「初のアフガニスタン人間開発報告は経済と教育は向上しているが、貧困、不平等、不安定といった脅威は進んでいると示している。新アフガニスタン政府は国際社会とともに、今再発を防ぐために行動しなければならない。アフガニスタン人への人間の安全保障の必要性に対しての責任であるべきである。」(報告要旨)
主要な人間開発の指標 :
アフガニスタンの人間開発指数(HDI)は世界中の人間開発報告(2004年)が位置付ける177カ国の中で最低に近い171番目となっており、アフガニスタンの近隣国よりも大きく遅れを取っている。
妊婦死亡率は多くの発展途上国よりも60倍高い
成人識字能力は30%以下
子どもの20%は5歳になる前に死亡。5歳を越えて生存した者でも45年以下の寿命
(エミリー・パーキン)
(taken from: AREU A-Z Guide August 2005)
国家開発計画(NDF)は政府により、アフガニスタンの開発、復興の指針として立案された。それには3つの主柱の下に16ものナショナルセクターについて詳述し6つの分野横断的な問題を識別している。NDFの初稿は2002年4月に一般市民の手に入るようになり、多少の修正はされたものの、NDFは政府とドナー計画の第一の基準である。
財政部はNDF推進の統括をし、NDFに記述してある各16セクターは国家開発プログラム(NDPs)とみなされ対応する諮問委員会(CG)が監督する。これらの16ものCGsは各セクターの復興と開発プロジェクトを計画し、協議するフォーラムとして機能する。そして各CGは、国家開発予算(NDB)の公的投資計画 (PIP)に提案することにより各セクターの計画を実行する。
当初のNDFは6分野のNational Priority Programmes (NPPs)を他の活動より優先するものをして打ち出していた。そして2004年4月にカルザイ首相はさらに6つの優先プログラムの作成を発表した。それらのプログラムは、まとめてNPPsとして知られており、政府の優先政策である。しかし、多くのNPPsは最も深いつながりのあるNDPに組み込まれている。
I -人的資本および社会保護 |
II -物的インフラ |
III -復興環境 |
分野横断的問題 |
難民および国内避難民(IDPs) 教育および教育施設 健康および栄養状態 生活および社会保護文化、メディア、およびスポーツ |
輸送機関 エネルギー、鉱業、およびテレコム 天然資源 経営管理 都市行政管理 |
貿易および投資 行政および経済運営 司法 国家警察、法執行機関および安定化 アフガニスタン国家軍 地雷解除 武装解除・動員解除・社会復帰 |
性別環境人道的問題 人権 監視および評価 麻薬対策 |
国家開発戦略
アフガニスタン国家開発戦略(ANDS)は2005年4月、アフガニスタン開発フォーラムで最初に提案された。ANDSの全体的なビジョンは発展を促進させ、冨を生み、貧困および脆弱性を減少させることが目的である。 ANDS設立以前は、2002年4月のNDFおよび政府の2004年3月のSecuring Afghanistan’s Future reportが政府の方針および発展と復興の資源配分を指導してきていた。しかしながらNDFおよびSecuring Afghanistanは急速な協議にて準備されたため、努力の欠如がみえ、またアドバイスの実行が限定的であった。
ANDSは、あらゆるレベルの民間部門、NGO、市民団体、国際社会の代表者の慎重な協議により情報提供され、ANDSワーキンググループはいくつかの省庁が関わる監督委員会の指導の下、協議および起草するよう形成されてきた。 ANDSは8項目に分けられる: 1. インフラおよび天然資源 2. 農村開発 3. 人的資本および男女平等 4. 社会保護 5. 経済ガバナンスおよび民間部門開発 6. 国際および地域協力 7. 良い統治(ガバナンス)および法治 8.安全保障
各項目にはワーキンググループがあり、それには地方政府、援助資金供与者、UN、NGO、市民団体、技術者らの代表者を含む。最初のANDS草稿完成は2005年9月予定である。同年12月または2006年1月には政府により最終的に承認されると見込んでいる。同時期にロンドンにて開かれる援助国会合と併せてANDSはアフガニスタン政府の暫定版貧困削減戦略ペーパー(PRSP)として目的を果たす。
(JEN ー 赤堀久美子)
アフガニスタンで活動する国際機関は1)国際連合の諸機関、2)赤十字関連の組織、3)NGO、4)国際金融機関(世界銀行、アジア開発銀行など)の4つに分けることが出来る。NGOは1979年より緊急支援、人道的支援、復興支援、能力開発、難民支援などの分野で様々な活動を行なっており、2005年4月までに国際NGO現地NGO合わせて2,000を超す団体がアフガニスタン政府に登録し、実際には3,000程度の団体が活動していると言われている。
主な国連機関
UNAMA(国連アフガニスタン支援団):アフガニスタンの国民和解および再建につながる政治プロセスの促進をはかるため、1993年にUNSMA(国連アフガニスタン特別ミッション)創設、2002年3月、UNAMAに改編した。2002年以降は人権問題や法整備、武装・動員解除などの分野での活動を行っている。2004年の選挙以降は新政府と議会の支援活動に重点を置いている。
UNDP(国連開発計画):1950年代より、平和構築、治安の促進、法制度の尊重を掲げ、開発援助や公共施設建設支援などの活動を行なっている。
WFP(国連世界食糧計画):現在活動内容は緊急支援から復興と再建に移行してきており、政府機関やNGOと協力して、Food For Education, Food For Training, Food for Work のプロジェクトや、戦争未亡人や社会的弱者のための保育支援−などを行なっている。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所):難民・帰還民支援(帰還・定住促進、人権保護など)、関連機関やアフガニスタン当局との協力でシェルターの建設事業を行なっている。
UNICEF(国連児童基金):ポリオ、麻疹、破傷風などのワクチン支援、ビタミン剤の配布、産科設備の建設支援、小学校の生徒数の増加支援、カリキュラムと教材の開発、教師のトレーニング、水と衛生分野の支援などの事業を行っている。
WHO(世界保健機関):小児衛生の改善、伝染病対策、メンタルヘルスケア、戦争による負傷者のアフターケアなどの活動を行なっている。
FAO(国連食糧農業機関):農業・環境復興の支援、食料確保と自立国家への支援として食料栄養管理の支援、天然資源の安全維持管理、農業と地域開発の促進、代替可能な生計手段の開発支援などを行なっている。
UNOPS(国連プロジェクトサービス機関):農村復興プログラム、道路建設、政府機関などの建物建設、元兵士の再雇用支援、障害者総合プログラムなどを行っている。
UNIFEM(国連女性開発基金):女性省の支援、アフガニスタン女性センターの建設、女性団体の活動支援、女性団体、他の国連機関、政府機関同士のネットワークの確立、女性の人権拡大への助成、女性のリーダーシップ育成などの活動を行なっている。
UNCHS(UN-Habitat・国連人間居住センター):衛生事業(EUの協力)、仮設住宅・水供給事業(日本の協力)、緊急地方自治体公共事業支援、住宅再建支援などを行なっている。
UNFPA(国連人口基金):保健省と女性省の協力のもと、特に健康と教育のインフラ整備を目的として母体健康サービスや女性教育支援、同分野で活動しているNGOの支援を行っている。
IOM(国際移住機関):政府や現地コミュニティーを通じた移民流出の緊急対応、海外移住した技術者の帰還促進事業、緊急支援後の社会復帰プログラム、出稼ぎ労働者の支援、帰還民の就職支援、違法取引の取り締まり、医療・公衆衛生プログラム、情報・教育の提供などの支援を行っている。
UNMACA(国連アフガニスタン地雷除去センター):2012年までに地雷除去を完了する計画で、15の国内外の組織と7,200人のアフガニスタン人職員による事業が実施されている。
赤十字団体 ICRC(赤十字国際委員会):病院支援活動やリハビリセンターなどで地雷被害者の支援や浄水、衛生などのサービス、ARC(Afghan Red Crescent、現地の医療支援団体)への支援などを行っている。 IFRC(国際赤十字・赤新月社連盟):災害対策、医療施設の支援などを行なっている。
金融機関 World Bank(世界銀行):2002年から2005年7月までに、贈与(グラント)として4億5680万ドル、無利子の借款(ローン)として4億3640万ドル、計8億9320万ドルの資金提供をアフガニスタンに対して行なっている。今後2006年7月までの1年間で新たに2億6700万ドルの贈与を支給する。これらの資金は主に貧しい地域の雇用機会の提供、インフラ再建、教育や基礎衛生サービスの支援に使われる予定。
Asian Development Bank(アジア開発銀行):2004年度は5つの借款として合計2億500万ドルの資金を道路再建、空港再建、農業政策改革、組織の機能強化、携帯通信ネットワークの創設などの事業に融資した。その他1000万ドルの贈与が貧困削減日本基金(JFPR)を通じて行なわれ、更に14の技術支援贈与として合計1360万ドルが行なわれた。今後2005年から2008年にかけて10億ドルの支援が行なわれる予定で、2002年から2008年までの合計で15億ドル以上の支援が行なわれる事になる。
(PWJ ー 平井礼子)
1979年から1989年のソ連侵攻とその後の長年の内戦や旱魃などを逃れるために多くのアフガニスタン人が国外および国内での避難生活を強いられた。国外に流出したアフガン難民の数はピーク時に500万〜600万人、国内避難民の数は110万人〜150万人と推定され、世界最大の難民危機と言われた。
2001年9.11後のアメリカによる空爆によりタリバン政権が崩壊し、2002年1月にアフガニスタン暫定政府が設立された後、多くの難民・国内避難民が帰還している。2002年3月から2005年2月にかけて350万人の難民(パキスタンから約230万人、イランから120万人)と50万人の国内避難民が自主的に帰還したと推定される。順調な帰還が報道される一方で、多くの地域の治安状況が悪いことや帰還後の生計確立の見通しがつかないことが帰還の阻害要因となっている。依然として推定185万人がパキスタン、推定80万人がイランに難民として滞在している。今後パキスタンやイランで難民への支援などが打ち切られ、帰還が半ば強制的に促進されることが危惧されている。また、推定18万人の国内避難民が主にアフガニスタンの南部・西部で避難生活を余儀なくされている。
既に難民・国内避難民が帰還した地域でも、治安状況、旱魃、雇用機会の不足や農地へのアクセス問題などが生活再建における大きな障壁となっている。帰還が集中するカブールなどの都市部でも人口増加による住環境等の悪化などが懸念されている。帰還した人々、および今後帰還する難民・国内避難民の生活再建のためには、アフガニスタン政府を始め、国際コミュニティーによる長期的なコミットメントが必要である。
(JVC ― 谷山博史)
復興の過程にあるアフガニスタンで、医療保健の分野は人々のニーズ、政府の政策、国際支援の対象などすべてにおいてもっとも重要視されている分野のひとつである。アフガニスタンの医療の劣悪な状況は世界的にみても最下位に位置する。それは23年に及ぶ戦争の影響もさることながら、戦争以前の時代に地方遠隔地に行政サービスが届いていなかったことをも意味する。
アフガンの医療事情を見てみよう。2002年に6ヶ月かけて行われた政府の調査によると 全国の調査対象となった保健・医療施設の3分の1がなんらかの損傷を受けており、そのほとんどが戦争の影響である。保健・医療施設がカバーできる人口は全国平均で27,232人に1施設である。これには地域によって大きな偏りがあり、ファイヤーブ県、ガズニ県、ゴール県、ウルズガン県の四県は40,000人に1施設、最低水準の5郡にいたっては100,000人に1施設があるだけである。
医療事情の悪さは女性と子どもに深刻な影響を与えている。2004年の政府の発表では、1歳未満で亡くなる子どもは1,000人中165人(日本では4人)、5歳未満では257人、妊産婦の死亡率は10万人中1,600人(日本では6,5人)と非常に高い。人々の罹患率の高い病気には下痢、気管支炎、破傷風、マラリア、ポリオ、結核などがあるが、下痢による脱水やマラリアで死ぬ子ども、出産時の破傷風などで死ぬ母親が多いのが特徴である。
またアフガニスタンでは慣習上女性の外出や親族以外の男性との接触が制限されているために、医療施設があっても女性が行きにくかったり、男性医師の診療を受けられなかったりするケースが多い。女性の医師や助産師がいなければ難しいお産を診てもらうことは不可能である。しかも女性の医療従事者は男性の3分の1に過ぎず、地方ではさらに比率が低い。ヌーリスタン県にいたってはその比率は60対1である。
遠隔地の住民にとって医療施設でのアクセスはきわめて悪いが、最も近い施設にアクセスできたとしても、施設・機材・薬品の不足とスタッフの不足で適切な処置を受けられないことが多い。しかし、より高位の施設への移送は道路事情の悪さや人々が移送経費の支払いができないために2%にも満たないのが現状である。インフラや生計の問題が医療に反映しているひとつの例である。
アフガニスタン政府が2004年に発表した政策ペーパー“Health and Nutrition Public Investment Program(PIP)” では、全国一律に公平な医療サービスを提供することを目的に、”Basic Package for Health Service” に基づいて以下の重点目標を提示している。 1) 乳児死亡率と幼児死亡率(5歳未満)を下げる。そのために予防接種を普及し下痢や急性気管支系疾患を減らす。
2) 妊産婦の死亡率を下げる。そのために女性の医療従事者(特に助産師)を育成し地方の診療所に派遣する。また緊急産科センターを各所に設ける。
3)栄養失調や栄養不良に伴う疾病の上昇を食い止める。
4) 結核、マラリア、レシュマニアなどの感染症対策に取り組む。
基礎的な医療施設が誰によって運営されているかというと、NGOだけで運営されているものが47.3%、政府とNGOが共同で運営しているものが27%である 。保健医療におけるNGOの役割の大きさが伺える。アフガニスタン保健省は、NGOの重要性を認めつつも、NGOを政府のコントロールのもとに置くために2つのことをおこなった。先に述べた全国一律の保健サービスを保証するためにBPHSを定め、すべての医療保健機関にその遵守を義務付けた。さらに、全国を県ごとあるいは数郡からなるクラスターに分け、領域内郡部の保健サービスを一括して特定のNGOに委託する方式を採用した。これを通称“Performance Based Partnership Agreement(PPA)”と呼んでいる。しかしこのコントラクトアウト方式はドナーである世界銀行、EU、USAIDが導入し、NGOの入札についても実権を握っている。
この方式は、政府運営のクリニックをNGOがサポートする(コントラクト・インという)よりNGOがクリニックを直接運営するほうが効果的だったとするカンボジア等での経験に基づいて導入されたといわれている。しかし、この方式にはクリニック運営の持続性について疑問がもたれていることも事実である。NGOは国際ドナーと政府から30ヶ月の契約でクリニック運営を委託され、クリニックスタッフの給料にも責任をもつのであるが、契約終了後政府に運営が移譲されても政府がNGOと同額の給料を支払える保障はない。(PIPの年間予算ではGDPの1%から1.5%を見込んでいるが、2015年時点でさえ歳入の50%を外国ドナーからの援助に頼らざるを得ない)また、あまりにトップダウンの政策を一律的に地方に当てはめようとするために、ある一定の領域が特定のNGOに委託されたにもかかわらず、これまで長く活動していたNGOが排除されたために、クリニックが機能麻痺に陥る危険性が生じている。
最後にコミュニティー・ヘルスの状況について簡単に触れてみたい。クリニックにアクセスできない人々が広範に存在するアフガニスタンでは、女性が安全な出産をいかに可能にするかが大きな課題である。2003年のUNICEFの調査によると、出産の介助は医師・助産師・看護婦によるものが8%、伝統産婆(TBA)によるものが8.8%、残りは親戚や友人などに頼っている。アフガニスタン政府やNGOはこれまで、地域で伝統的に出産介助を専門にしてきたTBAを活用することで母親や乳児の死亡率を下げる努力をしてきた。アフガニスタンではごく稀なケースを除いてコミュニティー・ヘルス・ワーカー(CHW)といわれる地域に根ざした保健士は存在しなかった。
しかし、保健省は近年WHOなどの助言を受け入れて伝統産婆のトレーニングの代わりに新たにCHWの育成を重点政策に取りいれ、PPAに加わるNGOすべてにCHWの育成を義務付けた。この政策転換によってこれまでTBAを育成してきたNGOもTBAへの支援を止め、アフガニスタンで歴史的に存在したことのないCHWの育成をあらたに始めるようになった。地域に根ざすべきCHWをトップ・ダウンに育成することに疑問を唱える声もあり、CHWの育成がうまくいったとしても地域で定着するためには10年はかかると見られている。その間これまでトレーニングされたTBAが支援を失って埋もれてしまう恐れがある。
PPA方式のコントラクト・アウトやCHWの政策のように、現在のアフガニスタンの保健政策は外から導入された新思考を現場の実情を無視して当てはめようとする傾向がある。現状を国際的な経験に基づいた支援によって改善する努力が求められると同時に、アフガニスタンの現状にあった方式を適正利用する努力が必要である。現場で積み上げられてきた経験と知見が政府の政策に反映されるようにするためにも、NGOは現場でのプロジェクト実施のみならず政策への提言活動も求められているといえる。