NHK ETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」
第2回「問われる戦時性暴力」
(1月30日放映)についての見解と公開質問状

渋谷区神南2-2-1
NHK海老沢勝二会長 殿

2001年2月6日

「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)
代  表  松井やより
事務局長  東海林路得子

 去る1月29日から2月1日まで4回にわたるETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」は戦時下の暴力を人道に対する罪として裁くべきだというテーマを国際的な広がりの中でとりあげた企画として評価しております。しかし、シリーズ第2回の「問われる戦時性暴力」で放映されたものは、当初の企画を大幅に変更し、「女性国際戦犯法廷」(以下「法廷」と記す)について視聴者に誤解と偏見をもたらす内容となっており、この番組制作に全面的に協力した私たち「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)は到底この番組を受け入れることができません。

 その理由は以下のとおりですが、この理由に基づく公開質問状にNHKとして責任ある説明を求めます。

取材協力の経過

 VAWW-NETジャパンは主催団体の一つとして昨年12月 8ー12日東京で開催した「女性国際戦犯法廷」を紹介する番組(シリーズ第2回の「問われる戦時性暴力」)を作りたいとのNHKからの申し入れを受け、「法廷」準備過程からの取材撮影に協力致しました。戦時性暴力が人道に対する罪として裁かれるようになった世界的潮流の中に「女性国際戦犯法廷」を位置づけ、公正な映像記録にすることが企画意図だと理解したからです。

 特に、「法廷」が近づいた昨年11月に入ると、VAWW-NETジャパンのメンバーやボランティアの女性たちの国際的な活動ぶりや運営委員会などの準備状況を克明に取材撮影することに協力し、起訴状など膨大な資料を提供し、VAWW-NETジャパン代表は「法廷」の目的や組織などについて一時間以上のインタビューも受けました。

 そして、「法廷」に参加した被害者や国内外の参加者が異口同音に「感動した」という感想を述べ、海外でも「天皇有罪の歴史的判決を下した」と大々的に報道されたこの民間法廷が、これまでの綿密な取材の成果としてきちんと視聴者に伝わる番組になると信じていました。

 1月に入ってから、このETV2001シリーズを右翼が知り、この番組に反対しているという情報が私たちにも入りましたが、私たちはNHKが右翼やその他外部権力の介入をはねのけて、企画通りの番組が放映されると信じていましたので、ぜひともこの番組を見るようにと、会員を通じて広く呼びかけ続けてきました。

 番組の問題点

 しかし、放映されたシリーズ第2回は、私たち「法廷」主催者が想像もしていなかった内容展開であり、「法廷」について視聴者に重大な誤解を与えるものでした。私たちはこの番組に大変驚き、また怒りを感じました。

 その理由は次の通りです。

1)「女性国際戦犯法廷」といいながら、その日時や会場や参加者数などの基本的な事実を全くあげず、肝心の主催団体(VAWW-NETジャパンなど)・主催団体代表者(松井やより共同代表や尹貞玉、インダイ・サホール国際実行委員共同代表など)が一切紹介されなかった(シリーズ第3回には公聴会主催団体名や主催者バヒダ・ナイナールの発言があった)こと、 

2)「法廷」の最も核心である、誰が起訴されたか、どんな判決(天皇有罪、国家責任)が出たか一切説明がなかったこと、

3)「法廷」では20余人の被害者証言があったのに、2人だけの証言をごく短く取りあげたのみで、「法廷」内もほとんど映し出さなかった(公聴会では何人もの証言をとりあげ、会場もずっと映し出していた)こと、

4)2回もの長時間を割いて秦郁彦氏の次のように「慰安婦」の存在を否定しようとする不正確かつ片寄った発言を放映しながら、それに対して「法廷」主催側に反論

・訂正する機会が与えられなかった(反論・訂正をさせないのは、番組制作者が秦氏 と同じ認識をもっているともとれる)こと、

・被告弁護人がいないというが、「法廷」ではアミカス・キュリエ(法廷助言者)と して弁護士が被告の国の立場をきちんと説明した。

・ 裁判官と検事が アメリカ人だと非難したが、二人ともアフリカ系アメリカ人であり、戦時性暴力を初めて人道に対する罪で裁いた旧ユーゴ国際戦犯法廷関係者である。加えて、他の地域の裁判官、検事もいるのにそれにはふれなかった。

・ 被告は東京裁判ですでに裁かれたのだから、一事不再理で同じ被告を二度裁くのはおかしいというが、東京裁判において被告は性暴力、特に性奴隷制犯罪については問われていない。

・ すでに時効であると主張しているが、戦争犯罪や人道に対する罪に時効はないことが国際的な合意になっていることは、シリーズ第1回の番組でも強調されていた。

・被害者証言に証人がいないと言い、証言に信憑性がないかのような発言があったが、秦氏は判決日のみを傍聴し、「法廷」中の起訴状の中味や証言は聞いていないはずであり、従ってこのようなコメントをする立場になく、この発言は無責任である。 「法廷」では、証言した一人の北朝鮮の被害女性については連合軍側に残されていた証拠が提示され、多くの証言者の証言もその他の資料で裏づけされており、また、被害者同士や地域の目撃証言が提示された。

・ 売春は当時合法行為であり、「慰安婦」は親によって同国人の周旋屋に売られ、商行為をしていたというが、秦氏は朝鮮半島以外での強制連行、集団強かんと直結している慰安所については触れていない。93年の官房長官談話でも、「詐欺的、暴力的」徴集を認めており、この「法廷」ではアジア大平洋全域にわたる性奴隷被害の実態を証言と日本軍や連合軍側の文書証拠によって明らかにし、さらに、指揮命令系統や責任者もはっきりさせた。これらの解明は、各国の被害者支援グループや歴史、法律などの専門家が力を結集し、2年以上にわたる国際的な調査活動の成果である。しかし、番組では、秦氏ら右翼がこれまで主張してきた「慰安婦」商行為論や公娼論が繰り返されただけで、「法廷」で明らかになった事実も法理論も全く視聴者に伝えられなかった。

5)中立であるべき司会者が「法廷」の欠陥を何点かあげて番組を始め、そのままで番組が終わっていること、「法廷」憲章にも判決概要にも、国家主権に基づく裁判と全く同じ適正法手続き(due process)などは考えられていない民間法廷であるこの「法廷」の特色は明記されているにもかかわらず、その点について述べられなかったことは、この「法廷」がいかにも不当で恣意的な裁判であるかのように印象づけるものである

6)2名のコメンテーターの発言が不自然にカットされ、本人たちの日ごろ主張する発言がとりあげられていなかったこと、これには、本人の了承を得ないで勝手に番組に適合する部分だけ選んだ印象を受けた

7)裁く、つまり処罰(刑事裁判)がテーマであるにも関わらず、その言葉は全くなく、特集テーマでない「慰安婦」損害賠償請求訴訟を詳しく紹介し、補償の問題に重点をずらしていたこと、

8)国民基金を紹介したときに、委員を辞退した三木睦子夫人をわざわざ映していたのも意図があったように印象づけられたこと、

9)番組終了予定時間より5分ほど短く放映され、更に内容も、シリーズ第2回のタイトルが出る前に、前回の映像を不必要に長く流したり、趣旨と関係のないフリップを何度も示したことは、不自然な時間の空費であり、元々編集されていた「法廷」の映像を急遽カットした分の時間を穴埋めしたとしか思えないこと、

10)「法廷」に対し、海外、国内からの参加者の感動の感想が多数寄せられるほど熱気に満ちた4日間の「法廷だったにもかかわらず、その雰囲気は全く伝えられなかったこと、

11)「法廷」を批判、非難、誹謗する発言を放映しながら、それらに対する主催者側の言い分を全く重ね合わせないという、一方的で、歪んだ偏向報道であり、公正中立を守るべき公共放送として許されない内容であること、

12)加害国、被害国、その他の国々の女性たちの国際協力で開廷した「法廷」の名誉を毀損するものであり、特に、被害者を侮辱し、人権を侵害するものであること、

13)日本以外の国に関わるシリーズ第1.3.4回目と比べても、この第2回は裁かれる側の日本政府などの戦争・戦後責任に触るのを避けていることで、戦後責任に加担する結果になっている、と判定せざるを得ないこと、

 以上の理由によりVAWW-NETジャパンは、NHK会長宛て公開質問状を送ることに致しました。

NHKへの公開質問状

 なぜこのような番組を放映したかについて、公共放送であるNHKは視聴者、取材協力者に説明責任を持っていますので、以下の質問にご回答をお願いします。

1)当初の企画意図に沿って直接の番組取材制作者が作成したものを、NHKはどのような過程を経て、あのように変更したのですか。

2)変更することを取材協力者、対象者であるVAWW-NETジャパンになぜ説明しなかったのですか。

3)NHK外部の番組制作者はある時点からは外され、内容も知らされないままNHKが最終的に番組を制作したというのは事実ですか。

4)「法廷」の規模や構成、趣旨説明などが一切出されなかった理由は何ですか。

5)「天皇有罪」などの肝心の判決内容を紹介しなかったのはなぜですか。天皇の戦争責任にについては触れてはならない、と今回の番組制作過程で決定したのですか。 それとも、すでにNHKにそのようなルールがあるのですか。「天皇有罪」の法的根拠がないと判断されたのですか。

6)「慰安婦」問題で専門学者から批判されており、しかも「法廷」には最終日の判決日しか参加していない秦郁彦氏をなぜ急遽訪問取材したのですか。彼の不正確な内 容に対し、当事者に反論・訂正の機会を与えなかったのはなぜですか。

7)番組出演者にも番組内容を事前に知らされなかったというのは事実ですか。

8)この番組について、右翼がNHKの建物に入るなど妨害があったと聞いていますが、どのような右翼団体がNHKに対してどのような要求をしたのですか。それにどう対応したのですか。右翼のホームページに「NHKは追加取材に走り始めた」と書いてあるそうですが、右翼の妨害に対するNHKとしての姿勢はどのようになっているのですか。

9)自民党など政権与党の政治家からの働きかけがあったのですか。あったとすれば、どのような圧力でしたか。それにNHKはどう対応したのですか。予算を削られはしないかという危惧などで政治的圧力を無視できないのですか。

10)あの番組制作に、外部からの介入の影響はなかったとしたら、NHK独自の判断でなぜあのような不公正な番組を作ったのですか。

11)アナウンサーの最初の問題提起も、反論の機会が無ければ「偏向」になりますが、なぜわざわざ言わせたのですか。

 以上の11項目の質問に対して、誠意ある回答をお願いします。

 VAWW-NETジャパン600余人の会員だけでなく、延べ5千人(海外参加者を含む実人数約2600人)の「法廷」参加、傍聴者、特に8カ国64人の被害女性、国内、海外の無数の「法廷」支持者、「法廷」を報道したメディア、特に大きく報じた海外メディア、そして「法廷」に関心を持つ視聴者が、被害女性の人権と報道の自由に関わる問題として、回答に注目しています。

 「法廷」の報道について外国に比較して国内メディアがきわめて消極的な中で、ETV特集が「法廷」を取り上げることにより、辛うじて広く伝わると期待していただけに、大変残念です。戦争中、例えば南京虐殺について海外メディアは詳しく報道したのに、日本のメディアは一切報道しなかった状況を思い起こします。再び、国家主義勢力が強まる現在、報道の自由が侵され、国民は真実を知る権利を奪われるという事態に私たちは大変危機感を持っています。それゆえに今回の「番組」改変を、歴史の闇に葬り去ってはならないと思います。

 日本人だけではなく、この「法廷」を開き、支持した世界30数か国の人々すべてに、真相を明らかにするように強く求めます。

 回答はVAWW-NETジャパン代表および運営委員と直接会っていただき、口頭および書面で 2月14日までにお願いします。

VAWW-NETジャパン
代  表  松井やより 
事務局長  東海林路得子

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