授の某氏から環境化学物質への規制について、問い合わせ。最近、こうした問い合わせが多い。人間関係のできている人にはていねいに対応し、無礼な問い合わせには返事を出さないことにしている。フリーライターの某氏から取材依頼。内容は「フリーライターの仕事について」。快諾。
 連れ合いと妙典に買い物行く。なんと「ヴィレッジ・ヴァンガード」を発見。名古屋発の、ちょっと変わった本屋&雑貨屋である。本に対する愛情もこだわりもなく新刊や雑誌を並べているだけの書店が多いなか、このチェーン店はほんとに頑張っていると思う。立ち読みだけで一時間近く過ごし、チャールズ・ブコウスキーの短編集『ありきたりの狂気の物語』(新潮文庫)や、いくつかの雑貨を買う。
 帰りに行徳のインドカレー屋で食事。
『サイエンス・ウォーズ』を読み終える。この本について語るには、もう少し時間が必要である。(つづく)
 


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