『週刊鉄亀』2000年6月19日号

粥川準二@ライターです。

このメールは私の友人・知人で、このようなくだらないものを送りつけても、笑って読んでくれそうな優しい人たちに送っています。実は、この夏にホームページ開設を考えており、日誌形式の週刊コラムを掲載しようかと思っています。原則として、毎週月曜日発行。そのテスト版をお送りします。『週刊鉄亀』は仮題(石井政之氏の『週刊石猿』 http://www.people.or.jp/~maria/ishii.htm のパクリ)で、タイトルはまだ未定(募集中!)です。ご感想などあればぜひ。

では。

6月某日(月)
 午前中、科学技術情報誌にメールで入稿。午後3時ごろ、九段下の同誌編集部に行き、記事のビジュアル素材を届ける。
 その足で、すぐ近くにある別の某社某誌編集部に行き、やはりビジュアル素材を届け、追加原稿の指示を受ける。
 夕方、小川町のPARC(アジア太平洋資料センター)で、ホームページ作成講座を受ける。講師は、JCA-NETのI氏。まずはタグの基本などを学ぶ。10数人いた受講生のなかでMACユーザーは僕一人だけ。I氏はウインドウズユーザーなので、使い方が若干異なり、若干手間取る。ホームページ公開に向けた第一歩である。

6月某日(火)
 午後、茨城県牛久にある生活クラブ生協茨城本部にて、遺伝子組み換え食品について講演する。聞いてくれたのは生活クラブ生協埼玉の人たちで、彼らはつくばの農水省の研究所を見学してきた後に、当地で僕と合流した。いつものようにスライド約70枚近くを使い、おおざっぱに問題点を説明する。話している最中、内容に偏りがあると気づいたので、次回からはスライドの中身を一部変えなくては。
 本が何冊か売れ、非常に助かる。帰りはほとんど座れず、疲労困憊。

6月某日(水)
 朝起きて、メールをチェックしてみると、T社編集者のSさんから原稿催促のメール。あせる。
 またもや茨城県牛久へ。今度は、農水省系某研究所で「外来生物」の取材である。
 牛久に着いたのがちょうと昼時だったので、目についたイタリア料理屋で食事。キャベツとアンチョビのスパゲティ、スープ、サラダ、すべて絶品。飲み物までついたランチセットが、たった924円である。日ごろ、やる気のない飲食店に腹を立てているので、感動してしまった。東京なら1500円でも充分に流行るだろう。感動したので詳しく紹介しておく。JR常磐線牛久駅東口の階段を下りてすぐ右の建物の2階。イタリア家庭料理「システィーナ」。すごく小さな店で、ランチタイムだというのにがらがらだった。店員もすごく感じのいい人たちだった。正当に評価されることを望む。また取材で牛久に来たときは、ここで食べよう。
 タクシーで研究所へ。研究者から90分ほど話を聞き、資料をもらう。農水省にはほんとに世話になっている。かといって、遺伝子組み換え食品について甘くなるわけではないが。(しつこいっつーの。)
 帰りは時間が早かったせいか、ほぼずっと座れた。
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 生井英考著『ジャングル・クルーズにうってつけの日』(ちくま学芸文庫)をあわてて読んだ。なぜ「あわてて」かというと、生井の新作『負けた戦争の記憶』(三省堂)が話題になっており、僕が注目しているある評論家も好意的に紹介していたので、読みたくなったのだが、その前に、1987年発表の前作『ジャングル・クルーズ〜』を読んでみようと思ったのだ。実は、10年来の友人で翻訳パートナーである山口剛氏から、それこそ10年近く前に読むよう勧められていたのだが、機会を逃してしまっていた。数年前に古本屋で1993年発行の文庫版を買っていたのだがそのままになっていて、数日前やっと読もうと思った次第である。なんせ分厚く、読むのに決意がいるのだ。ちなみに三省堂からは『ジャングル・クルーズ〜』の新装版も出ている。 『ジャングル・クルーズ〜』は、副題に「ヴェトナム戦争の文化とイメージ」という副題がついているとおり、ヴェトナム戦争がアメリカの文化やアメリカ人の精神にどのような影響を及ぼしたかを、政治経済上の事実のみならず、映画や写真、建築、文学などざまざまな媒体を素材にして丁寧に読み解いた労作である。戦争についての本といえば、つい戦史的なものを想像しがちだが、著者は文化史が専門とあって、まさに戦後アメリカの一時期の文化史/精神史をわかりやすく切り取った、とてもいい仕事だ。これまで読んでいなかったことを後悔している。とりわけ映画好きの人には読むことをお勧めしたい。さまざまジャンルのアメリカ映画を見るうえで、きっと、より深い見方ができるようになるはずだ。索引、文献リストも充実しており、資料的な価値もきわめて高い。
 願わくは、僕らの世代にくっきりと傷跡を残している湾岸戦争についても、同種、同レベルの仕事がなされることを。

6月某日(木)
 午後、遺伝子組み換え食品反対運動の勉強会に出席。天笠啓祐氏と杉田史朗氏が遺伝子特許の問題について話すのを聞く。きわめて有益。実は、名古屋から来た某さんと話すべきことがあったのだが、途中で退出してしまい、ちょっと申し訳なかった。
 天笠氏や杉田氏の話は有益だったが、参加者をまじえたその後の議論がやや情緒的、感性的なものに近づいたのは、個人的には残念であった。ああいう話が続くのだったら、僕はこの集まりにはあまり近づきたくない。詳細は述べないが、ナチスを典型として、人類史上引き起こされた狂気は、人々の非言語的、非論理的な感性を利用したものであったのは周知の事実である。そして消費者運動にも、同じ方向性のものをときどき感じてしまうのだ。だから心から共感を感じることができないと思うことがある。
 また、名古屋から来た某さんがたいへん有益な資料をたくさん提供してくれたのだが、僕はこういうご厚意を受けると、かえってその資料を利用し、書くことにためらいを感じてしまう。運動内部で出回っている資料を利用して、それらをさも自分で入手したかのように、何冊もの本を書いている某評論家をどうしても想起してしまうからだ。
 帰宅すると、インターネット書店デオデオから、Kristin Dawkins, Gene Wars : The Politics of Biotechnology, Seven Stories Press が届く。本かと思ったら、薄っぺらいパンフみたいな冊子だった。「遺伝子戦争 バイオテクノロジーの政治学」というタイトルの通り、バイオテクノロジーの発達と自由貿易の進展、先進国の知的所有権戦略がどのように関係し合って、どのように推移してきたかを管轄に整理してある。まさに本日聞いた話だ。

6月某日(金)
 南船橋にて、新聞屋からもらったタダ券でロマン・ポランスキー監督、ジョニー・デップ主演『ナインス・ゲート』を観る。とくに良くも悪くもなし。中世に書かれた稀覯本に秘められた悪魔の呼び出し法をめぐる話。どうせなら、中世ヨーロッパ史やオカルト、古書などについてのウンチクをいろいろとちりばめた作品に仕上げてほしかった。
 移動のあいだ、図書館で借りた坪内祐三著『古くさいぞ私は』(晶文社)を読む。本にかかわるエッセイ集。古本好きは僕と通じるものがある。

6月某日(土)
 夕方、千駄木にある古本屋「古書ほうろう」に行く。大学時代の友人であるMが共同経営している店である。この店は僕の友人がやっている店ではあるが、ひいきをまったくヌキにしても、すばらしい古本屋である。たびたび書いている通り、僕は大の古本好き、古本屋好きで、かなりの数の古本屋に日常的に入り浸っているが、この店は間違いなく5本の指に入る。いわゆる古本屋にありがちな暗く、かび臭い雰囲気はまったくなく、かといって最近増えつつある郊外型古本屋のような量販店的な雰囲気もまったくない。古本屋にしては広々としており、若い店員たちの好みのCDがBGMとしてかかっている。おそらく彼らの友人とおぼしきアーティストらの本やCD、ポスターなども飾られている。肝心の売り物となっている本だが、守備範囲はそれなりに広く、なかでも音楽、映画、美術などが充実しており、文学、思想、社会問題などの本もきちっと揃っている。本好きなら、誰でもうなづく品揃えと言っていいだろう。もちろん文庫本やマンガもある。エロ本はほんの少しだけ。何よりすごいのは、それらの本を分野別にきちっと分類していることだ。ある分野だけの本を探したいときにも便利だろう。そのうえ、著者別アイウエオ順に並べられている。
 行き方も書いておこう。地下鉄千代田線千駄木駅下車、二つある改札のうちどちらを出ても、とにかく不忍通りを左に歩く。左側を見ながら歩き、交番を過ぎて、しばらくすると「古本」という看板が見える。
 ちなみに僕が今日買ったのは3冊。山口宏、副島隆彦著『裁判の秘密』(宝島社文庫)、芝田進午編『論争 生物災害を防ぐ方法』(晩声社)、吉田司著『ビル・ゲイツに会った日』(講談社)。
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 夜、出版フリーランサーの集まりに参加。大手版元4社、プロダクション1社の人から、プロダクションやフリーランサーとの仕事、いわゆる「外注」の現状についての話を聞く。暗い話ばかりであったが、現実を知ることができて、きわめて有益。
 参加していた石井政之氏と雑談。買ったばかりのノートパソコンを見せてくれた。軽い! うらやましい。MACでこのような軽量タイプのノートが出たら、少々高くてもすぐ買うのだが……。アップルはそんなに技術力がないのか? また、石井氏は最近、大量の仕事をゲットし、次々とこなしているようだ。見習わなくては。

6月某日(日)
 自宅にて、短い原稿を書き、メールで某誌編集部に送付。資料整理ほか雑務。(つづく)
 
 

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